話は咲見(さきみ)暖斗(はると)の初陣の、2日前にさかのぼる。

「通信が、繋がらない？」

子(こごい)莉(ひかり)は、戦艦「ウルツサハリ＝オッチギン」のブリッジで、その報告を聞いた。

怪訝そうな顔をして振り返る。

ボブヘアーに黒縁メガネの、真面目そうな印象のの子だ。

視線の先には、通信員用の席に座り、を乗り出してパネルをのぞき込む、渚(なぎさ)咲(ひなた)の姿があった。

「ええ、5分前から、何度も再試行してるんだけれど。あと、民間のネットも早朝から繋がらないみたい」

彼は、髪をし明るめの茶に染めて、肩まで垂らしている。

2人とも附屬中――國防大學校附屬中學――の制服を著ている。

肩やに徽章が付けられた、黒に近いカーキの制服はまるで軍服の様だが、渚は腳をわにしたタイトスカートを著ているので、中學2年生にしては、隨分と大人びて見えた。

ちなみに子は膝下タイトスカートだ。

「おかしいわね」

子は、知的な顔立ちを曇らせる。

「紅葉ヶ丘學生、聞いてる？」

彼は、耳のインカムに手をあてて問いかけた。すぐに返事が返ってくる。

「聞いてるよ。子學生。繋がらないね。海軍本部とも、運営とも、隨伴艦とも。一応監視カメラやセンサー類は、隨伴艦が『いるであろう』方角に集中させとくよ。どうする？　航行続ける？」

そう言ったのは、この戦艦の頭脳の中心部、電脳戦闘室(エンケパロス)にいる、紅葉ヶ丘(もみじがおか)澪(みお)だ。

彼も附屬中からの乗艦で、その軍服の様な制服にを包んでいる。

だが、それに反してそのルックスは、おかっぱ頭にリボン、膝下のノーマルスカートに白ソックスの、見た目小學生みたいなかわいいの子だそうだ。

電脳戦闘室(エンケパロス)は、ブリッジのすぐ奧にある。――のだが、彼はそこに引き籠っているので、その容姿を知っているのは同じ附屬中の2名しかいない。

他の中學からの參加者で、彼を見たものはまだいなかった。

「‥‥一応、このまま航行を続けよう。で、不測の事態だと確定するなら、乗員全員で今後の事を相談しないといけない」

子が落ち著いた口調でそう答えると、渚も続けた。

「警戒レベル2のメールをれときましょう。みんなの軍用スマホに」

90分後、停止した艦の食堂に、僕、咲見暖斗(さきみはると)を含めた16人の乗艦メンバー全員が集まっていた。

壁にプロジェクターのを投影し、その前に立つのは子さん、傍らに書記の様なじで渚さんが座っている。

殘りの14人はその2人に正対する形で、思い思いの場所に座った。

あらためて全員集まったけど、僕以外全員子。すっげえ居づらい。

僕も、馴染みの七尾(ななお)麻妃(まき)のとなりに座った。その向こうには、麻妃と友達の、逢初(あいぞめ)依(えい)さんも座っている。3人とも同じ「みなと第一中學」の2年生で、逢初さんとは春から同じクラスだ。

ただ、まともに話をした記憶はない。

今日も、彼は僕と目があうと軽く會釈をし、僕も一応あいさつを返した。そんなじだよ。

子さんが口を開く。

「もうみんな、知ってると思うけど、運営本部や、隨伴艦と連絡が取れなくなりました。ネットも繋がらないよね。それで、隨伴艦から先ほど、アナログな方法で指示をもらったんだけどそれを伝えて、みんなの意見を聞きたいと思います。‥‥あ、便宜上、私が司會をやるわね。‥‥いい？　うん。ありがとう。それじゃ‥‥」

そう、この絋國が誇る最新鋭の空中戦艦、「ウルツサハリ＝オッチギン」は、16人の中學生で運用されている。僕を含めて、全員みなと市の中學2年生だ。

絋國の中でも軍港として古い歴史のある、みなと市。毎年夏休みに、地元の中學生を募集して、空飛ぶ軍艦の験乗船をしている。名付けて「ふれあい験乗艦」だ。

だけど、今年は特別だった！

何でも、萬年人手不足に悩む絋國軍が軍艦をＡＩ完全自化したとかで、その果を外國にもアピールするために、

16人のガチ中學生だけで、約1週間のガチ航海をさせる！！

という無理ゲーを企畫した。（＃ガチ中二16人で戦艦回してミタ）

當然、危ない武とかは封印してあるし、軍事機的なヤツも僕らには見えないようになってる。‥‥‥‥と思う。

それに、というか當然なんだけど、ちゃんと本の軍人さんが乗ってる隨伴艦がフォローしてくれる、ということで、「なんだ無理ゲーじゃないじゃん！　軍艦カッケー！！」　ってノリで、みなと市中の中學生がこれに応募した。

で、ほぼ1年かけて選抜試験もかねた研修をけて、選ばれたのが僕ひとりと子15人！

あれ？　子が15人‥‥‥‥で、男子は、僕ひとり。

正直聞いた時は固まった。かったって喜んだ直後だし。――――同級生には「ハーレムだ」ってからかわれるし、なんか知らないけど「いい気になるなよ！？」って突っかかって來るヤツとかいたし。

なんでこの男比率になったのか、――――運営のチョイスに悩むよね‥‥。

あ、ちなみに出航式の時には、新聞社が來た。「ノスティモみなと」だけじゃなくって、ちゃんとした全國紙がね。でも‥‥‥‥。

航行二日目にして、運営さんと連絡つかない。ネットも無理。隨伴艦も行方不明？

普通に詰んでない？　‥‥‥‥これ？

あ～。いきなりのトラブル発生かあ。こんな中2だけでどうしろと？　まあ、仕切ってるのが、「附屬中3人娘」だから何とかなりそうな予はある。

附屬中、というのはみなと市にある軍港に併設されている、國防大學校って高級軍人さん育用の大學の、付屬中學の、みなと校、のこと。

もうなんか、制服だけじゃなくて、雰囲気が軍人さんなんだよね、むっちゃ厳しいってウワサだし。

子でも、「○○學生」って呼び合うし。よく友達がマネしてるよ。

確か、「戦科」の渚さん、「戦略科」の子さん、「報処理科」の紅葉ヶ丘さん、だっけ。

あ、紅葉ヶ丘さん初めて見た。背小っちゃいな。2人が、「カワイイカワイイ」言ってた子だっけ。

う～ん。子同士の「カワイイ」はアテにならないと先輩が言ってたけど、このケースは例外じゃないかな。3人ともそれぞれ人だね。――まあ、この験乗艦に選ばれた子達、ぶっちゃけ可い子率高いんだけど。

で。

隨伴艦からの指示は、信號旗だったらしい。

「不慮ノ事案出來(しゅったい)。本艦罷ル。貴艦ハ別命或ル迄遊撃シ艦態保持ニ務メヨ」

だって。けど、よくわからないから、子さんがざっくり翻訳してくれた。隨伴艦は、

「思いがけない事が起こったので、これで失禮するよ。君たちはブラブラ戦いながら、命令を待ってて。あ、撃沈されないようにね」

ということらしい。わざわざ難しく言う意味あんのかな。

しばらくして。

「貴艦ハ中ノ鳥島へ向カワレタシ。ポイント＝カタフニア　ニ帰投スベシ」

と、指令が來たそうな。これは僕でも意味が分かる。逆に拍子抜けした。

「中の鳥島」――國際島名「ガンジス島」。絋國列島から南の海上にある、海という鉄板の上に乗ったお好み焼きみたいな形の島。直徑で50キロくらいあるんだっけ。

あと、「ポイント＝カタフニア」――そのガンジス島にある、絋國軍の軍事資集積基地、だって。そんなトコ中2の僕らに教えちゃっていいのかな？

まあ、ガンジス島で、僕がＤＭＴに搭乗しての、Ｂｏｔ掃空験のカリキュラムがあったから、どっちみち向かってたんだけどね。みなと市からだと、2日くらいで著くらしい。

「とりあえず、指示の通りにするしかないんだけど、それにあたって、あらためてこの艦のリーダーを決めようと思うんだけど」

子さんはそう言った。

そう言えば、直前合宿で、誰が艦のリーダー、艦長をやるかって話があって。

もちろん軍の正式な艦長ではなくて、臨時艦長、1日艦長的なヤツなんだけど、それは「艦長枠」で選ばれた子さんが當然やるべき、で話はついたハズ。

「私が艦長をやると、一旦は決まったんだけど、事態が変わったでしょう？　ホントに私でいいのかな？　みんな」

ああ、そういう事か。でも、他に適任者もいないし、いいよね、と僕は思う。

「咲見くん。あなたはどう？　この艦唯一の男子だけど」

いきなり振られた。僕はゆっくり立ち上がる。

「‥‥ええと、僕は、子さんでいいと思います」

普通にそう答えた。

「みんなもいい？」

特に反論する人はいなかった。麻妃(マッキ)を見たら、コッチを見て何かニヤニヤしてした。その先の逢初さんは、目を伏せてすましていた。

「じゃあ、仮にではありますが、艦長として、正式に、皆さんにお願いがあります。僚艦の指示を実行しようとすると、今すぐにはみなと市には戻れないです。あと、この辺りを回遊するとすれば、掃空作業――電脳地雷との戦闘行為――も可能があります」

地雷、戦闘、と聞いて、みんなしざわざわしたけれど、今度は傍らの渚さんが、聲を発した。

「それで、艦長の指示のもとで、私がこの艦の封印――武裝の封印を解除していくのね。電子ロックはこの紅葉ヶ丘學生が解除します。でも、電脳地雷――Ｂｏｔに近接されたら、艦に被害が出ます。だから、咲見くん」

また呼ばれた。

「ＤＭＴ(デアメーテル)で、あなたにこの艦やみんなを守ってほしいの。どう？　やってもらえる？」

そう聞かれた。僕に、「戦え」って。當然危険を伴う任務だ。

さあ、どう答えようか。

※「危険ならイヤだなあ」と思ったそこのアナタ！！

ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます！！

ブックマーク登録、高評価が、この長い話を続けるモチベになります。

ぜひぜひ！　お願い致します！！

評価　☆☆☆☆☆　を　★★★★★　に！！

↓　↓　このＣＭの下です ↓↓

Twitter　いぬうと　ベビアサ作者　https://twitter.com/babyassault/

Twitterでの作品解説、ネタバレ、伏線解説、ご要があれば。