《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第8話 突撃する赤ちゃんⅠ②
「あっ! ごっ ごめんなさい」
彼は慌ててを起こす。
「‥‥‥‥失禮しました。もう、ミルクを飲む前段階なのに、何やってんだろね。わたし」
「前かけがダメならタオルでも何でもいいよ。パイロットスーツが汚れなければいいんでしょ?」
僕はそうフォローしたつもりだったが。
「せっかく作ったのに、何かくやしいよ。暖斗(はると)くん。次回までには著けやすい新型前かけにしておくから、1回だけ、こうやってもいい?」
意外と逢初(あいぞめ)さんはこだわるタイプだった。僕の言葉が著火點だったのかな? 績のいい人って、できるまでやり続ける人だって、擔任の先生が言ってたような。
‥‥彼の自分ルールへのこだわりが、「わチャ験」の功の元だったりするんだけど、それが悪い方向に向かってしまう事もある。――――特にこの旅では。
彼は、膝上10㎝のプリーツスカートのまま、僕のにまたがると、両手を僕の肩の辺りに置いた。
「!!」
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僕は思わずのけぞった。といっても、頭しかかないが。
なんか逢初さんに押し倒されたような恰好だよ。
「暖斗くん。協力して。痛いかもだけど、ちょっとだけ、首を上げてほしいの。お願い」
――――これ! ダメなやつだ!! 今醫務室に誰かがってきたら絶対誤解されるヤツ!!
そして逢初さんは、前かけ結びにむきになっちゃってるから、自分がものすごく大膽なことをしてる自覚が多分無い。‥‥‥若しくは、僕の事を本當に「赤ん坊」と思ってるか。
しょうがないからツッコむのは諦めて、言われた通り首を持ち上げる。
「う‥‥ぐぐ‥‥いてて」
MK(マジカルカレント)後癥候群の狀態で無理にをかそうとすると、筋痛みたいな痛みがくる。まあ、そもそも僕の意思ではあまりかないんだけど。今回は、ヒモを結ぶスペースぐらいは何とか作れたようだ。
それを見た逢初さんは短く気合いをれると、僕の首に両手をまわして首後ろで前かけのヒモを結び始めた。
その間、僕の目前で揺れる、綺麗に切り揃えられた前髪のことは、できるだけ考えないようにした。僕のをいでいるセーラー服と、揺れるスカートのすそのことも。
集中していて気付かないのか、彼の息が首まわりに微かに當たっていた。
「よし~」
僕の顔のすぐ上で、彼が言った。うまく結べたようだ。
彼のピンクのエプロンとお揃いのアップリケが付いた前かけは、僕の首もとに無事裝著された。
彼は満面の笑みで、とても満足げにアップリケの犬とうさぎを見ているけれど、やはりこの意匠(デザイン)は中2男子としてはに著けさせられるのは恥ずかしい。
――――けれど、彼が満足そうなので水を差さないようにするか。
「じゃあ、やっとミルクね。お待ちどう様」
逢初さんが、セーラー服に白いドクターズコートの「醫者コーデ」から、ピンクのエプロン姿の、「介護コーデ」に著替えてきた。今日はシュシュで髪を纏めて上げてもいる。
「バタバタしちゃったけど、これで落ち著くね。またまぶたでお話しよ」
前回の様に、ベッドの背板を45度に上げてから、左手をするっと僕の首後ろに廻して枕にする。僕の方にを寄せてきて、右手でスプーンを持ちながら、逢初さんが話しかけてくれた。
僕は、この前の取り決め通りの表でのシグナル、YESの意味で、両目を1回閉じる。
「こうやって、ミルクを飲むのは2回目だけれども。もう慣れた? 暖斗くん」
僕は眉をしかめる。これはNOの意味。
「そう。‥‥そうだよね。ふふ。わたしも。さんざん姪っ子たちにミルクあげるのをやらされたんだけど、まさか同級生の男の子に、だもんね。」
僕は、自分の肩が彼のピンクのエプロンのに、當たってしまわないかと気になっていた。
けれど、彼は心得ているのか絶妙な距離を保って、ささやかな空間を空けている。
「わたしはね。Botが近づいた時部ブロックへ避難したんだけど、ずっとモニターで見てたよ。DMTって、あんな風に戦うんだね。」
オレンジの夜燈がともされた醫務室は、靜かだ。
「不思議だよ。とっても不思議。外であんな風にどっか~ん! って戦ってたのに、帰ってきたら醫務室で、わたしに抱かれてミルク飲んでるんだもんね。暖斗くん。まるで赤ちゃんみたいに」
「んん~ゔ!」
僕はスプーンで口をふさがれながらも、大きくNOのリアクションをした。
「‥‥違う? ふふ。違わないよ? あなたは、不思議な、『突撃する赤ちゃん』だよ。わたしにとっては‥‥ね。ふふ」
「ぶ~!」
思いっきり眉をしかめて、不満を表してはみたけど。
し、表を曇らせる逢初さん。
「でもね。絶対無理はしないで。今現在の暖斗くんのは、酸値が高めなの。やっぱり、MK多めに使ったからかもね。前回より、癥狀が強くでてるよ」
だけど、目を閉じながらミルクをくれる彼の、口もとがし微笑んだ。
「ありがとう。今回も、敵をやっつけてくれて。みんなを、艦を守ってくれたんだよね。でも、無理はしないでね。MK(マジカルカレント)後癥候群は、を消耗させるのが主癥狀だから、限界を超えて使うと危険だよ」
逢初さんは、ふうっとため息をついた。
「MKって、たぶん諸刃の剣なんだと思う」
「暖斗くんは、この國では貴重な男子なんだし、サジタウイルスだってまだ殘ってるし。新型の気配もあるし。さっき、『DMT戦は危険だから僕がやる』って言ってくれたのは、子的にはすごくうれしいし、男らしいと思うよ。でも、男子は希で補充がきかないんだから」
彼は、その側にたまったを絞り出す様にをよじった。そしてこう言った。
「『命を使い捨てる仕事』なら、山ほどいる子がすべきなのよね。――本當は」
「――――!」
彼の言葉に、今は、僕はあえて反論しなかった。スプーンで口が塞がっていたから、というのが理由の半分だからだけど。
50年前のパンデミック、サジタウイルスの蔓延で、この國では男子が生まれて來なくなった。
それから世界が変わり、人々の意識も変わってしまった。
それは違うよ。逢初さん。
そう言える日は來るのだろうか。
醫務室は、相変わらず、靜かだった。僕のバイタルサインを示す電子音と、スプーンを運ぶ逢初さんのかけ聲が流れているだけだった。
「あのね。聞いて。暖斗くん」
彼の言葉に、熱をじた。
「‥‥‥‥わたしは醫務室(ここ)で待ってるから、ぜったいに無理はしないで。無事に帰ってきてね。ちゃんと、シーツもマクラも洗って、いざという時のお薬も準備して、ずっと、ずっと、――――待ってるから」
「‥‥‥‥そしてまた、わたしののなかで、こうやって赤ちゃんみたいに。――わたしから‥‥‥‥ミルクを飲んで」
YESのかわりに、僕はまた両目を閉じた。
約束するよ。‥‥‥‥赤ちゃん扱いされるのは不本意だけれども。
あと、また「腕」を、「」って言っちゃってるけど、今はツッコまないでおこう。
いいよね? 許してよ。「この『』の中に帰ってくる」、を心の中のささやかなモチベにするくらい。
一応こっちは中2男子なんだし。
ね?
※実は逢初さん、暖斗のためにシーツとか枕カバーとかきれいに洗ってるんですよ。‥‥毎回。
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