《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第9話 右手Ⅱ②

機能回復せず。夕食も経口にてミルク。就寢から30分経過、バイタルサインに異常なし、っと」

わたし、逢初(あいぞめ)依(えい)はPCにそう打ち込んで、モニターの向こうの、暖斗(はると)くんの寢顔を見る。無邪気な寢顔だ。

「ふふ、本當に赤ちゃんみたい」

初陣の後、醫務室に運ばれてきた暖斗くんの右手は、微かだけど震えていた。

無理も無い、とわたしは思う。初出撃の前にけた説明では、DMT(デアメーテル)が普通にけばBotに負けることはありえない、と、艦長の子(こごい)さんは言っていた。

とはいえ、負けて死ぬ確率が0%になる訳ではないのだ。

正規軍、大人達の居ない狀況で、暖斗(はると)くんは、重い役割を背負ってしまったのでは無いだろうか? わたしが知る限りの暖斗くんは、そんなに戦爭向きなステロタイプの人柄ではない。

戦闘が終わって、首から下がけなくなり、醫務室に運ばれる。

怖くない人などいないのでは?

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そして、この艦も、なんだけど、彼を取り巻く環境の変化が早すぎる。この先、軍人としての決斷が必要になった時に、彼は苦しんだりしないだろうか?

わたしは暖斗くんのそばに近づくと、あらためて彼の「右手」を見つめた。

あの日、確かにしだけ震えていた右手。たぶん、正直に彼に伝えてしまったら、暖斗くんの心やプライドを傷つけてしまうのではないか? 今は、暖斗くん自DMTを駆った高揚や初陣の張で、気が張っている狀態、‥‥だとすると、その気持ちが切れた時が気がかりだ。

「そういえば、『新兵のメンタルヘルスとPTSD対処法』って、電子書籍にあった‥‥醫師薬出版の。癥例別のフローチャートが付録されてる本だったよね。確か」

‥‥あとで目を通しておこう‥‥。

「右手」は、わたしの方へ投げ出されたまま、手のひらを仰向けにしている。そっと、手に取ってみる。

今日は、震えてない?

あの時とっさに、「突撃する赤ちゃん」なんてからかったけれど、しでもそのプレッシャーが紛れてくれればいい。

もう一度、彼の「右手」を両手で持って見てみた。――――そういえば、わたしって、男の手をちゃんと見た記憶がないかも。家には母と妹2人。父は、「本家」の方に足が向いていて、ウチの家には滅多に寄り付かないから。

「‥‥‥‥右手。そういえば右手って」

手のひらを見つめるわたしの目に涙が浮かぶ。

それはき日々の、ちょっぴり切ない記憶。

それは、い頃の、ちょっぴりあたたかい思い出。

ふと気が付くと、わたしは吸い寄せられるように、右頬を暖斗くんの手のひらに押し當てていた。

そのままベッドに倒れ込む。

を貓のように丸くたたんで、ベッドの脇、暖斗くんの足橫の狹いスペースにをすべりこませた。

そして。

そのまま、彼の手のひらを枕にしてゆっくりと目を閉じる。

そうだ‥‥初出撃以來、仕事と心配事がいっきに増えて、わたしもあまり眠れていなかったような。

「それにしても、暖斗くんの手はあったかいな‥‥‥‥」

彼の心臓が脈打つたびに、大量の熱が右頬から流れ込んでくるようだった。

その熱は、そのままわたしの心臓や肺にり込み、を溫(ぬく)ませて、やがて全をじんわりと包み込んでいく。

その熱に、安堵をじるわたしがいる。

気が付くと、わたしは、彼の傍らで、靜かな寢息を立てていた――。

*****

僕は、夢を見ていた。「これは夢だ」と自分でわかるタイプのヤツだ。

DMTに乗っていた。

たくさんのBotに囲まれて、だけどサリッサを繰り出してどんどん敵を倒していった。

ただ、中々敵が減っていかない。サリッサを持つ右手がだんだん重くなって、かなくなってきてしまう。と、そこに、急に背中に人の気配をじる。DMTのセンサーに反応したんじゃなくて、「じる」っておかしいんだけど。

でも夢だから。

後ろの草原に誰ががいて、僕を応援してくれてるみたいなんだけど、DMTで踏まないように戦うのがけっこう大変だった。

結局、右腕の力を振り絞って槍をふるい、最後のBotを仕留めて、後ろの「誰か」に振り返った――ところで目が覚めた。

「‥‥‥‥」

ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥。

バイタルセンサーの電子音が、靜かに響いている。いつもの醫務室だ。

そうだ。夕食を摂ってから、逢初さんにの回りのお世話をしてもらいながら――寢てしまったんだった。醫務室(ここ)だと時間の覚が分かりづらい。時計は6時を示していた。

「もう、朝か」

両手を突き上げて欠をした。

「いててて」

まだ、中に筋痛のような痛みはあるが、もうしはけるようだ。

と、思ったと同時に、右手の手のひらに違和じた。

右手が重かった。

そんな夢をさっきまで見ていたような。

右手だけ回復が遅い? 上に何か‥‥‥‥乗っていた?

「なんだこれ」

右手の薬指と小指の間に、頭髪? か何か、が1本挾まっていた。30センチくらいか?

黒くてストレート、細い貓っ。たぶんしなやかなじだ。

「失禮しま~す」

醫務室に逢初さんがって來た。

「あ、おはよう」

「おはようございます! 暖斗くん。あ、やっぱり。けるようになってるね。バイタルと糖値記録させて。あと酸素飽和度も」

そう言いながら彼は時刻をチェックする。

「ぴったりのタイミングで來たね」

「あ~それは。言ってあるよね? わたしの軍用スマホには、この艦の全員のの狀態送られてるからね。醫師権限でリアタイでね」

そうだった。僕らは持ち込んだ私の自分スマホとは別に、験乗船用の「軍支給品のスマホとパッドPC」を持たされてる。

その中の「アノ・テリア」という通話アプリで、個別に、または全員と、個別通話、チャット、メールとかができる。

今は、國中のネットが繋がらない狀態だけれど、戦艦の中央CPがホストになって、艦の部と周囲、ある程度までならスマホとして普通に使えるじだ。検索も出來るし、電子書籍も畫も見れる。

ただし、國のネットが通常運転だった出航2日目までで更新は止まってて、中央CPがセーブしてるデータまでだけど。

気になるドラマや畫の更新が止まったって、子達はブ~ブ~言ってたなあ。

「脈拍とかが異常に上がったら、わたしのスマホに通知がくるから。咲見くん、こっそり変なことしちゃダメですよ」

「‥‥‥‥!」

そう逢初さんに言われて、思わず「ぶほあ!」ってなりそうになったが、こらえた。

今なら確信できる。彼は天然で、このセリフに深い意味は無いのだ! ――と。

だけど。

‥‥‥‥僕の右手が何だったっけ。忘れた~~。まあいいか。

※「え~? 変な事ってな~に~? 教えて依さん」と彼に訊きたいそこのアナタ!!

ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます!!

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Twitter いぬうと ベビアサ作者 https://twitter.com/babyassault/

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