醫務室のオレンジの燈りの中で、逢初さんは靜かに語りだした。

それは、彼の「家の事」だった。

「うちは、お父さんの『1番目の嫁の家』なんだけど、『2番目の奧さんの家』よりも先に、わたしが生まれたのね。で、その後に『2番目の家』で男子誕生。わたしのお母さんは、先を越されたってすっごく悔しかったみたいで」

絋國の重婚制度。そのと闇。

よくある話だね。男子が生まれにくい絋國では、みんな當然男子に生まれてきてほしい。

アフターサジタ――50年前のサジタウイルス蔓延後――ウイルスが一段落して、さあこれから経済とか々正常化するぞ、って時に、とんでもないウイルスの置き土産が発覚した。

男が生まれて來ない。生まれても、その確率は以前の6分の1。

國防とか、やっぱり男が必要なので、この絋國では、生まれる子供を増やす事で、男子の數を何とか維持しようとした。その分激増した子は、數ばかり多い厄介者、みたいになってきちゃった。

數の減った男は正式に4人までと結婚していいことになって。消費稅は30％に上がり、――社會保障費――そういう重婚世帯の補助に使わてれいる。

で、重婚ＯＫ、となると、4人の妻でだれが男子を生むか、みたいな事が、すごい重要になっちゃってる。

なんか、世界を見たら國によって、ふたり以上のと結婚するってのは制度として珍しくないそうだけれど、この絋國は1回、一夫一妻制になってるからね。

この重婚制度にせざるを得なかった、とはいえ、やっぱり々めたらしい。の人だって、中複雑だよね。

そして。

男子出産ガチャ。

1番目の結婚相手、「第一席(ファースト)」が最上格の正妻、なんだけど、他、例えは「第二席(セカンド)」、「第三席(サード)」、「第四席(ラスト)」で男子が生まれると、そっちの家が「本家」になったりする。

僕の母親達だって、井戸端會議でそんな話ばっかりしてるみたいだ。

「結局うちは、あと同母妹(いろも)2人が生まれて、男子には恵まれなかったのね。お父さんは、足もお財布も、本家の方ばっかに向いて、ほとんどウチに來なくなって。もちろん國の手當があるから、食べるに困るとかは無いんだけど、‥‥やっぱり々とね」

絋國では、貴重な男子には全てが用意され、割り振られる。僕から彼にかける言葉が思いつかない。

「お母さんは、『依(えい)が男だったら、こんなことには』って、今だに‥‥」

「だから、わたしはお醫者様になって、他の取れる資格も全部とって。結婚できなくていいから、お母さんと同母妹(いろも)達と笑って暮らせるようになりたいの」

逢初さんは、下を向いて、両手をギュッとしながら言った。決意のこもった、でも悲しそうな目をして。

僕の日常は、

學校へ行って、部活をやって、ゲームして

學校へ行って、部活をやって、マンガを読んで

休みの日はバイトをして

そうじゃない日は、友達とわちゃわちゃふざけて

そんなじだ。彼の様に、將來の事を考えたり、目標のために努力したり、なんてことは、1ミリもしていない。逢初さんがすごい大人に見える。僕はまるで子供。いや、赤子(ベイビイ)なんだ。

でも！

‥‥‥‥でも！　言う資格が無くても、頭に何も浮かばなくても、赤子(ベイビイ)でも、僕を突きかす何かが、手足のかないの中に湧き上がってきた。

「笑ってほしい」

僕は、そう呟いていた。長い沈黙のあとに。本當はその後に、「君の笑顔は素敵だから」ってセリフが頭に思い浮かんでたんだけど、さすがに無理だろ。言えない。これは。‥‥‥‥慌てて打ち消したよ。

「え？‥‥‥‥なに？」

彼は、伏せていた顔をし上げる。

「‥‥‥‥僕は君に、笑ってほしいんだ。その、君が悲しいをすると、どうしてか、僕も悲しいんだ。だから」

この気持ち伝わるのだろうか？　彼を必死に見つめた。

「あっ！　ごっ！　ごめんなさい！！　わたし、変な事言って。気分悪くさせちゃった。何自分語りしてんだろ。ごめんなさい」

逢初さんが頭を何度も振り下ろすのを、言葉で止める。

「違うよ！　君のせいじゃない。僕が勝手に悲しくなるんだ。僕の前で無理をして笑顔を作れって意味じゃないよ」

「違うの？」

「うん。ゴメン。中2の僕には、逢初さんを何とかしてあげる事とかは、全然思いつかないし、正直何もできないと思う。でも、逢初さんが、無理せず、自然でも、笑顔で暮らしていける事を願うよ」

「‥‥‥‥そう、そういう意味、そういう意味か。うん。ありがとう。なんかそう言われると、なんかちょっと、うれしいよ」

「うん、そういう意味。それに、子から、そういうの上話みたいなの聞いたの初めてだから、なんかちょっと、僕もうれしい」

「よかった」

「僕さ、逢初さんの親の話とか聞いて、思ったんだ。僕もいつかは結婚すると思うんだけど」

「いつか、誰かと、ね。この國の『結婚して子供を作れ。出來れば男子』って同調圧力スゴイからね。じゃあ、『人嫁4人でハーレム作るぞ～』とか？」

「ちょ！？　違うよ。どうやって大人になるかのイメージないのに、嫁の數なんてその先の事だよ。第一、誰かを好きになった‥‥‥‥とかもないし」

「あ、そうなんですか。聞いちゃった。うふふ」

「あ。しまっ‥‥‥‥」

うっかり子にこんなハズい事をらしてしまったけれど、いつの間にか逢初さんが笑ってくれた。まあ、よしとしよう。自ネタだと思って。

「麻妃ちゃんとかは。馴染みでしょ？」

「麻妃(マッキ)？　あーね。よく聞かれるけど、ほんとの兄弟より兄弟っぽいからね。異としては見てないよ。あっちもね。よく3人でつるんでたから、そう思われるだけで」

「3人？」

「ああ、うん。僕と麻妃(マッキ)と子がもう1人。小屋敷(こやしき)小での3人組。今はみなと第二中學(にちゅう)に行ってる子」

「あ～。ほら。やっぱりいるのね。馴染みのお嫁さん候補」

「いや、中學になってからハナシしてないし。あ、麻妃(マッキ)とはまだつるんでるみたい。そうそう。この験乗船も応募してたみたいだけど、落ちちゃったって」

「あ～、小學校の仲良しが再會して旅をする、とかドラマチックだったのにね。実現すれば」

「でね。僕が結婚するとすると、1つ決めてることがあるんだ」

「だからハーレムでしょ？」

「違げ～し、‥‥もう。將來、1人なのか4人なのかはわからないけど、僕と結婚した人が、僕のせいで悲しい気持ちになるのはなんかヤだな、って。僕はせめて、僕と一緒に暮らしてる人達には、全員幸せになってほしい。‥‥‥‥そう思うんだ」

「あははははは」

唐突に、彼は笑い出した。堪えられない、ってじで、をよじって。

もちろん、僕は笑うような面白い事を言った自覚がない。

「暖斗くんって！　変わってるね。普通男の人は、『どうしてもなら嫁にもらってやるぞ！　ども！』って立場だから、そんな事考えないよ？」

「‥‥そういう風に思うキッカケがあったんだ。いつか話すかもだよ」

僕は真顔で言う。

「そうなんだ。笑ってごめんなさい。ウチも暖斗くんみたいな父親だったら、しは良かったのかな？」

し考える様子。大きな黒瞳がゆらめく。

「じゃあ！」

逢初さんはスツールを立ち上がって、人差し指を立てた。プリーツスカートがふわりと揺れる。

「暖斗くんの、未來のお嫁さんたちに、ぜひ、やさしくしてあげてね。生まれてきた娘さんたちにも、ね」

「約束できる？　それがわたしの願い。暖斗くんパパと、奧さんと。あ、奧さんたちと。そして、生まれてくるの子たちに。暖斗くんがそのままでいてくれたら、きっとそうなる。みんなで毎日笑って暮らすの」

僕はしポカンと口を開けていた。つまりどういう事？　僕は彼に「笑顔で暮らす事」を願い、彼は僕に「家族と笑って暮らす」事をんだ、‥‥‥‥って事？

「うふふふふ」

僕を見つめる彼は、満面の笑みだった。

※「その願い、葉ったらいいな」とカッコつけるそこのアナタ！！

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