《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第19話 ヒゲ ①
Botを無事撃破した僕は、予定通りMK(マジカルカレント)後癥候群でけなくなった。
もう4回目の出撃なので、どれだけMK戦闘をすれば発癥するのか? 分かって來てもいいハズなんだけど、発癥する閾値(いきち)が低すぎてダメなんだって。
閾値(いきち)ってなんだよ?
と、ツッコんでみたかったけどやめた。MK戦闘なしの初陣から癥狀が出てるんだから、要は僕が乗れば全部発癥するってことでしょ。
「でもね。それだけ暖斗(はると)くんには重力子エンジンをかす才能があるってことじゃない?」
醫務室について、待ち構えていた逢初(あいぞめ)さんはそう言ってフォローしてくれた。戦闘が始まったのが0時前だから、今はもう夜中だ。
逢初さんの髪がかすかに濡れている。お風呂上がりみたいだ。
と、いうか、時間的にそうなんだろうな。
夜燈りの醫務室で、僕は訊いた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、後癥が出るって事は、重力子回路に干渉する脳波が良く出た結果だし、MK能力は『1000人に1人』、の能力よ」
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「‥‥‥‥前にも言ったけど、それウチの中學に1人いる確率じゃん。全然レアじゃないし、チートでもないし。正直僕のDMT(デアメーテル)縦とかは月並みの評価點だしね」
「それはしょうがないよ。だって暖斗くんはプロのパイロットじゃないんだもん。止むをえずBotと戦わなきゃならなくなって大変だけど頑張ってるよ? あ、子さんと渚さんが褒めてました。『敵に囲まれそうになって、とっさにバックステップしてMK戦闘に切り替えたのは良かった』って」
あの2人は軍人さんの卵。それもかなり績優秀な。だから褒められたのは正直うれしかった。
ただ あまり喜ぶリアクションをしてしまうと、逢初さんにガキっぽいと思われそうだから我慢した。
でもうれしい。
「一回の戦闘でBot 8機も撃破しちゃうんだから、もう撃墜王だね」
「んん? 逢初さん、軍の撃墜王の定義知らない――――ね?」
「うん、知らない」
「やっぱり。僕が倒してる小型のBotは、撃破數にはカウントされないよ。あれは電脳無人地雷、自立型ドローンなんだ。前の戦爭の、敵國のただの置き土産だよ」
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ちょっと上から言う僕の言葉に、彼は大げさに眉をしかめた。
「え~? ‥‥それじゃああんまりよ。うちの子が8機も倒したのに」
「誰がうちの子ですか! ミルク飲むからって赤ちゃんいじりはやめてよね。‥‥‥‥ってか、なんかいつもよりふざけてない? 逢初さん?」
逢初さんはベッドに寢ている僕に、真っすぐに向きあうと、白セーラーの上にはおったドクターズコートの襟を正した。
「ふふ。だってね」
彼はそう言って一呼吸おくと、伏し目がちに言った。
「昨日の『宴』。暖斗くんの話を聞いて、しだけど、暖斗くんの事が理解できた気がするの。艦のみんなに、なんで『タメ口でOK』って言うのか? なんでこんなに子にやさしいのか?」
「いや、別に、やさしいって訳じゃ‥‥‥‥。僕は、ただ‥‥」
僕は慌ててごまかした。
今日は、ってもう日付が変わってるけど、今日は変な日だ。國防大學校附屬中の子に戦闘面で褒められたり、逢初さんにやさしいって言われたり。
「僕が思うのは、あんまり理不盡とか、子が可哀想なのを見るのはイヤだな、ってくらいで」
「そんな事言ってくれる男子がいないんだよ。それに――」
湯上りなのかわからないけど、逢初さんの頬がいつもより若干づいている気がする。艶玉っての? もなんかツヤツヤしてるような。
やっぱり湯上りだからか。
僕は続きを促した。
「それに、何?」
「‥‥‥‥。いえ、ミルクが熱ったまったみたい。飲む?」
毎回思うんだけど、DMTが著艦したら僕が醫務室(ここ)に來るのは、逢初さんだったら正確に判るハズなんだけど。毎回ミルクが出てくるのが遅い気がする。アクシデントとかを想定して、來てから準備してるのかな?
逢初さんは一旦バックヤードに行って、ピンクのエプロンに著替えてきた。手にはミルクも持っている。
「お待たせ」
「うん。そういえば最初髪の上げてたりしたね」
「そうね。以外と邪魔にならないから。でもリクエストがあれば髪の上げるよ?」
彼が僕の傍らに座る。
リクエストなんて、そんな恥ずかしい‥‥‥‥え? してもいいの?
「そういえば、リクエストで思い出したよ。じゃ~ん♪ 暖斗くん。これ」
「‥‥‥‥えーと。何それ?」
僕は呆気に取られた。逢初さんの口もとには、黒々とした、いわゆる付け髭がついている。
蕓人がコントとかで使うような、端がピン! とはねたヤツだ。
「だって。暖斗くん言ってたでしょ。『宴』の時に。今しいは男友達だって。だからわたし‥‥ゴホン! このボクがその男友達になろうじゃないか!」
「‥‥‥‥逢初さんて前からちょっとそういう兆候あったけど、頭良すぎて逆に殘念な人?」
「えっ!! 即答? 間を置かずに即答で、そのリアクション? ええ~!?」
彼は取りした。不服そうだ。
「もう! ひど~い! せっかくわた‥‥‥このボクが!」
まあまあ本気だったみたいだ。う~ん。その気持ちだけはありがたく頂いておこう。
「で、そのヒゲはどうしたの? まさか逢初さんの艦外持込み品?」
「あ、これはね。渚さんにデータを貰ったの?」
「は!? 渚さん!?」
今日イチ驚いた。
あ、もう日付は変わっているが。
「あのね。みんな1人1冊 紙の本を持って來なさいって言われてたじゃない? 乗艦のオリエンテーションで」
ああ、そうだった。僕も持ってきている。
「渚さんが持って來たのは小説で、主人公が道に落ちてたヒゲを拾う話なのよ。それがキッカケでヒロインの子高生と出逢うの」
「あー。なんか聞いた事ある。面白いみたいだね」
「その小説の1巻の購特典で、主人公が拾う口ひげの3Dデータが付いてるのよ」
「‥‥‥‥」
――何でも特典にすればいいでもないだろう。
「はああ。ヒゲ。その企畫が通った會議に同席したかったな」
「暖斗くんはやっぱりまだロマンチックな話は興味ない? ヒゲは運命の2人が出逢う最重要キーアイテムなんだから。でね。また整備班さん達に頼んでそのデータから実起こししてもらったの。‥‥キャ‥‥2Dプリンターで」
「うん。やっと話が見えてきた。ちなみにその時七道さんは?」
「‥‥うん。『逢初またか? 戦闘配備中にか?』 って呆れられちゃった」
やっぱり彼は殘念な方の子なのか。僕の中の「逢初さんメーター」がどんどん「殘念」の方へ傾いている。
逢初さんのに付いている口ひげは、見れば見る程蕓人がコントで使うようなヤツだった。
その逢初さんに、僕がミルクを飲ませてもらってる畫は、なかなかにシュールだと思う。
これで立派な「醫療行為」なのだそうだ。‥‥‥‥泣けてくるゼ。
で、飲みながら僕は、逢初さ――いやヒゲ初(ぞめ)さん、にさっき言われた言葉を思い出していた。
「暖斗くんはやっぱりまだ――――?」って?
別にロマンチックな事に興味持つのが必ずしも大人の定義じゃないと思うし。僕は大人になってもそういう話に興味は持たないよ。たぶん。
‥‥‥‥でも子から、逢初さんから見た「大人の男」って、そういうとかの話もスマートにするんだろうなあ。ドラマみたいに。――まあ、僕にはムリそうだ――。
‥‥‥‥そんな事を考えながら、彼の腕の中でまどろんでいく‥‥。
*****
「あ、やっぱり。寢ちゃった」
わたしがスプーンをそっと彼の口もとから離すと、暖斗くんは無邪気な寢顔のまま、力なく首をもたげた。さっきまで何か言いたそうに、わたしのを見つめてたけど。
‥‥髪がまだ濡れたままだ。ドライヤーをかけようとした所でBot出現アラームだったから。濡れ髪をまとめるとからまる事があるから、髪を上げないのは正解だった。
こんなペットリつぶれた髪型を男子に見られるのは恥ずかしかった。前髪も作れてないし。でもプールの授業とかで、「もう見られてるし」と思いこむことで納得した。
実際は、わたしのことを見ている男子なんていないとは思うけれども。
さて、今回のレポートはさすがに明日やろう。そう思って暖斗くんの右手を見たら、やはりまた手のひらを上向きにしている。
「ふふ」
思わず笑みが洩れてしまった。
と、同時に、かつて右ほほにじた彼の手のぬくもりも‥‥‥‥思い出してしまった。
――――この空調の効いた醫務室で、冷えた濡れ髪に溫を奪われた、――わたしの頬。
し溫もりがほしい。
さっさと髪を乾かして寢なければ、と思いつつ、彼のベッドの前で足が止まってしまった。
「‥‥‥‥そうだ。‥‥‥‥4回目とはいえ、暖斗くんはMK後癥が出てる狀態。急変があるかも知れない。誰かがそばにいないと。‥‥うん。そうね」
こんな見えいたお為ごかしでも、口に出すと気が楽になった。髪がからまない事を祈りつつ、また彼の右手にそおっと首(こうべ)を乗せて、わたしは瞼を閉じた。
「ごめんね。またお邪魔します。暖斗くん」
※「しかしなんちゅうサブタイトル‥‥」と思った そこのアナタ!!
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