《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第22話 下の名前②
隣の食堂へ向かった。
「おっ。依(えい)じゃん。んん? なにそのテープ。あれからずっと醫務室だったん?」
そう話しかけてきたのは、麻妃ちゃんだった。
「そうだよ。麻妃ちゃんも深夜の出撃ご苦労様」
「あ~。しんどかったね。自分のKRM(ケラモス)の點検やってから寢たからね。それよりどやった? 暖斗くんとの初夜は?」
麻妃ちゃんはわたしの顔を見てニヤニヤしながら言った。わたしはすまして返す。
「――別に。彼はとっても紳士で、ベッドの上ではすごく優しかったよ」
「え? は? ‥‥‥‥それマ?」
「冗談よ。彼はけないんだから、何かあるワケないでしょ?」
「あせった。依がそんな冗談言うなんて誰も予想しないし」
――――まあ、麻妃ちゃんに噓は一切言ってないんだけど、ね?
わたしは、人差し指を立てて、暗記してる「旅のしおり」の一文を言う。
「乗船規約。験乗艦中ハ男ノ慇懃是有間敷事」
「あ~ね。ある程度仲良くなるのはしかたないとして、ちゅ~とかは験乗船を無事終えて、艦降りた後にしてね。ってヤツ」
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「何かあったら來年から中止になっちゃうかもだし」
そう言ってわたしは、「菜摘班」が採って來てくれた、アルファルファのサラダを口に運びながら。
「むしろ! 何も無かった方の子のPTAが黙ってない――――んだよね」
と、言う。
「だよねえ。『何抜け駆けしてんのよ! 梅園(うめぞの)家のご子息と!』ってなるね」
「でもねー。はぁ」
わたしはため息をついた。相手が麻妃ちゃんだからできる態度だ。
「どした? 依」
「優しすぎるのよ、暖斗くんは。わたしが負い目をじるくらいに。わたしの『なんちゃって醫學』で、ちゃんとお返しが出來るのか不安になっちゃったよ」
「ふーん。モヤモヤしてんだ。でもそれ、ウチから見たらいい事だけどな」
「え?」
「だあって依。學當初とか、キミは『自分の事でいっぱいいっぱい』で、そんな風に人の事に関心持つなんで無かったでしょ?」
わたしはドキリとした。
「それは、た、確かに‥‥」
「な? いい兆候だって。験乗艦応募してよかったじゃん」
「でもね、麻妃ちゃん。そんなキャなわたしは、男子とあんなにお話するの初めてだから、距離とかノウハウが無いのよね。暖斗くんの前では平靜なつもりだけど、いつかバレるかも、って。それがモヤモヤの原因かも」
「キャじゃなくて元キャ、ノウハウじゃなくて経験、な」
「キャだよ。どうしよう。メッキが剝がれて、この先暖斗くんが怪我して帰艦してきたりして、『ごめんなさい治せません』じゃ、申し訳ないよ」
「戦闘に関してはウチもフォローするけど、もしそうなったら、こんな中2だけで旅させてる運営のせいだよ。ウチらは出來る範囲の事で、ベストを盡くすしかないでしょ?」
と、言う麻妃ちゃんに、ポンポンって、肩をたたかれた。そして。
「あんまり思いつめるなて。誠心誠意、全全霊で依はやってるんだから、暖斗くんは分かっってるって。あ~、それにしても、早くぬっくんのミルク飲んでる現場を押えたい。はは」
「誠心‥‥誠意」
麻妃ちゃんに聞いてもらってスッキリしたかも。
「全‥‥全霊‥‥!」
わたしの中に芽生えるがあった。
*****
お晝、僕はまた人の気配で目が覚めた。う~ん。今のところいいけど、廚房とのドアは、防音強化をした方がいい気がする。
「あ、目が覚めた?」
逢初さんの、明るい聲が、間髪れず。
ずっと側にいてくれたのだと思うと、頭が下がるよ。
「そろそろ、どう? はく?」
言われて、手足をかしてみる。うん、まだちょっとだけ痛いけど、普通にく。
「じゃあ、二択です。ミルクにしますか? それとも、食堂でランチ?」
「‥‥‥‥」
僕はし考えてから、「ランチ」と答えた。
そろそろ固形をちゃんと食べたい。
「わかったよ。じゃ、仲谷さんにオーダーれてくるね。車椅子で、わたしが介助するから。戻ってきたら、運負荷心電図検査(CPX)して、クリアなら退院、と」
「やた。退院だあ!」
僕が1人で喜んでいると、逢初さんがゆっくりと近づいてきた。両手を後ろ手に組んで、上半を揺らしながら。
セーラー服のの青いリボンが、蝶々みたいにヒラヒラした。
「暖斗くん。‥‥‥‥ひとつお願いあるんだけど」
「何?」
うつむき加減の彼に、僕は気軽に応えた。
「依(えい)、って呼んでほしい」
「‥‥‥‥え?」
唐突だった。
「こういう、2人きりの時だけでも、みんなの前とかでは無くても。もし、暖斗くんがそうしてくれるなら、だけど。下の名前で、呼んでほしいの」
逢初さんは、ゆっくりと、言葉を噛みしめる様に話す。
僕は戸う。
「逢初さんの下の名前? や、いやあ、‥‥ちょっとハズかしい‥‥かな。急にそう呼んだら、みんなはなんて思うかな」
「――――暖斗くん」
「はい」
僕は思わす背筋をばした。聲に重みをじたから。そのまま彼は和な笑顔で、その理由を語り出した。
「あのね、昔。大昔よ。まだこの國に科學が無い頃。かわりに占いやおまじないが『科學』だった頃。病気や不運不幸は、すべて呪いや魔のせいだったのね。そのオカルトが支配する世界で、わたし達の下の名前は、その人の『本當の名前』で、いわば究極の個人報だったんだって」
「なぜなら、誰かが、例えばわたしの『依(えい)』って名前を、その誰か、第三者に知られてしまったら、その人はそれを使ってわたしに呪いをかけられるから。‥‥‥‥そうね。ネットでバレしたり、パスワードが盜まれるのと同じくらい危険な事だったんじゃないかなあ。――あ、あくまでオカルト的な世界でのお話、よ?」
「あ、ほら、授業で習う昔のって、『下の名前』無いでしょう? 誰々の(むすめ)、誰々の母、納言とか式部とか。‥‥‥‥でね」
そして、逢初さんから、その和な表が、一瞬消えた。
「わたし、覚悟ができたよ。暖斗くんにわたしの『下の名前』を渡したいの。暖斗くんのに何があっても、ゼッタイ何とかする。わたしのすべてを使って、何とかするから。『依って呼んで』ってお願いしたのは、証(あかし)。誓いの対価よ!」
初めて、かもしれない。彼の気迫!? みたいなに圧された。
「‥‥た、対価‥‥? う~ん、重いよ。難しい事は判らないけど、でも何となく気持ちは伝わったよ。これからも僕を全力サポートしてくれる、ってことでしょ? じゃあ、宜しくお願いします」
なんとか、そう答えた。
なぜ急に彼がこんな事を言い出したのか、僕にはよく解らない。僕にとって子とは、未だにナゾの生きだよ。
でも、僕の言葉に、彼は大きく頷いた。
「うん!! わたしが介(たす)ける。必ず!」
逢初さんは笑顔になった。
よかった。何はともあれ、だね。
なんだかやっぱり、僕が隔壁縦席(ヒステリコス)に向かう理由と、彼がこの醫務室にいる理由が、似ている気がした。
これでいいんだよね? きっと。
*****
逢初さん、いや、依さんに付き添われて、食堂に移する。
席に座ると、仲谷さんが廚房から出てきていた。長い髪をひとつに束ねて、右側に垂らしている。表はいつも無い。ポーカーフェイスが彼の個だ。
「咲見さん。お加減はもういいみたいですね」
うお! 話しかけられた。彼が廚房から出てくるのも、ましてや誰かに話しかけるのもレアだ。
「これから、咲見さんには試練があるかもしれません。でも、どうか気に病まずにがんばってください。それ以上の『いい事』がありますから」
そう言われた。
ん? 何それ?
※「なんかさあ、この小説ヒロイン以外の扱いひどくない?」と思った そこのアナタ!!
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