《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第31話 「キャは損」説②
僕の自室。依とふたりきり。
彼は、語りだした。
「『暖斗くんにあのこと、話したよ。自分の口で言ったほうがいいんじゃない?』って麻妃ちゃんからメール來たんだ。だから、お話しに來たの。4月のこと、相野原先輩のこと」
「いいの? 麻妃がそんな勝手な事して。迷じゃない?」
「いいんだよ。いずれ暖斗くんの耳にもることだし。だったらわたしが自分自でキチンと伝えたいって、彼は分かってるから」
そうなのか。それならいいが。
「相野原先輩とデートしました」
唐突だった。反的に左を向くと、依の大きな黒瞳が僕を覗き込んでいた。
「びっくりした? わたしのこと、嫌いになった?」
真剣で不安げな瞳。
に何か詰まったような苦しさの中、何とか返事をする。
「い、いや‥‥別に。そ、そういうのは自由だし、僕が依の事知らないのは當然、‥‥というか」
「ごめん。さっきからわたし、話の順序がバラバラで。きっとあまり話したくないんだよね。本當は。うん、ちゃんと最初から話すよ」
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彼の瞳は、悲しげだった。依がこんな顔をするなんて。
「あのね。わたし、土曜日はバイトに行ってるの。れんげ駅の駅南に、れんげ市海軍病院、ってあるでしょう?」
れんげ市というのは、みなと市の西に隣接する市で、電車でふた駅、10分もかからない所だ。市街がつながってるから、みなと市とはほとんど一緒の町、と言っていい。
「そこの小児科に、わたしのお師匠様がいて、院の雑用とかのバイトやってるんだ。それでね」
そこまで言うと依は、目を落とした。
その視線の先には、膝の上で固く握りしめた両手。
ゴクリとを鳴らす音がすると、意を決したように前を見つめて、話し出した。
「れんげには、電車で通ってるんだけど、そこで、必ず、っていうくらいわたしの後ろに立つ男の人が居るのね。知らない人。電車が混んでくると、不自然にがくっつくじがして。バイトを始めて1年。最初のは‥‥自分がそういう事のターゲットになるなんて、思いもしなかったから。『なんか変だな』くらいにしか考えなかったんだけど。今年の4月くらいから、もう、ハッキリわかるようなじになってきて」
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依はここまで一気に打ち明けて、――また視線を落とした。
僕は混した。正直、予想のかなり上をいく告白だった。
とりあえず何かしゃべらなくては、と思ってしまった。
沈黙が怖かった。
「えっと、それって、依の思い過ごし‥‥とかは無い?」
不用意な発言だった、と思う。――依は両手で顔を覆って否定した。
「ううん。‥‥‥1回帰りにみなと駅を降りた時に、駅の外まで尾けてきたことがあって。わたしがみなと駅から乗るのを知ってるから、だと思う。必死で撒いたよ。‥‥‥怖かった」
そんな重いのは勘弁だ、どうか思い過ごしであってほしい、という僕の期待が霧散した。
くすん、と依が鼻を鳴らした。‥‥‥‥泣いてるんだ。
「親とか、警察には?」
「お父さんもお母さんも助けてくれないよ。わたし、『そういう家の子』だって言ったよね?もう自分では何とか出來ないから、泣き寢りするしか、と思ってたの」
依は、こっちを見て、無理に笑って見せた。
「キャやめたら、こんな事になるなんて。知らなかったよ。はは。キャもいろいろ大変だ」
髪がふわっと揺れて、シャンプーなのか、甘酸っぱい香りが僕の鼻をくすぐった。
そう、僕のとなりにいるのは、中學2年生のの子、生のに、生の心をれた、の子だ。
――――何とかしてあげなきゃ! 僕が!
「そうしたら、同じ電車にみなと一中(いっちゅう)の3年子が乗り合わせてて、その人は通院ね。わたしの異変に気がついて、相野原先輩に相談してくれたの」
「え?」
どうやったら解決出來るのか死ぬ気で考え始めた所で、急に話の方向が変わった。そこで相野原先輩‥‥!!
「相野原先輩が周りの大人に相談して、何か、警察OBみたいな人がいてくれたらしいの。わたしは被害屆とか出してないから、あくまで非公式に、って事だったみたい」
「出して無いの? その、被害屆」
「出したくなかったの。だって、いろいろ訊かれて、事が大きくなるでしょ? 犯人にも恨まれるし」
「でも、もしそのままだったら、もっとヒドイ事に‥‥‥‥」
「‥‥‥‥耐えるしかないと思ってた。だから、助けてもらって良かったよ。えっとね。わたしが的に何かされた、とかは無いのね。うん、ないよ? ただ、不自然だし怖いなってわたしが思っただけ。あ、ほら、サジタウイ(ビフォーア)ルス以前(サジタ)には、『専用車両』とかあったらしいじゃない。そのくらい昔から癡漢被害とかはあったんだよね。今回も、そういう電車があったら良かったのにね」
醫學の徒の彼には似つかわしくない、本的な原因が何ひとつ解決しないセリフだった。
「じゃ、もう大丈夫なんだね‥‥」
「うん、それについては。あれ、何か暖斗くんが落ち込んでない? わたしが無事で」
その通り。――――ああ、依が無事な事で、じゃあないよ。
大丈夫、と聞いて安心したのと、僕の知らない所でそんな事があり、他の男が解決してしまった事。
4月と言えば、もう同じクラスだったじゃないか!
安堵、無力、焦燥のトリプルアタックだった。
「まあ、その男の人が帰りに尾けてきたっていうのも。その1回だけだし、本當にたまたまみなと市の方に用事があったのかもしれないし。わたし、1年前にキャラ変して、周りから『変わった』って言ってもらえるようになったんだけど。‥‥何か損した気分だよ。見た目を気にして、良くなるように願ったり、努力したらダメなのかな?」
僕は彼にかける言葉を必死に探していた。――なので、しだけ暴走した。
「‥‥とにかく事が収まったようで良かった。あと、悪いのはその男で、依が可いのが悪い訳じゃあ無いよ」
「‥‥‥‥暖斗くん。‥‥‥今何て?」
「あ!」
僕は依から目を逸らした。今変な事言ってしまった!? 慌てて話題変換!
「相野原先輩とかがそう言ってるんでしょ? ファンクラブがあるって聞いたし」
「うん。キャイメチェンしたら、急に上級生から連絡先訊かれたり、が多くなったよ。その‥‥‥ファンクラブも、相野原先輩が、わたしを守るために3年と1年を統合したって。『組織がデカい方が良い』って。それでわたしに代でガードをつける、とかって話になりそうだったんだけど、それは全力でお斷わりしました」
なんだこれ。
話題のドラマを、最終回の2話前から視聴してる気分だ。僕のいない所で、どんどん話が始まって、そして既に――――終わっている。
「そんな事が。でも何か変? なじがする」
「そうなんだよね。相野原先輩には、謝というか、大きなご恩ができたのね。日を改めてお禮を言いに行ったら、お禮はいいから、と何故か食事にわれて。こういう事でお世話になってるから斷れないよね。でも何とか2対2のダブルデートになったよ。ふたりっきりで會話が続かないのって恐怖だよね」
「う~ん。相野原先輩とは付き合ってる‥‥‥‥」
「ええ!? 違うよ。誤解ゴカイ!」
「‥‥てウワサを麻妃が言ってた」
僕は慌てる依を見て、ちょっと笑った。
「もう。変なトコでセリフ切らないでよ」
「いや、実際付き合ってて、その流れでデートもしてるのかと」
依は、はあ、とため息をついて、僕を正視した。
「ちゃんと説明させて。確かにダブルデートと相りました。みなとホテルの最上階ね。みなと市民なのに行くのは初めて。ドレスコードが無いから、制服で行ったよ。わたしだけ‥‥ね。すっごい恥ずかしくて、料理の味憶えてないんだからね。そのウワサも、ちゃんとした理由があるんです」
「理由? だって相野原先輩は生徒會長だし文武両道だしガッチリ型のさわやかイケメンだし。付き合っててもおかしくないとは思ったよ」
「なに? 暖斗くんはわたしと相野原先輩がつきあっててほしいの? でもまあ、それは相野原先輩の思どおりね。デートもして、つきあってるってウワサが流れれば、変な人がわたしに近づきにくくなるから、って。正直、何かちょっと違うかな? って思うんだけど、止めてください、とは言いづらいし。本當につきあう訳じゃないから、まあいいか、と」
「でもそれって、本気で誤解する人とかいるし、電車の社會人には関係ないよね」
「いいの。どうせわたしは結婚しないから。だから誤解されても実害はないよ」
そう依が言って、會話は一旦途切れた。ふたりして麥茶を飲んだ。
ただ、話はこれで終わらなかった。
この後僕に、ものすごい大きな変化が訪れてしまう。
時間は22時を回ってしまっていた。
でも、夜はまだ長かった。
※そう。このリアルなもやもや。これこそが「ベイビーアサルト」。
ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます!!
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