《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第32話 理(ことわり)②

「その時」、は唐突に來て。

僕は突然に理解した。

世界の理(ことわり)を。

には、オスとメスがいて。

つがいを作りながら子を産み、育て、この子もやがて次のつがいになっていく事を。

両親もその祖(おや)も、人類がそうやって連綿と幾星霜の時を、命をつないで來た事を。

そして。

僕が、生的な意味でオス、男であることを。

あらためて、僕は隣に座る「の子」に目を向けた。

そこには、僕が、生まれて初めて認識する「」。

逢初(あいぞめ)依(えい)、という名の「」がいた。

艶のあるセミロングの黒髪が肩にしかかり、うるんだ黒瞳が熱っぽくこちらを見ている。

形の良い眉は和な表を作って、雪の様に白いに、赤みのさしたが浮かぶ。

卵を思わせる的なラインのおでこ、切り揃えられた前髪。

長い睫が憂いを作り、湯上りの頬が室燈のけて、その紅を際立たせる。

を想起する小ぶりな肩、華奢な骨格に健康的にくびれた腰。

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曲線のうなじは流れる髪をけとめ、らしい、優な丸みと繊細なが包んで、それでいてどこまでも澄んでいく。

キチンと閉じられた両足と、その太ももの上にきれいに揃えて置かれた小さな手が、この娘の淑やかな人品を表している。

あどけなさと、はかなさ。

あでやかさと、純潔。

」が持つ屬を、現世に現化しているのが彼だった。

僕は目をこすった。うっすら彼をまとっているように見えたから。

重力子エンジンのエフェクトでもあるまいし。

でも、‥‥‥‥‥‥この時は本當に、そう見えたんだ!

「かわいいよ」

自然と言葉が出ていた。

依は、突然そう言われ、びくん、と肩を大きく揺らした。

僕は、目を逸らさずに言う。

というか、逸らす事が出來ない。

「やった。うれしい」

依がやっと破した。この子を包むが増した。

「かように、の子はいろいろ大変なんだからね? イメチェンしたのにマイナスイベントばかりじゃ、ヤでしょ? そうでも言ってもらえたら、がんばってきた甲斐があるよ~」

――なんでか、本當にわからない。僕は、依を部屋に帰したくなくなっていた。

じゃ、と立ち上がって帰ろうとする彼を、僕は呼び止めた。

「もう帰っちゃう?」

「帰らないとマズイ、っていったのは?」

「‥‥言ったけど‥‥」

「‥‥‥‥まだ何かお話あるの? あ、寢かしつけてほしいとか? ふふ」

「‥‥違うけど‥‥」

「じゃあ、もうしここにいようかな? 暖斗くん、さっきからちょっと、目つきコワイけど、ね?」

は何かを察したのか、ドアから戻ってきた。

「前にさ、君のお父さんの『右手』の上で寢るのが良い思い出だって言ったよね?」

「うん」

「それで、僕の『右手』が代わりになったとも」

「代わり、というと言い方悪いけど」

「その話。同母妹(いろも)たちにいい場所を取られての『右手』、だったんでしょ? だったら、もっといい場所もあるかな、と」

僕は、目をつむってベッドに橫になると、右腕を真橫にかした。が赤くなったかもだけど、その時の勢いとかがあるからね。やれてしまった。

「あ」

その聲で依も僕の意図を察してくれた。さらに近づいてくる足音。

「‥‥‥‥」

「暖斗くんは、マクラ無しでも大丈夫な人?」

「へ?」

「マクラ無しでも寢れるかなあ」

よく判らないが、取りあえず「大丈夫」と答えたら。

「じゃあ」

マクラを抜き取られた。ゴチンと頭から落ちる。

「これでOK。‥‥‥‥んん」

僕の右腕に、依の首(こうべ)の重みが加わった。

見ると、彼はこっちを向いて目を輝かせている。

取られた僕のまくらは、彼の前でしっかり抱きかかえていた。

そっか。それを緩衝材というか、間にれて腕まくらの健全を確保する訳か。

なるほどそう來たか。

「暖斗くん、さっきわたしをガン見してたでしょう? 視線がいやらしかったよ」

「それで、のキケンをじて、僕のマクラでガードしてるの?」

「あれ? いやらしい、って言われて揺しないんだね。――そうだよ。これなら腕まくらもギリギリOKでしょう」

「OKなのかな。先生居ないけど」

「どうしたの? なんか雰囲気変わったような。暖斗くんもキャラ変? 赤ちゃんキャラはもうしないのかな」

「もともとしてないってば」

うふふ、と依が笑った。そして、半をひねって僕の右手を引っ張って、自分の肩に乗せてきた。

「暖斗くんの手がね。いつもすっごく暖かいの。腕まくらもいいけど、手は、わたしの顔あたりに乗せといてほしい。ほら、もうぽかぽかしてきた。‥‥これがあるとすぐに‥‥寢れ‥‥‥‥」

あっという間に、依は寢息をたてていた。僕もつい、ウトウトしてしまった。

*****

「ごめん。暖斗くん。起きて」

小聲の依にを揺さぶられた。

「今、5時なんだけど、わたし部屋に戻るね。このままだと、暖斗くんの部屋に一泊したことになっちゃう」

「‥‥‥‥あ、うん、おはよ。眠れた?」

「‥‥‥意外と余裕ね、あなた。何か、過去最高ってくらいにぐっすり眠れたよ。でも寢過ぎました。もう5時だから、みんなにバレないように帰らないとだから」

「うん、そだね。13時頃1回トイレと歯みがきで起きたんだよ。その時腕まくらも外したんだけど。依は睡してたね」

「え? 1回外したの?」

「うん、ベッドに戻ったら、そっちからグリグリ來て、また腕まくらの勢になった。よく寢てたから起こしそびれたよ。その時マクラも外れて」

「やだ‥‥‥わたし。じゃあマクラ無しで、著しちゃったりとか、まさか」

「う~ん。かなり近かったけど、僕も寢たから。‥‥‥‥で今起きた」

「‥‥‥‥わたし、変な事してない? あとされてない? 一応信じてるけど」

「たぶん」

「あ、たぶんって何? もう。後で聞くからね。じゃね」

いつも背をばして歩く依が、忍者みたいに背を曲げてコソコソ出ていくのはちょっと新鮮だった。部屋に殘ったのは、依の溫と殘り香だ。僕はもう一度ベッドに寢転んだ。

あの時、依が立ち上がって帰ろうとした時、とっさに依が居なくなったこの部屋を想像していた。部屋にポツンと取り殘される僕。どんなに空虛になったろう? そこに朝まで居続ける自信が僕には無かった。

そして、あのまま部屋に返すなと、僕の中の何かがんだ気がして、あんな大膽な行をしてしまった。

結果依も乗ってきてくれたから良かったものの。

「あ、大丈夫です」って斷られて、盛大にスベる可能もあった。

取りあえずまだ朝食までは時間がある。もうひと眠りするけれど。

‥‥‥‥とにかく不思議な夜だった。まだがザワザワしているよ。

※そう。その理(ことわり)の向こうに、あるのです。アレが。

ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます!!

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