《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第40話 裏切り①
「窓を開けて逃げようとしなかったのは正解さ。外の白い煙はね、砂塵とかじゃ無い。神経毒なんだよ。だから、連れのの子達はここへ近づけない。いや、近づかせないんだけどね」
わたしが洗面臺から部屋へ戻ると、彼は得意げにそう言った。
ストックホルム癥候群、という病気をご存じだろうか。大昔に、歐圏の都市名が由來でつけられた病名だ。拐や監された被害者が、生存戦略として犯人との心理的なつながり――であれば犯人を好きになったり――を築くことをいう。
いわゆる心的外傷後ストレス障害だ。
わたしも今、目の前にいる男、敵外國兵に囚われている狀態が続く。一時は危害やセクハラを加えられる気配もあったが、途中から彼の態度が化した。
わたしも、彼と談笑することに、不思議な安堵を覚えてしまっている。
穏やかにお話している分には、暴力をけたり、服をげ、を調べさせろ、とかは言われないだろうから。
「どう? 顔を洗って々考えたら、俺のプロポーズをける気になったとか?」
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彼は爽やかに笑った。あ~あ、この笑顔に騙されて、海を渡ったの子とかいたんだろうなあ、と考える。
その子が向こうで幸せになっているならいいが。
「いいえ。洗面のお水と一緒に流して來たわ」
わざと無表でそう言うと、彼は手を叩いて笑った。
「でも、一考の余地はあると思うね。ずっと気になっていたんだけれど、その服、そんなにいいものでは無さそうだし、著古してヨレヨレじゃないか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥え?」
長190cmの彼が、上からわたしの元をのぞきこんでいた。
「きゃあ!」
わたしは慌てて元をおおう。
そうだ。くたびれれているから、上や橫から「中」が見えてしまうと、渚さんに注意されたばかりだった。敵兵に遭遇して命の心配メインだったから、元なんて気にしていられるワケがなかった。
見えた? ――――見られたの?
イケメン敵兵に限界ギリギリまでを曬してしまった。
あ、もしかして、『三つ目の質問』で、急にえちえちな展開になったのも、わたしの元が著火點とか?
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なんか目つきが急にいやらしくなってたし。じゃ、やっぱり本気でわたしをアレしようとして‥‥‥‥。
無意味な思考がぐるぐる回った。
「そろそろいいかな?」
わたしが々妄想しているところで、彼にまじまじと見つめられた。せっかく戻した顔から、また火を噴いてしまった。
「一考はしてくれよ。正直、君は現在決していい暮らしはしてないよね。不躾で失禮だけれども。結婚は上手くいく? 金持ちのヨメになれたとしても、他のヨメに打ち勝って、を注いでもらえる算段はあるのかい?」
「‥‥‥‥そ、それは‥‥‥‥」
ものすごく痛いところを突いてくるよこの人。それは実際彼のいうとおりだ。わたしは安いだから、こんな風にちょっと自分事を聞かれて、優しく相談に乗る雰囲気を作られると、ふわふわと重心がそちらにたなびいていく。
そして、長年心にたまったが、口からあふれ出てきちゃった。
「‥‥‥‥わたし、結婚はもう諦めてる。醫者になるの。そのためにラポ‥‥々資格とか取ったりして。家も、言われた通り裕福ではないわ。お父さんの足もお金も、わたしの異母弟(おとうと)の方に行ってしまうし、お母さんは、それが面白くないの」
「なるほどね。醫者か。すごいね。君は。きっと、人が知らないような努力をたくさんしたんだろうね」
「‥‥‥‥‥‥そ、そんなことはないけど」
「そうか。お母さんと上手くいかないんだね。同じ同士、張り合ってしまう所があるのかな? 君の気持ちをしでも、お母さんが判ってくれたらいいのに」
「‥‥‥‥‥‥うん」
彼の言葉は優しかった。
それからわたしは、わたしの抱える家族の問題を、ひとつ、またひとつと話した。
彼はあくまで親だった。わたしの言葉をひとつひとつ丁寧に聞いて、復唱して、子宮に響くような男的な低い聲で、紳士的な相づちを打ってくれた。
耳當たりの良い優しい言葉を、わたしにシャワーのように浴びせ続けた。
その言葉のシャワーを全に浴びながら、わたしは必死に泣くのを堪える。
「ほら理論」の本の中で紹介されていた、心理學の知識があったから。
彼は、わたしの外見から生い立ちを予測して、「誰にでも當てはまるような」優しい言葉のかけ方をしている。コールドリーディングだ。
たぶん、脅しで屈しないわたしを、懐する「罠」だ。
知らなければ、彼の言葉を鵜呑みにして、そので泣いていたかもしれない。
でもやっぱり、不覚にも、が熱くなってしまった。わたしが、家の問題、わたしと家族のことについては、今まで誰にも話してない。
そう、あの瞳が綺麗な年にも。
これを誰かに聞いてもらったのは初めてだったから。
彼――イケメンの敵外國兵さんは、し首を捻りながら。
「‥‥まだ名前を聞いて無かったな。私の名前はゼノス、という。ゼノス=ティッシオだ。君は? お姫様」
「‥‥‥‥逢初(あいぞめ)依(えい)です」
一瞬躊躇したけれど、するっと口にしていた。
なにか、わたしの大切にしていたものを、彼に渡してしまったような気分だった。
それだけ、わたしの家族の問題は、わたしの心の重荷だったんだ。たとえひととおりでも彼が聞いてくれて、たとえ甘い毒でも、優しい言葉をかけてくれたのなら、わたしは揺れてしまう。
そう。彼のに飛び込んで、向こうの國に渡ってしまえば、なくともわたしは、結婚と、絋國の地位の低さと、家族の問題からは解放される。
いけない。差し出された彼の『右手』を取ってしまったの気持ちが、わかるじになってきちゃった。あの厚いに飛び込んだら、それはそれで楽になれるのだろう。
‥‥‥‥なんだか、彼に自分の名前をしれっと名乗れたのが理解できた。あの時わたしは、彼の前で、神的な意味で服をいだのよね。1枚ずつ、すべての服を。
彼の前で全になった。そして言葉のシャワーを浴びた。きっとそう。
その様子を想像してしまった。
どうしよう。今、「一緒に國へ行こう」と右手を差し出されたら、わたしは、さっきと違う答えを出してしまうかもしれない。
「さて、ここで五つ目、最後の質問だ。水口聖子事件、って知ってる?」
彼――ゼノス君が、突然口を開いた。
「なに?」
わたしは絶句する。
だって、今までの會話の流れを逆さにするようなひと言だ。
わたしは、それまで脳で考えていたことが、一瞬で真っ白になった。
「質問は、さっきのが最後じゃなかったの?」
「‥‥ああ、君の名前を聞いた事? 當然違う」
彼は赤銅の肩をでながら、続けた。
「やっぱり自國の歴史でも、若い子は知らないのかな。じゃあ、外國人の俺だけど」
と、ゼノス君が説明しようとしたので、制止した。
「‥‥知ってるわ。水口聖子事件。10年前の戦爭で、暗躍したスパイ。10年前、重力子エンジンを開発していた絋國は、またしても世界覇権目前だった。周辺國は団結して絋國包囲網をひいた。それがグラビトン・ウォーズ。軍事力に勝る絋國は、連合軍を圧倒しけれど、ハード面で勝てないと踏んだ連合軍は、攻め手を変えた。絋國子の多さに目をつけ、見目麗しい男を訓練して絋國のに逆ハニートラップを仕掛けまくった。『惚れた男の為なら何でもする』というの純を、凄まじい悪意で、國家レベルで悪用した。結果――おびただしい報洩と、連合國のシンパサイザーとなった多くの絋國は、絋國の選挙結果にまでも影響をあたえた。‥‥絋國がその事実を把握したその後は、粛清の嵐。他國の男と関係を持ったは、ことごとくスパイを疑われ、冤罪も多かった。その事件の中心的、象徴的な人が、『水口聖子』。彼の名を取って一連の事件はそう呼ばれて、ただでさえ低かった絋國子の地位は、その後なお一層低くなった」
ゼノス君は、拍手をする。
「わお。すごいね。スマホで調べるより正確かな? 正に博覧強記だね? 君は何者? ‥‥‥‥ま、いっか。それは後回し」
そして、
「で、僕が言いたいのは、その時出來た法律の事なんだ。法律は詳しい?」
「‥‥あ!‥‥‥‥」
「これでも俺はかなり気を使ったんだぜ? ほら、こんな風に」
ゼノス君は、三度銀の銃を取り出すと、わたしの足と足の間に差しれ、クイッと持ち上げた。プリーツスカートが長い銃に引っかかってめくれ上がる。下著が見えるくらいまで持ち上げられた。
咄嗟に下著を隠すことが、わたしにはできなかった。
彼の言う「法律」。絋國の國法。
それはある意味、わたしの太ももの間で遊ぶ銃口よりも、恐ろしいだったから。
※「依さんへの言葉責め。エグいなあ」と思った そこのアナタ!!
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