《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第44話 絶対に大丈夫①

仲谷(なかたに) 春(やよい)さん。

この戦艦ラポルトには、「特別枠」で選抜されてる。

「特別枠」は、運営が設けた、通常選抜とは別で選ばれるひと枠だ。

実は、僕と麻妃(マッキ)の小學校時代の同級生が選ばれる予定で、もう定してたはず。僕も麻妃も楽しみにしてたんだけど、直前でこの子の方が選ばれてしまった。

麻妃はその子と今も大親友ですごく殘念がってたけど、――まあ、仲谷さんを恨んでもしょうがないよね? 運営が決めたことなんだから。

ちょうど、初島さんと來宮さんは他に用事があったところで、れ替わりで部屋を出て行った。仲谷さんとふたりきりになる。

「ミルク、飲みますよね。廚房と醫務室はつながってるでしょう? 逢初さんがたまに廚房の方にを出したりするんで、話をしたりするんですよ。ミルクも、一応作り方とかはわかります。逢初さんがメモを殘してるので」

そういって、ベッドの傍らに座った。

仲谷さんは、「食事の提供」のポジションにいる。いつも廚房でみんなのゴハンを作ってるので、僕はほとんど話した事はなかった。子會(議)とかでも、靜かだよね。

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ストレートでロングの髪、切れ長の目、すごく落ち著いた雰囲気のだ。――そう、この人はの子、とは言い難い、大人の、ってじの空気をまとっているよ。

「心配ですね。浜さん――」

仲谷さんは、そう言いながら、僕の口もとにミルクを運ぶ。正直、依以外の人からミルクを、というのは恥ずかしいハズなんだけど、仲谷さんはあっさりそのハードルを越えてきてしまった。

には、一切の揺や照れ、からかいや冷やかしが無かったから。

依もそうだったけれど、普通同級生の男に、「はい、あ~ん」でミルクを飲ませなきゃならないとしたら、照れ笑いしたり、気恥ずかしかったり、僕をからかったりイジったりするよね?

仲谷さんにはそれが一切無かったんだ。びっくりするくらい、淡々と作業としてこなした。

だから僕も、恥ずかしがるヒマが無かったよ。

まあ、それ以外に心配な事がありすぎたから、かもしれないんだけど。

「浜さんは今ごろオペか。上手く行くといいね。本當は依の出番、なんだろうけど、あんな狀態じゃあ‥‥。あ、依(えい)も醫務室にいるけど、処置室で何するんだろ。もしかして怪我してるの?」

「心配ですか? 逢初さんのこと」

仲谷さんに、すごく落ち著いた口調で訊かれた。

「そりゃあ心配だよ。アイツ――英雄さんは依のこと敵のスパイで確定、みたいな言い方してたけど、そんな訳ないし」

そう言う僕に、仲谷さんはしばらく考え込んでから、こう切り出した。

「‥‥‥‥私の口からは、とも思いますが、いずれ解かる事なので、説明いたしましょう」

そう言って、彼は語り出しす。

「逢初さんは、処置室にある多重スキャナーで、そのの検査をするそうです。私は、そういう機械モノは無知に近いですが、ファンビームCTで骨格を、位相差スキャナーで細菌叢を、エコーなど他の検知組織を調べていく、とさっき教わりました」

「へ、へえ。そうなんだ」

「細かい、過傷、というんですか? そういうまでわかってしまうと。敵兵のDNAも探すそうですね。申し上げにくいですが、それによって彼が、本當に『無事』か、判別されますね」

「うん、‥‥‥‥そ、そっか」

僕は張で生唾を飲んだ。いや、MK後癥で上手く飲めなかったんだけど。

あの英雄さんがさんざん変な事を言って依を泣かせたけれど、本當に無事を確認しないと、くやしいけれど英雄さんの言うとおりになってしまう。

僕は、くちびるをかみしめて祈った。ただ、祈るしか無かった。

依の無事と、その潔白を。

「大丈夫ですよ?」

僕の顔をのぞき込みながら、そう言ったのは仲谷さんだった。

は、あっさりとそう言い切った。そう、こんなにもあっさりと

「え? そうなの? いや、それを今調べてるって、言ったばっかじゃん。仲谷さんが」

「そうですよ」

アルカイックに彼は笑う。

「でも、大丈夫です。大丈夫ですから、逢初さんの事信じてあげてくださいね。絶対に、です。それが、あなたの善なのですから」

なんだかよく分からないが、言いきられてしまった。

その後僕は、眠気におそわれて、そのまま寢た。

「よかった。採は注だと思ったから。じゃ、やるわね」

渚は、の左手の中指に、ボールペン程のの先を押し付ける。と、そこに、米粒ほどのがぷくっと現れ、の中にっていった。の中には明のがあり、依の赤いはその溶と混ざりあって、ゆらゆらと溶けていった。

「ごめんなさい。まだ浜さんの処置が終わらないみたいね。ごめんね。シャワーとか浴びたい? これが済んだら著とかも替えられるんだけど、ね」

と、子が話しかけていく。依は、うつむいたまま、小さくうなずいた。

オペは、AIにっていたデータと、紅葉ヶ丘の監修でなんとか行われていた。浜の口で開けて、ロボットアームで創傷部位に炭酸ガスレーザーを照していく。このレーザーは直徑0.5mm以下の管を閉鎖しながら患部を焼いていく。焼くと言っても醫療として適切にだ。それに治癒も早いから、外傷には今できうる最善の処置だ。

2箇所、口腔の傷の処置を終えると、多重スキャンもおこなった。AIの報では、壁に打ちつけた頭部には、いわゆるたんこぶがし認められるものの、頸椎や脳へのダメージは見つからなかった。

桃山以下、をなでおろした。

次に、すぐ依の検査にった。

セーラー服姿のうつろな目の人形が、平臺に乗せられトンネルにっていった。

*****

「本當にいいのね。逢初さん」

は、機を介して対面する依に聞いた。

黙ってうなずく依。

ここは會議室。子のとなりには渚、依のとなりには岸尾がいる。

「岸尾さんはどういう意見かしら」

渚が岸尾に問いかけた。岸尾はひとつひとつ、言葉を切りながら話した。

「ウチは、依を信じる。だけど、この艦とみんなを巻き込む訳にはいかない。だから、みんなの意見を尊重したい」

「わかったわ。じゃあ、結果を見ましょう。あら、暖斗くんはもう寢ちゃったって」

がスマホを開く。そこには、會話アプリ(アノ・テリア)で実施した投票結果が表示されていた。

13 対 1

「逢初依、柄拘束の必要なし」

と書かれている。

「‥‥結局、拘束すべき、って1票は、岸尾さんだけだったみたいね」

畫面を見ながら、渚が肩をすくめた。

「と、いう事になったよ。逢初さん。じゃあ、獨房にれたりとかは消滅したから、ここで思う存分書いてよ」

はノートパソコンを依に差し出す。依は、無言でけ取ると、すぐに文章を書き出した。

「‥‥すごい。本當に一言一句違わずに覚えているみたいね」

渚が嘆の聲をあげる。依がパソコンに打ち込んでいるのは、アピの家での敵兵との全やりとりだ。30分もせずに、書き上げていく。

「じゃ、逢初さん、今夜は自室でゆっくり休んでね。岸尾さん、お願いね」

岸尾に付き添われ、依は退出していった。

ひと言も発さない依の憔悴に、ふたりは聲も無かった。

※「依さんガンバレ! 負けるな!」と願うしかないです。

ここまで、この作品を読んでいただき、本當にありがとうございます!!

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