《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第45話 左目Ⅱ①

「あ、どうぞ」

ドアが開いて、暖斗くんの返事がした。この戦艦の防音はスゴイらしい。ドアが閉まってると各部屋の音は、廊下にはもれてこない。

「浜さん。あらためて、ごめんね。僕のかわりに毆られたみたいになってくれて。ありがとう。退院なんだよね。怪我はもう大丈夫?」

「あ、はい。タンコ‥‥頭の打撲も順調だし、口の切れた所も、なんかカサブタみたいになって、大丈夫なじです。レ、レーザーで撃たれるって聞いた時『げえ!』って思いましたけど、治りが早くてびっくりです」

張して早口になってしまう。舌も気をつけねば。

だが、そんな昨日の狀況の振り返りみたいなハナシは、すぐにネタ切れとなった。

やはり、話題が盡きるのは早かった。

「あ、『アンチエイジング』‥‥ですか。変なタイトル」

私は、そう言ってしまってから、慌てて訂正と謝罪をする。暖斗くんは「でも確かに」と笑ってくれた。

験乗艦の直前研修の時に、紙の本を持參するように、ってあったでしょ? なんで? ってみんな思ったけど、こうしてネットが何日も使えないと、こういう本もいい暇つぶしになるような。艦のライブラリの畫は更新されないし、見盡くしちゃうからね」

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「あ~。そうですかね。わ、私も持ってきてますけど、全然読みませんね」

「‥‥‥‥」

暖斗くんとの會話は、正直盛り上がるというじにはいかなかった。焦る私。こんな時にうたこがいてくれれば。

「そ、その、『アンチエイザー』って、どんな容なんですか?」

やむなく、本の話題で間をもたせる。

「『アンチエイジング』ね。えっと、言葉で説明しにくいな。一緒に読む? 序文だけでも」

そう言うと、暖斗くんは、対面して座る私を、ベッドに座る自分の橫に引き寄せてくれた。

「カ、カップルやん! ‥‥し、しんどい!」

私は卒倒しそうになるのを堪えながら、彼の左側に椅子をかして座った。一瞬肩があたった。

「えっとね、古い本なんだ。言い回しが歴史の參考書みたいなんだよ。浜さんも目で追ってくれたほうが」

彼は読み始めた。

「小生鑑みるに、世にアンチエイヂングといふ言の葉が生まれ、廣く人口に膾炙させるやうにて久しい。舊來のアンチエイヂングとは主に、副栄養素を補として摂食したるがその主流であった。補に於いて滋養分を摂取したるに於いては、小生毫も異論は無し。而るに、アンチエイヂングのを取り果を求むるに於いては、滋養分の摂食を惟唯一の仕法と為すに非ず。アンチエイヂングの神髄とは活酸素の除去にあり。所謂世の婦に於いては、に於ける心労こそがその最大と鑑みる。是則に於いて、その良人、その人の良き言行を顕し、その婦の言行の肯ずる無かりせば、畢竟婦の心労減じ、人気(じんぎ)和合し、アンチエイヂングの達する事と思料する。故を以て記(ふみ)をす」

「だって」

「だってじゃねーよ!」 と思わずツッコみそうなのを何とか踏みとどまった。え? 何? 古いとかそういう次元じゃなくて、なんでその本チョイスしたの?

「なんかさ。荷に勝手にってたんだよね。父親の本棚にあったのは知ってたんだけどさ」

なあんだ、そうか。暖斗くん趣味悪いのかと思っちゃった。でも、暖斗くんのお父さんって、「梅園先生」でしょ? 軍に勤める學者さんで、けっこう偉い人だと。まあ、それなら納得かな。そういう學者さんなら、こういう本もあるかもしれないし。

でも、また話題が無くなってしまった。しょうがないから、怪我のハナシに戻る。

「え? いいの? じゃあ、るよ」

暖斗くんにタンコブをってもらう。話題的には微妙だけど、もうネタが無いし、これもスキンシップと言えなくもないし。

「でも本當に、浜さんには悪い事をしたね」

暖斗くんは私のし盛り上がった頭蓋をさすりながら、そう言ってくれた。

私は「キタ!!!」と構える。

真面目で義理堅そうな暖斗くん。「これの埋め合わせを」と言ってくれる事を、私は既に、かに、前向きに、予想していた。

「埋め合わせ、ですか。じゃあ、ひとつだけお願いがあります。‥‥私の事、‥‥『一華』って呼んで‥‥ください」

こう答える予定だった。――――そう、「だった」のさ。

「そう言えば毆られた後、アイツに乗りかかられたけど、それも大丈夫だったのかな?」

そうだ。自分で忘れてたけど、そんな事されたんだっけ。

あの時は私も変なテンションで、英雄さんにボールペン刺そうとしてたから。

押し倒されて羽い絞めにされて、ボールペンむしり取られたんだった。

そんな事まで心配してくれるとは。やっぱり暖斗くんはいい人だ。そして、私の事をちゃんと見ていてくれた。

ちょっとうれしくなった私は、し大げさに答えた。

「は~、そうですね~。毆られて床に倒れてから、あの英雄さんに上に乗られた時はキツかったですね~。正直絶的? みたいなじで。キモイし。あの時は無我夢中でしたけど、今あらためて思い出したら、トラウマですね。は~。キツかった」

私は、橫目で暖斗くんを見る。

暖斗くんはうなだれていた。

あの時の事を思い出して、怒りを新たにしてくれているのか。と嬉しくなった。

「いや~。ホント。一生モンのトラウマですよ。マジモンの兵隊に組み伏せられるとか。いや~、ははは」

「そう‥‥‥‥だよね」

部屋の空気が一瞬で凍りついた。

うつむいていた暖斗くん。聲が‥‥震えていた。

その頬に、涙が流れていた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は? え? ☆¥#*%$!!」

私はただ混した。どうして。どうしてこうなった!?

事態が飲み込めない私は、良くない選択をした。ある名前をんでいた。

「うたこ!」

私は、暖斗くんの部屋から逃げ出した。

※「15人のヒロイン唯一の不人」設定の一華さん。でも作者の非公開設定では「15人の中で一番心が綺麗」となっております。「思い」は屆く事が使命なのでしょうか?(続く)

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