《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第46話 右手Ⅴ①
午前中に浜さんの訪問をけたその日の午後、やっぱり僕は醫務室に移する事になった。
もうあそこ浜さんいないしね。
となりが食堂だし、何かあった時のためにも便利だからね。晝食を食べてから、そのまま醫務室のドアを開けた。
そこには、依(えい)がいた。
「あっ、やっ、久しぶり」
僕はちょっと張してそう言った。村での一件以來、正確には、村に向かう前以來、依とまともに會話してないから。
「‥‥‥‥うん。久しぶり」
そう答えた依の聲は、明らかに元気が無かった。無理もない。
けど、ちょっと元気がなさすぎるような。
「何してるの?」
「うん、やり殘してたの片付けを。院?」
「うん。今からね」
「ごめんなさい。本當はわたしがやるべきなんだけど」
「いいよいいよ。今のところ何とかなってるし。こうやって車椅子で移できるし。依はちゃんと休みなよ?」
僕のその言葉に、力なく笑う依。見た目もなんだか前と違う。制服もスカートもしシワが目立つし、何よりあのつるん、としたストレートの黒髪が、なんだかボサボサしたじだ。
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ああ、やっぱり疲れてるのかな、とこの時は思った。
取りあえず、僕がベッドに移るのを、彼に介助してもらったけれど、明らかにがらないじだった。
「大丈夫? 元気ないじだけど? 時間があるなら、ここに座って」
いつも依が座るドクターズスツールを指さす。
とん、と依が座った。――――違和をじる。
ああ、そうだ。いつも依は、必ずスカートをきれいに折りたたみながら、ゆっくりと座ってた。そのしい所作が無い。
しかも、ひざをそろえてキチンと両足を閉じるのに、太ももを放り出したように座ってる。
例に出して悪いけど、折越さんみたいな座り方。
依じゃない。イヤな予がする。
「依。大丈夫? なんか、依らしくない、というか」
依は、下くちびるをし上げて答えた。
「わたしらしくない、って何? そんな事‥‥言われても‥‥」
「えっと、前はもっと、依らしかった、というか」
「そう? 最初から‥‥こんなだったと思うよ。暖斗くんの記憶が化しちゃってるのかな?」
そう言われてしまうと、そうかも、とも思う。でも、今のやりとりだけでも、やっぱり以前の依とは違う。村での事で、キャラが微妙に変わってるのかな。
「そ、そうかな。前はもっと、いかにもの子、ってじで‥‥」
「今でも‥‥の子だよ。暖斗くんのお気に召さないだけで。わたしそんなに変わっちゃったの? それとも、前の暖斗くんがの子に自分の理想を押しつけてたのかな」
「そんなつもりじゃ‥‥でも、もう、前みたいには‥‥‥‥」
依は、僕の目を見據えてから、視線を落として言った。
「‥‥わたしの検査結果と、レポート読んだでしょう?」
それは、村での事件當日の事を、あの英雄さんとのもめ事の直後に書いたものだ。
「‥‥読んだよ。僕のパッドにもメールで來たからね」
「全員に閲覧できるように、わたしからお願いしたの。になるよりは、オープンにしちゃった方がわたしもすっきりするから」
依は、みんなの面前で、英雄さんにスパイ扱い、敵にを通じた、みたいな事を決めつけられていた。それで僕もキレたんだけど。艦の仲間の前でそんな仕打ちをけたら、やっぱりちょっとれたじになっちゃうのかな。
「でも、その結果は、‥‥‥‥だって」
「そうよ。わたしから言う? 検査は、シロ。暴行をけたどころか、敵兵のDNAすら見つからなかった。『DNAが付かないように気を使った』っていう、ゼノス君の言うとおりだったわ」
「ゼノス君!?」
「うん。わたしが逢った敵兵さんの名前。不思議と君付けで呼んじゃうの」
「そ、それは‥‥‥‥ちょっと」
ドキン、大きくが鳴った。――もちろん悪い意味で。
「でも、わたしもフルネームで名乗ったし。広義で知り合いと言えなくもないし」
依は、悪びれずに床を見ている。
「だって、敵兵だよ? 依を拳銃で脅して」
「レポートに書いた通りよ。脅されもしたけれど、々なことをされたの。プロポーズとか。で、わたしは、『敵外國兵との濃厚接者』。ある意味、英雄さんの言った通りよ。キチンとスパイの容疑を晴らさないと、たぶん、醫大には行けない」
僕はを乗り出す。
「そんな。僕や艦のみんなが証言するよ。依はそんなんじゃ無いって」
「それはありがたいけど、もっと客観的、定量的に疑いを晴らさないと無理よ。――醫者への道はあきらめるの」
「じゃあどうすんの?」
「わからない。今は――考えたくない。どの道ご近所とかから々言われるから、外出するのも嫌だし、SNSでも叩かれるかもだし。あ~あ。家出たかったのに」
ため息をつく彼に、僕はダメ元で提案をしてみる。
「‥‥‥‥じゃあさ。結婚するとかは?」
「え?」
「そうしたら家は出れるじゃん」
「‥‥誰と? こんなスパイ容疑の、誰がもらってくれるの?」
「‥‥じゃあ、ウチに住むとかはどうかな」
「‥‥‥‥聞いてた? わたしの話」
「梅園家(ウチ)の家政婦になるんだよ。あ、メイドって言った方が響きがいいね」
「え?」
「うん。あ、いや。ウチってさ、自分で言っちゃうんだけど、周りの信用はあるからさ、ウチにメイドさんでったら、『それなら素の確かな娘さんだ。花嫁修業もバッチリだ』ってなる。歴代のお手伝いさん、けっこういいとこ嫁いでるんだって」
「‥‥う‥‥経歴ロンダリング‥‥ね」
依は、し考える素振りをした。
「あと數年で定年の人いるし。ほら、ちょっと考えただけでも、こんなじで々あるじゃん。僕はずっと相談に乗るから」
午前中は、不覚にも、依のの上を考えて泣いてしまった。でも、僕が泣いても本當にしょうもない。僕の力不足でこんな事になってしまったのなら、今から前向きに考えていくしかない。
ちょうどそう切り替えた所で、依と話ができてよかった、と思った。
でも。
依は、無言で丸椅子(スツール)を立ち上がった。そして。
「‥‥ありがと。でもたぶんダメ」
「!?」
「だって、また『夜』が來るから」
そう言い殘して醫務室を出て行った。僕の目の前には、片付けが途中の、幾つかの類があった。
避けられたんだ、とうっすらじた。
*****
「‥‥ああ! いや! いやぁ‥‥あ‥‥」
わたしは、じぶんの寢言で目を覚ました。
夢の終わりは最悪だった。
自室のベッドの上で、汗だくのを起こす。時間は23時。
シーツがれている。そう、またうなされたんだ。
あれから、暖斗くんと醫務室でバッタリ會ってから、逃げるように自室にこもった。夕食も、彼と鉢合わせしないように気を配った。子さんから、その旨を言い含められていた。
英雄さんの言ったとおり、敵兵の手駒となった絋國が、パイロットにハニートラップをしかけたりするのは、戦爭あるあるらしい。なので、信じてはいるし、理的に遮斷はしないけれど、暖斗くんとの接はしばらく避けてほしい、と。
わたしももちろん賛だ。まだあの白いケムリの薬剤の効力があるかもしれないし、毎回こんな夢を見る狀態では、わたしが暖斗くんに何かをしてしまう可能を否定できない。
こんな夢――そう、わたしは、眠りにつく度に夢を見る。
ほぼ、必ず。
その夢には、あの『ゼノス君』が出てくる。
ほぼ、必ず。
夢の中で、なぜかゼノス君は笑っている。わたしに、楽になってしまえとう。危うい所で踏みとどまるけれど、こんな風に悪夢として、その度に夢から覚める。昨日から、何度同じ夢を見たか。
まだ23時。ああ。果てしなく。
朝が遠い。
※ヒロイン、いやはだれしも、心を鎖で縛られていると考えています(作者の妄想)
その鎖を――――。
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