《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第47話 「にじ」②
※ 今回出てくる作中の歌「にじ」
YouTube 上田桃夏 さんの歌唱を、作者はイメージしております。
「にじ」(ひらがな 謡 の方)
是非 検索してみてください。
「ん‥‥‥‥?」
わたしは目覚めた。廊下の照明が明るい。もう、朝だ。
「!!」
そして、目の前に暖斗くんのがあることに気がつく。同時に右ほほの重みも。
わたしは起床早々赤面した。寢る前にわたしの肩に置いてあった暖斗くんの右手を、あろうことかわたしの無意識の両手が、右ほほの上に固定していた。
すぐに取り除く。「オマエどんだけ『右手』が好きなんだ!」って思われちゃう!
慌てて彼の視線を確認した。大丈夫。あいかわらずの赤ちゃんみたいな寢顔。
思わず吹きだしてしまった。そして、反的に服を確認する――けれど、著はそのままだった。
「ふう」
安堵の息をはく。だけど、それは形式的なもの。わたしは、彼を信頼できていたから、萬が一も起こりようがない。わたしの防衛本能が、オートで作しただけだ。
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そして。
彼はまだMK後癥から復調していなかった。どっちみちけなかったわけだね。
わたしは、セーラー服とスカートをチェックした。
「あ~あ。こんな格好で寢たからついにシワになっちゃったよ」
そんなひとり言を言いながら、の奧から湧き上がるをしずつ味わっていた。そう。
眠れた。
すごくぐっすり眠れた。
そして、
あの悪夢を見なかった。
心が軽い。何度も腕を振りまわした。
「あ、依、おはよう。‥‥なのかな?」
彼も目を覚ました。
「うん。おはよう。暖斗くん。よく眠れた?」
「いやあ、う~ん。依がもぞもぞくから、ちょいちょい目が覚めた。あ、これ言わない方がいいヤツか‥‥」
「え? わたしそんなにいた? ごめんなさい」
「いや‥‥いいんだよ。いや、悪い意味で言ったんじゃ無くって、ええと」
暖斗くんは、バツが悪そうだった。
「なんかごめん。夜、ベッドにかしてもらってから、なんかそばにいてほしいな、って思って、思わず、というか、肩とか摑んじゃったんだよね。その後すぐ寢ちゃったんだけど、これって、無理矢理添い寢させたみたいで、ダメだよね?」
わたしは笑顔で答える。
「ううん。わたしは全力で、『信じるよ。委ねるよ』ってボディランゲージを発信してたんだけど。伝わってなかったね。『ほら理論』のいう通りだわ。男子は、子の発するボディランゲージを、ほとんど理解してない。存在すら知らない、と」
「ああ、依の持ってた本。そんな事書いてあるんだ」
「『すべての事象はほら生活に準ずる。人の人たる源、それは、ほら』」
「なんかおもしろい。依が真顔で言うと」
「あ、じゃあもう言わない」
「あ、でも依」
彼はそう言って、寢たまま、両腕でっかを作ってみせた。
「このっかの中には、君を傷つけるは無いから、この中にいる時は安心してほしい」
そう言った暖斗くんのが、一瞬男らしく見えた。一瞬――だけね。
「うん、ありがとう」
「今何時かな?」
「5時50分」
「なんだ。3時間くらいしか寢てないんだ。じゃあもうひと眠りしよっかな。‥‥‥‥いや、待てよ。依」
「なあに?」
「3Fの後方デッキ行かない?」
3Fの後方デッキ――戦艦後部、第2副砲のすぐ上にある、見晴臺のようなデッキだ。わたしはそこによく行く。重力子エンジンは無限エネルギーだから、お洗濯はランドリーで乾かせばいいんだけどね。天日で干したい派のわたしは、よくそこで天日干しをする。
「後方デッキって、あの干し場?」
「そだよ。朝のうちに行こう」
*****
中央エレベータで1Fから3Fまで上がり、廊下を後方突き當りまで歩く。早朝のせいか、まだみんな寢てるみたいだった。
暖斗くんは、自力で歩けるようだったけれど、一応ゆっくり目で歩いた。
「ふああ!」
デッキのハッチを開けると、夏の朝の気持ちいい風が吹き込んだ。戦艦ラポルトは、ハシリュー村の周囲をぐるぐるとゆったり巡回している。この時間だと自運転中だ。
「ここはわたしもよく來るよ。お洗濯干しに。日當たりもいいし、風も吹くからね」
そう言ってわたしが、暖斗くんの方に振りかえると、暖斗くんは、水平に指を指していた。
「景を見て」
言われた通りに、彼の指さす方向を見る。森のし上を丸いドローンがふわふわ浮いているのが見える。麻妃ちゃんが扱うようなドローンだ。
あれは、この艦の哨戒用ドローン。夜の間の警備に使われる。今は、ハシリュー村の警備もしているはずだ。
そして、その向こうに緑の森、ハシリュー村の遠景。奧に村の裏山と、うっすら白い煙が見える。山の向こうの、溫泉だ。
暖斗くんが、わたしを見たまま、微笑んでいる。指は、景を指したままだ。
「‥‥‥‥」
前髪をなびかせる、心地いい風が吹いて、そして。
わたしは、暖斗くんの意図を理解した。
突然わたしの世界が、極彩に変わった。そう、昨日までのモノクロの畫像が、いきなりカラーになったみたいに。
不思議だよ。ここには洗濯を持って、何度も來てるのに。
「ごらん依。世界はこんなにしい」
聲なき聲が頭の中で響いた。それは祝福の鐘のようだった。
お空に浮かぶ戦艦から見る景。はてなき地平。荒野と、大地と、ところどころの緑。村の遠景。赤い屋。そびえ立つ山々、滝と溫泉。そして、それを包みこむ澄んだ大気と、髪をなでていく風と朝日の眩しさ。
「‥‥‥‥ありがとう。暖斗くん。‥‥‥‥わたし、知らなかったの。木々の緑がこんなに目にしみるなんて。空の青がこんなに深いなんて。地平線がこんなに遠いなんて。空と大地とお日様が、わたしをけれてくれるなんて」
いっぱいに、朝のひんやりした空気を吸って。
「世界が、こんなにしいなんて。わたし、この世界にいてもいいんだね。13年生きて、やっと実できたよ」
暖斗くんは、手すりに寄りかかって、ただ、優しい瞳を向けてくれていた。
「3ヶ月よ。待ってて暖斗くん。『的(どうてき)平衡(へいこう)』って知ってる? ほら、あそこに川が見えるでしょう? あの川は、あの場所にある1本の川なんだけど、その流れてる水は、常にいて行って、後からくる新しい水に置き変わっていくのね。人間も同じなの。わたしは、逢初(あいぞめ)依(えい)というひとつの個なんだけど、川のように、新陳代謝をくりかえす、流れている存在でもあるの。だから、待ってて。3ヶ月もしたら、髪以外はすべてれかわってるから! 新しいわたしに、生まれかわってるから!!」
どちらともなく、わたしたちは手をつないだ。
「待たないよ。僕は気にしてないんだから。逢初依は、もうここにいるんだから」
彼はそんなことを言っていた。わたしは、うれしさのあまり、つないだ手をぶんぶん振りまわす。
やがて、ラポルトが村の裏山に差しかかった。溫泉の水面が、輝いて見える。
そして。
「あっ!! 見て。虹!!」
滝の飛沫と、溫泉の湯気が、日のを浴びてしだけ虹を作っていた。ラポルトがこのまま周回すれば、すぐに見れなくなってしまう、束の間の虹だ。わたしは夢中で暖斗くんの腕を引っぱる。まるで稚園児のように。
「ねえ。『にじ』って歌、知ってる? 稚園で歌った」
「ああ、なんか歌った事あるような。いい歌だよね」
「古い歌よ。作詞、新沢としひこ氏、作曲、中山ひろたか氏。稚園とかでよく歌われる児唱歌」
「でた。そんな事まで憶えてるんだ」
「ねえ」
「何?」
「歌っていい?」
「いいけど、テンション上がりすぎだよ。依」
「だって、歌いたいんだもん。‥‥‥‥じゃあ、いくよ! さんはい!」
♪にわの シャベルが~ いちにち ぬれて~
僕は、依が歌うようすを、目を細めて見ていた。歌詞の通りだ。
依は、人間は、生きていれば、時に深く傷ついてしまうことも。
それでも、「♪明日は きっと いい天気」になればいい。そう思って歩いていけばいい。
そして、その歌い終わりに。僕は。
「依。伝えたいことがあるんだ。いいかな?」
※主人公はヒロインの「世界」を広げます。そして告げます。それが役割です。
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