立派な警のこと

『・・・そして、輝く未來をもたらすのだ。』

『謝せよォ！！偉大な王と、300の戦士たちに！！！』

『勝利へ進め！！！！！！』

畫面の中で、筋骨隆々の戦士たちがマントを翻し、こちらに向け突撃をしてくる。

そしてそのままエンドロールが流れた。

いいよなあこれ！！

俺の好きな突撃シーンベスト１だわ。

ちなみにベスト２はスコットランド獨立の英雄の伝記映畫のラスト。

あの雄びと共に空を舞う大剣・・・ウルっとくるよなあ。

コンビニで大暴れした翌日。

俺はいつものように映畫鑑賞としゃれこんでいた。

昨日はし落ち込んだが、今になってよくよく考えるとあのコンビニはおかしい。

俺が煙草をしている時は放置しておいて、帰る間際になってあの対応。

荒事に手慣れている様子の店員2人。

もしかして、わざと盜ませておいて多大な賠償を求めるタイプの場所だったのかもしれん。

あのまま言うとおりにしておいたら、車どころか荷も命も全部取られる勢いだったしな。

初めから賠償が目的だった可能があるな。

あそこは『餌場』か？

・・・う～ん、だんだんと治安が悪くなってきているな。

これからも悪くなりはすれど、良くなることは中々ないだろうなあ。

警察なり自衛隊なりがゾンビを一掃して、以前の狀態に戻るまでは。

自宅の要塞化を厳重にすべきか・・・？

そういえば、ゾンビって何故か腐らないんだよな。

じゃあ、殺さない限り永遠にあのままだったりするのか・・・？

飢え死にとかするんだろうかあいつら？

時間がたってもあのままだとすると、掃討はかなり大変になるな・・・

まあ、俺が考えてもどうしようもないな！

がんばれ自衛隊とか警察のえらいひと！！

昨日よかったことと言えば、あの即席棒手裏剣だ。

思った通り、牽制にはかなり使える。

近距離では中々便利な武だな。

音がしないのがいい。

慣れればもっと速く投げられるし、もっと速く飛ばすこともできるだろう。

元はいくらでもある鉄の棒なので、落としたりしても惜しくないしな。

素人に奪われても使いこなせるとは思えない。

あれ？俺ひょっとして天才では？

とりあえず、時間があるときにある程度の數をこさえておこう。

現狀で俺が用意できる飛び道の中では一番だな。

複雑な形の手裏剣はグラインダーとか大掛かりな工が必要になるし、弓なんかはかさばる上に練習が必要だ。

ボウガンに至っては作り方すらわからん。

あれば便利なんだろうけどなあ。

前にも言ったが銃は論外。

この國では手方法が限られすぎている。

持つことはないだろう。

・・・いや待て、そういえば番に銃の保管庫があるって聞いたことがあるぞ。

それに、警がゾンビになってウロウロしている可能もある。

俺個人としては全く魅力をじないが、ヤバいタイプの奴らの手に渡ると大変なことになる。

基地外に刃でも恐ろしいのに、基地外に拳銃となると大慘事必至だ。

・・・探索中にもし見つけたら、回収して宮田さんに預けよう。

この町の治安のために。

めんどくさいことに、一旦気になり始めると拳銃のことが頭から離れない。

ゴロゴロしていたかったが、思い立ったら吉日って言うしな。

そんなわけで、俺は近所の番にやって來ていた。

とりあえず近場だけでも確認しておくことにしよう。

ここは初めて探索に來たコンビニから5分ほど歩いたところにある。

周囲に人影はなく、音ひとつしない。

しかし、普通の生存者をとんと見かけないな。

普通じゃないタイプのアホにはよく遭遇するというのに。

各地の避難所とかに分散して避難しているのかな？

警察や自衛隊以外に、個人単位でまとまっているところもありそうだな。

まあ、積極的にかかわる気はないが。

ゆっくりと番に踏み込むと、奧に向かって石を投げる。

何か金屬製のものに當たったのか、かぁんと甲高い音が響く。

じっと耳をすませる。

他の音や人の気配はない。

しばらく確認した後、ライトを點けて奧へと進む。

室は狹いので、木刀を短く持つ。

床には書類やガラス、何かの片などが散している。

そのまま奧の部屋に進む。

臺所、トイレに、洋室が見える。

洋室の扉をゆっくりと開く。

むせかえるようなの匂いがした。

椅子に座ったまま、40代くらいの男警が死んでいる。

専門家じゃないのでわからないが、あまり腐っていないので死後そんなに時間が経っていないのだろう。

頭の左側に大きなが開いて、床にその中をぶちまけていた。

だらりと弛緩したその右手には、握られたままの拳銃。

よく見ると、右のこめかみに丸い。

・・・拳銃で自殺したのか。

銃弾は出ていくときにデカいを開けるって聞いたことがある。

足元にメモ用紙が落ちている。

れた字と、まみれで読みにくいが、なんとか解読する。

『噛まれてから5時間たつ　の自由がきかなくなってきた　ああなってみんなに迷をかけたくない』

『自分で始末をつける　おれをゆるしてくれ　ゆるしてくれあきら　どうか無事で 高山登』

これは、書だ。

この警は高山さんっていうのか。

あきら、っていうのは家族の名前かな。

・・・首筋に噛まれた跡があるな。

なるほど、ゾンビになる前に自殺したのか。

なんというすごい覚悟だ。

俺がもし同じ狀況ならどうするんだろうな。

こうまで見事にできるとは思えない。

・・・立派な警だ。

俺は高山さんを拝んだ後、その見開いたままの目を閉じさせた。

手から銃を取る。

リボルバーってやつだっけ。

ズッシリと重い。

弾倉の中には5発の弾が裝填されている。

一発は使った後だから、実弾は4発殘っている。

いや、警の銃って空砲がってるんだっけ？どこかで聞いたが忘れてしまった。

まあとにかく俺は使わないし使う気もないので、拳銃から弾丸を抜いてズボンのポケットにしまう。

弾丸はベストにれた。

・・・これ暴発とかしないよな？

火にでもぶち込まなきゃ大丈夫だとは思うが、明日にでも宮田さんに屆けよう。

高山さんを椅子から下ろして床に寢かせ、たぶん仮眠用だろう布団を見つけたので上からかけた。

その際、左手から何かが落ちた。

床にはらりと落ちたのは、一枚の寫真だった。

どこかの學校の校門の前。

桜が満開だ。學式かな？

高山さんとおぼしき男と、その腕に抱き著いているの子が寫っている。

2人とも、幸せそうないい笑顔だ。

この娘があきらだろうか。

それを見ていると、不意に泣きそうになってしまった。

寫真を見たからだろうか、がつまる。

娘をしてこんなところで1人で死ぬのは、さぞ辛かったろう。

その無念さは想像すらできない。

俺は、俺はなんとしても、この拳銃を宮田さんに屆けなくてはならない。

この立派な警で、立派な父親の銃を、好き好んで他人を傷つけるような人間に使わせるわけにはいかんのだ。

せめて銃だけは、人を守れる人間の助けにしなければ。

丁寧に埋葬してあげたいが、今はこれがいっぱいだ。

書と寫真も回収し、ポケットへ。

高山さんのポケットにっていた警察手帳も。

これも一緒に屆けよう。

同じ警の宮田さんなら、娘さんの居所を知っているかもしれない。

見つけたら明日屆けようと思っていたが、今から行こう。

これは、俺が持っていていいものではない。

最後にもう一度両手を合わせて拝んでから、俺は部屋を後にした。

番を出て、すぐに3人の男とすれ違った。

軽く會釈してみたが無視された。なんだよもう。

久しぶりの生存者だってのに、この近所には失禮なやつしか殘っていないのか。

帰ったらすぐに車を出して、避難所に行こう。

しばらく歩いていると、後ろから追いかけてくる音がする。

ゾンビかと思い振り返ると、さっきの男たちだった。

イヤな予がする。

「おいっ！お前銃持ってるだろ！？」「こっちによこせ！！」「早くしろ！！」

口々にんでくる。

こいつら、番に行ったのか。

・・・間一髪だったな。

危うく拳銃裝備のアホが誕生するところだった。

「斷る。これは知り合いの警察に屆ける。俺やお前らが持ってていいもんじゃない。」

噓をついてもどうせ信じてくれそうにないので、正直に言う。

「ふざけんな！どうせそんなつもりないだろ！」「自分で使う気だろうが！」「殺されたいかお前！？」

奴らは激昂してこちらに足を踏み出す。

ナイフ、包丁、バットが武のようだ。

「それ以上寄るな。」

聞くわけもなく、奴らはそのままこっちに向けて走り出す。

この銃だけは絶対に渡すわけにはいかん。

右端のバット野郎に手裏剣を思いっきり投擲。

腹のど真ん中に刺さった。

奴は悲鳴を上げてもちをつく。

一番リーチがある武から潰す。

真ん中の包丁野郎には投げる時間がない。

そのまま飛び込んで、柄頭の部分を両手をばして鳩尾に叩き込む。

左手で鞘を引きながら抜刀し、鎖骨のあたりを斬りつけ、重を乗せた當で転ばせる。

そのまま左端のナイフ持ちに向き直り、地を這うように下段から切り上げる。

ナイフを握る手に當たり、拳の表面を刃がなぞる。

刃を空中で反転させ、切り返した斬撃で肘の側をざくりと切る。

傷を押さえ、戦意を喪失したナイフ野郎から振り返り、立ち上がりつつある包丁野郎の顔面を、上段から切りつける。

額をかすった傷から、おびただしい鮮が吹き出す。

頭はしの傷でも大量に出するから、戦意を失わせるのに便利、らしい。

「これでもまだやるか？・・・次はこんなもんじゃ済まさんぞ。」

振りしながら、地面に転がってそれぞれ痛みにく奴らに言ってやる。

「とっとと俺の目の前から消えろ！！！！殺すぞてめえら！！！！」

かかってきたらホントにぶち殺すつもりで恫喝してやると、3人は這う這うので逃げ出していった。

しばらく観察し、戻ってこないのを確認すると、再び番に戻る。

案の定ひどい有様だった。

室は荒らされ、高山さんのは布団の外に出されていた。

あいつら・・・腕くらい斬り落としてやりゃあよかった。

俺は高山さんを外に運び出すと、番の裏にを掘って埋めた。

うまい合に番にスコップがあったので、そこまで時間はかからなかった。

さっきとは気が変わったのだ、殘しておくとまたさっきみたいなやつらが來るかもしれない。

ゆっくりと眠らせてあげたかった。

家まで帰る途中、周囲を確認しながら歩く。

・・・あいつらの姿はない。

念のため、普段は通らない道や他人の家の庭を通ってかくする。

家に著いたので、中にはらずにそのまま軽トラへ乗り込み、出発した。

いつもより苦くじる煙草を吸いながら、俺はアクセルを踏み込んだ。