《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》01 冒険者ギルドを出になる

僕は、最底辺冒険者のエピク。

今日も薬草採取クエストを終えて帰還。

冒険者ギルドは他の冒険者たちで溢れかえっていた。

「おんやあ? 最底辺のクズは今頃出勤ですかあ?」

僕の姿を見つけて、冒険者の一人が早速絡んできた。

「クズのくせにトロくせぇこったねえ? そんなんだから何年経っても昇格できないんだぜぇ?」

「バカ違ぇよ、よく見ろよ! コイツは今クエストが終わって帰ってきたんだよ!!」

「えぇーッ!? オレ、このクズがクエストに出るところ見てないぜ!? だから今から出勤と思ってたんだがなあギャハハハハハハ!?」

「それはお前が今日晝からクエスト始めたからだろう!? 飲みすぎで朝のうちはグダッててよ!」

「冒険者が酒飲まなくてどうすんだってよ!? 朝から規則正しく『出勤』するなんて、この真面目ちゃんぐらいのもんだって!!」

と僕を指さして言う。

「無能は真面目ぐらいしか取り柄がねえってか!? ギャハハハハハ!?」

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一般的な冒険者は大、朝に出たら晝頃にはクエストを終えて帰ってくる。

標的となるモンスターを行って倒して帰ってくるだけで比較的時間がかからない。

それで充分に一日分の稼ぎを出すことができたし、なんなら晝過ぎに活を始める人たちだっていた。

対する僕は、稼ぎ分となるだけの薬草を集めるのに広範囲を歩き回らなければいけないから、その分時間がかかった。

初心者向けの安泰クエストである分、量をこなさなければいけなかった。

朝早くから出て、日暮れまで一日中採取場をうろつき回る。

そんなことをしている冒険者はギルドで僕一人だけだった。

「朝から晩まで真面目に働くくらいなら、街の勤め人にでもなればいいだろうによぉ。無能には働く場所を選ぶ知能もないってか!?」

「あんまりからかってやるんじゃねえよ。當然のこともわからないからバカって言うんだろう!?」

もはや日常となっている揶揄を無視して僕はギルドカウンターへと向かった。

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今日の果である薬草を納品する。

「F級冒険者のエピクです。最初級クエスト『薬草採取』の達報告にきました」

「かしこまりました」

付をするお姉さんに、摘んできた薬草を渡す。

納品の査定は付の仕事。付のお姉さんは、袋から薬草を出してカウンターに並べると、葉の艶や、ちぎった部分の狀態を注意深く観察して……。

「……はい、どれも最高の狀態です。報酬は満額支給でいいと財務部に伝えておきますね」

「ありがとうございます」

付嬢さんからの言葉に僕はホッと安堵した。

薬草採取は、F級冒険者でもけられるほとんど唯一の簡単クエストであるだけに報酬も安い。

ただでさえ安い報酬を、採取した薬草の狀態の悪さで減額されては生活していけないので、そこは慎重にしていた。

摘む時も、薬草の品質を落とさないように細心の注意をしているし、保存も教わったり研究したりした最善の方法で萬全を盡くしている。

「薬草を引き取ってくれる薬師の方々も褒めていましたよ。エピクさんが採取してくる薬草は最高品質で、いいポーションが作れるって。いつもよいお仕事をしてもらってギルド側も謝しています」

「いえ、僕はこれくらいしか取り柄がないので……!?」

付のお姉さんは、とてもじのいい微笑みで僕のことをねぎらってくれる。

長いこと冒険者ギルドで薬草採取の仕事をしてきて、ほとんど唯一と言っていい報われる瞬間であった。

「エピクさんはF級ですが、クエストに対する誠実さはウチのギルドでも一番だと思っていますよ。朝から晩まで休みなく打ち込んで、地味な仕事でも最高品質を維持しているのはエピクさんだけです」

「はあ……!?」

「他の冒険者たちは、素材納品でもモンスターの解が雑だったり、酷い時は死骸をそのまま持ち込んで『あとはギルド側でやれ』なんてのもありますしね。……いえ、これはただの愚癡でしたね……」

「た、大変ですね……!?」

このギルド付嬢さんは基本いい人だが、それでも仕事のうっ憤は溜まるらしい。

下手に同意しても危ういので、適當に笑って誤魔化した。

「とにかくエピクさんの仕事は丁寧で助かりますってことです。これからもよろしくお願いしますね」

「その必要はない」

えッ?

僕と付嬢さんとのやり取りに、唐突に割り込んでくる何者か。

その聲は濁っていて脂ぎっていて、どこか非常に不快な聲だった。

視線を回し、その聲の主を視認して納得すると同時に張した。

やけに恰幅のいい中年男が、侮るような視線で見下ろしてくる。

「ぎ、ギルドマスター? どうしてこちらに?」

付嬢さんも自然聲と表張してくる。

冒険者ギルドの頂點に立つマスターが、こんな付スペースまで降りてくるのは滅多にないことだった。

「何、長年ギルドに仕えてくれた冒険者に引導を渡すのに、ギルドの長たるオレ様が直接するのが禮儀だと思ってなあ。たとえ相手が、長年何の役にも立たなかった寄生蟲みたいなヤツでもな、ヒッヒッヒ……!」

ギルドマスターは、生理的嫌悪を催すような気味の悪い笑みを浮かべている。

「ど、どういう意味です……!?」

付嬢さんは僕に替わって戸いを表すが……。

「言っただろう『必要ない』と。理解の遅いグズは本當に扱いが困るわ。サクサクと話が進まん」

「だから、どういうことなんですッ!?」

「要するに、そこのクズは今日限りでこのギルドの出りをじる。追放ということじゃ」

ギルドマスターの突き出した指は、明らかに僕に向けられていた。

僕が冒険者ギルドを追放?

どうして……!?

「『どうしてかわからん』という顔をしておるなあ? そんなこともわからんか? 自分がなんでギルドから追い出されるか?」

「わかるわけないじゃないですか! エピクさんは薬草採取のクエストを毎日完璧にこなしてくれているんですよ!? 落ち度なんて一つもありません! それなのに……!?」

付嬢さんが僕に代わって抗議してくれるが、そんなことは意にも介さぬとばかりに。

「本當にわかっとらんな? 落ち度? 薬草採取なんて最底辺クエストしかけておらんこと自が『落ち度』だと思わんのか?」

「そんな……!?」

「このオレ様が支配する冒険者ギルドは、他の街のところとは比較にならん最強最高の冒険者ギルドでなくてはならんのだ。だから無能はいらん。ハイクラスの冒険者だけがオレ様のギルドに籍を置く資格があるのだ!!」

僕が冒険者ギルドに登録してからもう何年も経つ。

その間、新たに登録してF級から始まり、すぐさま昇級して僕を追い越していった後輩が何人いたことか……。

「最低辺のF級にい続けて何年も……。一度も昇級できない時點で、見込みがないことに気づけんのか? 普通なら自分からを引くべきところを未練がましく居座っておるから、このギルドマスター様直々に切り捨ててやろうというのだ、有り難く思え!!」

「待ってください! エピクさんは現狀、もっとも信頼できる薬草採取の引きけ手ですよ!? 彼がいなくなれば他に誰が……!?」

「薬草など、他の正當な冒険者どもが持ってくるモンスター素材に比べればゴミじゃろうが! 価格もな! なくなろうと何とでもなるわい、こんなもの!」

そう言ってギルドマスターは、カウンターに広げられたままになっていた薬草を、その手で払い落した。

今日、僕が日中駆けずり回って集めた薬草が、床に落ちる。

それを追い打ちとばかりに踏みつけ、靴底でグシャグシャとにじる。

「ギルドマスター!? なんてことを!?」

「薬草などゴミと同じよ、コイツと同じでな! さあギルドの役に立たんゴミはさっさと出ていけ! オレ様の冒険者ギルドは最強最高! それに所屬する冒険者も最強最高が相応しいのだ! オレ様のギルドにいる資格のないクズは、オレ様の手で排除する! それがギルドマスターであるオレ様の仕事よ!」

僕があんなに苦労して集め、品質が落ちないよう気を付けて保存していた薬草も、ギルドマスターの靴の裏でグシャグシャとなっていた。

あれではもう売りにもならない。

本當にゴミ同然のシロモノだ、僕と同じように……。

「納得いきません! 特に違反も犯していない冒険者を、特定のクエストだけしかけていないなんて理由で追放するなんて……! このことを冒険者ギルド理事會に報告します! その上で正當な判斷を……!!」

「いいです、そこまでしてもらわなくても大丈夫です」

僕に代わって激昂してくれる付嬢さんをなだめる。

いつかこんな日が來ると覚悟はしていたんだ。

萬年最底辺のF級冒険者。そんな僕がいつまでもギルドにい続けられることなんて無理だと。『お前なんかここにいる資格はない』と言われる日が來るんだろうと覚悟していた。

そう言われた時は、足掻きなどせず潔く去ろうと。

「僕なんかのために、そこまで抗議してくれてありがとうございます。でもずっとF級から上がれない僕が今日までギルドにいさせてもらったこと自だったと思っています。『出ていけ』と言われたら出ていくしかありません」

「ハッ、無能がよくわかっているではないか! しかしそこまで弁えているなら、言われる前に自発的に去ってもらいたかったがのう!」

「これまでお世話になりました」

踵を返し、出口へと向かう。

明日以降、僕がここへ戻ってくることはもう二度とない。

「おいおい、せめて今日分のクエスト報酬は貰っていかんのか? ああそうだ、今日の分の薬草はグシャグシャになって納品不能だったな! 底辺のクズ冒険者は採取品の管理すらロクにできずに困ったもんじゃわい!!」

ギルドマスターの高笑いを背に、僕は冒険者ギルドを去った。

差し當って明日以降どうやって生活費を稼ごうか、というので頭の中がいっぱいだった。

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