《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》12 鍛冶師の衝撃
「お前なあ! マジョロウグモって言うのは鍛冶屋にとっちゃ夢のモンスターなんだぜ!?」
「は、はあ……!?」
「特に殻! 甲殻がスゲェいい素材なんだ! 軽やかで薄いわりに強度がとても高い! 同じ厚みの鋼鉄と比べても二倍は強度があるくせにずっと軽いんだ! ソイツを使って防を作れば服と変わりねえ軽さでフルプレートアーマーと同等の防力になる! まさしく最優良ぉおおおおおッ!!」
あの、薬師にかかる患者がこんなに興していいんでしょうか?
ある瞬間にポックリ逝っちゃうんじゃないかと気が気でない。
どうやら鍛冶師であるズドットさんにとって、多くのモンスターが転がっているこの部屋はまさにおもちゃ箱のようなものなのか?
スェルは、こんなヤバい場所にヤバい人をお連れしてどうするつもり?
「マジョロウグモの毒は、使いようによっては鎮痛剤になるんですよ。毒線を取り出して、薬草を調合してー」
チャチャっと作った。
「A級相當のモンスター毒だからいつも上げてるお薬より數段効きますよー。これならまあ三日でなくなることなんてないでしょう」
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「いや、あのそれより……! 殻……! マジョロウグモの甲殻……!?」
出來上がったお薬よりも、モンスターの素材に首ったけな鍛冶屋さん。
毒腺を抜いた殘りの方に興味釘付け。
「あ、エピクさん、その殘ったクモは消しちゃっていいですよー」
「いいの?」
「ええ、薬剤利用部位はもう全部取り終えましたんで」
許可が出たんなら遠慮なく……。
『消滅』スキルでバシュン。
「はんぎゃおぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーッッ!?!?!?!?」
なんか凄い絶が上がった。
怪鳥だってここまで珍妙な鳴き聲はしないと思う。
「はぎゃーッ!? どこ!? お寶マジョロウグモの甲殻はどこぉーーッ!?」
「消し去りました」
「なんでそんなことするの!?」
何でと言われましても。
ここ薬師協會では、お薬にならないモンスター部位は使いようがない。そうなるともう腐らせてしまうしかないけど、そんなことしたら不衛生でしょう。
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ただでさえここは怪我人病人のために薬を作る場所なんだから衛生管理はしっかりしないと。
「そんなことないよぉおおおッッ!? とっても役に立つよぉおおおおおッッ!? しかもお寶だよぉおおおおおおッッ!?」
「ズドットさん、そんなことより鎮痛剤を……!」
「今それどころじゃないよぉおおおおッッ!!」
何しに來たんですかアナタ?
「ズドットさん、ここにあるモンスターは、薬剤にするためにエピクさんが狩ってきたものなんですよ。そういう契約ですからね。エピクさんは薬師協會専屬の薬草採取者なんです」
「新しい雇い人ってのは、そういうことだったのか!?」
今や摘み取ってくるものは薬草だけに止まらなくなってきておりますがね。
オールラウンダー薬剤集めに昇格?
「だからエピクさんが持って帰ってくれたものは薬剤加工以外に使うことは許されないんですよ。余った部分はもったいないですが即処分です!」
「そんなわけあるかああああああッッ!? あの素材があれば、どんな高能の武防が作れることか! それこそ鍛冶屋の夢なんじゃあああッッ!! ……はッ!?」
そこで彼は気づいた。
この部屋にはまだてんこ盛りのモンスター素材があることを。
薬剤にできるものできないもの區別なく一塊になっている。マジョロウグモの死骸もまだ數殘っていた。毒腺抜かなきゃ。
「まさかあれも……!?」
「選別が終わったあとは処分されますね」
「ダメええええええええッッ!?」
飛び上がるズドットさん。
腰の痛みはどうした?
「こんなお寶を何もせずに処分なんて鍛冶の神様が怒り出すぞおおおおおおッッ! ワシが! ワシが買いとる! お前らが使わんならワシがいくら買ったってよいじゃろぉおおおおおおッッ!?」
「そりゃダメですよ」
「なんでじゃああああああああッッ!?」
すげない拒否にズドットさん益々逆上。
「だって僕は薬師協會に専屬契約してるんで、部外者と取引したら契約違反になります。仁義は通さないと」
「そんな固いこと言うなよぉおおおおおんッッ!!」
というかズドットさんさっきから元気すぎませんか?
腰の痛みはどうした?
それだけスェルの作った薬の効果が凄いのかなと思ったが、どちらかというと神的な作用が大きいように思える。
とにかく元気になったんなら帰ってくれないかなあ。
「エピクさん。この魔の薬材選別終わったんで処理お願いできますー?」
「んおッ、スェルいつの間に?」
「ズドットさんの話が長くなりそうなんで、本來の作業に戻っていました」
さすがスェル時間を無駄にしない。
マジョロウグモ毒の鎮痛剤を作ったからにはズドットさんの件は無事終了したと判斷していいからなあ。
そりゃあ本來の業務に戻るか。
「待て、選別が終わったということは殘りの部分は……?」
「『消滅』させますが」
「だからやめろって言ったろぉおおおおおおッッ!!」
縋りついてきて一向に作業が進まない。
そりゃまあ鍛冶師である彼にとっては薬師が『いらぬ』と捨てて殘った部分こそが本當に味しい部分であるのだろうが。
「おいこりゃあああああッッ!? スェル! 薬師協會長の娘!! 話をさせろ! こんな優良な素材を目の前で々にされるなど鍛冶屋にとっちゃ拷問じゃああああああッ!?」
正確には『々』でもないんですがね。
々をさらに々にしたじ?
とにかく僕個人での話では埒が明かないとじたらしいズドットさん、より意思決定の強い権限を求めてスェルに渉の狙いをつける。
「そんなこと言われても困りますよ~。私だって協會長がお父さんってだけで正式な肩書きは一薬師なんですから~」
「じゃあ誰に訴えたらいいんじゃああああッッ!? とにかくここの素材全部ワシにくりゃれぇええええええええッッ!!」
強な。
「とりあえず腰はもう治りましたよね?」
「そうじゃ! いいことを思いついた! 金で取引できんなら別のものでどうじゃ!?」
話聞かないなあ、このおじいさん。
「この素材をくれたら、ソイツでワシが裝備を作ってしんぜよう! お前さん専用の裝備じゃ! 無料で進呈しようではないか!」
「えええ……!?」
それ何か意味あるんでしょうか?
特に僕は『消滅』スキルがあるので武はまったく必要ないのですけれど。
今じゃ『消滅メス』があるから冒険者必須の解ナイフすら必要ない。
「な、なら防でどうじゃ!? マジョロウグモの薄殻を使うとなあ、軽くて薄くて服と変わらんような鎧ができるんじゃぞ! そのくせ頑丈さは鋼鉄製より上じゃ! ワンランク上の冒険者ならむしろ持ってて當たり前の優良裝備じゃあ!!」
ワンランク上と言われましても……。
僕は元々最下級のF級冒険者。そして今はクビになって冒険者そのものでもない。
「何々わかっとるんじゃぜぇ……!? これほど豪勢な素材を集めてきたってことはお前さん、魔の森の奧へったのう?」
「うッ!?」
あっさりと見抜かれた。
「あそこから生きて帰ってくるにはD級C級程度の実力じゃどうにもならん。実際に生還しただけでなくこれだけの土産を持ち帰れたってことは実力もそれ相応ってことじゃあ。そんな猛者が、こんなヨレヨレの冒険服じゃあ格好がつかんぞぉ? ホレホレ?」
と言われて引っ張られたのは、僕の著ている一張羅。
もう一年近くもこれだけで通しているのでヨレヨレのボロボロだった。
そういやギルド付嬢さんにもヨレヨレだって言われたがF級のない報酬じゃこれがいっぱいだったんだ。
でも古著屋で掘り出しを運良くゲットできたんだぞ。
ほとんど袖を通されてないような新古品で、買えた時は嬉しさで舞い上がった當時の思い出。
今は見る影もなくボロボロだがな。
「いいものにするかどうかは別として、買い替えはしないといけないんじゃないですか?」
スェルにまで言われて買い替えを強いられる僕。
「ウチからお給金は出てるんですから資金に問題はないでしょう? ここは思い切ってガッツリ使いましょうよ!」
「では今日から古著屋巡りだな」
「なんで頑なに安く済ませようとするんです?」
に染み込んだ貧乏の本能が!
「だーから! ワシがタダで作ってやる言うとろうが! この鍛冶師組合長ズドット、その道四十五年の磨き抜かれた技によって、この街の新たな英雄に相応しい裝束をこさえてくれる!」
強引さでもって割り込んでくるズドットさん。
どうしても僕の新しい裝備を作りたくてたまらないらしい。
どうしてそこまで執拗なのか?
「正直言うとのう。こんなにいい素材にれるなんてもう二度とないと思っていたからのう。老い先短いこの、しでも悔いのないようにしておきたいんじゃ!!」
本當に純粋に優良素材を加工したいだけのようだ。
ここまで切実にまれたら、僕も斷り続けることはできなかった。元々押しの弱い格だし。
「わ、わかりました……!」
「やったー!!」
するとズドットさんはあれよという間に弟子の鍛冶師さんたちを呼び込み、部屋にあった素材こそぎ持っていきやがった。
「誰が全部持ってっていいと言った!?」
「薬師協會の取り分はちゃんと取っておくから安心せいやー!!」
薬師と鍛冶師で必要としている部位が違うところが唯一の救いか。
アレを見てわかるがズドットさんの腰痛の原因は神的なものだろうな。
歯ごたえのない素材ばかりを扱わされることでスペシャリストにかかるストレスの高さは、一どれほどのことなのか。
「どうやらモンスターの他の部位もお薬になったようですねえ」
狀況を見て苦笑いするスェル。
上手くまとめやがったな。
オーバーロード:前編
未來に存在するVRMMO『ユグドラシル』のサービス終了の日。最強クラスのギルドの一角である『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスター『モモンガ』は、メンバーと共に作り上げた居城の玉座に、臣下たるNPCたちにかしずかれながら座っていた。たった1人で、もはやいないかつての仲間達を思いながら。 そしてサービスが終わり強制ログアウトが生じるその瞬間、異変が起こった。ログアウトできず、そして何より話すことの出來ないはずのNPC達がまるで生きているかのように忠誠を示しだしたのだ。さらには外の世界は未知の世界。モモンガは混亂しながらも、絶対者(ギルドマスター)として行動を開始する。 これはアンデッドの肉體を得た絶対者たるモモンガが、己の(頭のおかしい)目的のために、異世界を蹂躙していく物語である。 この作品はarcadia様の方でも公開しております。
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