《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》24 愚者だけが賢者の想像を超える

僕ことエピクは、ここ數日することなく薬師協會本部にり浸っていた。

だってやること特にないし。

これまでずっと森で薬草採取する生活。

余裕がないので休日返上で毎日やってたからなあ。最長記録は九七二連勤よ。どやッ。

そんな僕なので唐突に仕事がなくなると逆に手持ち無沙汰で困る。

ここ最近は薬師協會から充分な報酬を頂いているので、いきなり収が斷たれたところで慌てなくてもいい。

それは薬師協會も同様で、既にこういう事態は予測済みでそれに備えて充分な薬剤をため込んでいた。

保存に手間はかかるもののストックされた分だけで一ヶ月は無理なく営業可能なんだそうな。

周囲からも『せっかくなんだからゆっくり休みなさい』と言われて休む以外の選択肢がなくて困する僕だった。

なので薬師協會本部にやってきて頼まれてもいないのに掃除とかする僕。

その隣でスェルがぶんむくれていた。

「……まだ怒ってるの?」

「當然です!! 何であんな嫌な人たちの思い通りになるんですか!? 大人しく引き下がったお父さんなんて嫌い! 意気地なし!!」

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世のお父さんに大ダメージを負わせる娘からの罵倒はやめなされ。

り口近くで様子を窺っていた薬師協會長さんが案の定、痙攣しているではないですか。

「ぐおおお……ッ!? スェルはまだまだ駆け引きというのがわかっていないようだね」

「そんな吐しながら言われても」

「あえて引くことで相手によりダメージを與えられることもあるんだよ。相手が愚かなら特にね。こちらが手を汚すまでもなく勝手に自滅してくれるならその方がいいじゃないか」

と悪そうなことを言う薬師協會長さん。

今回の冒険者ギルドのイザコザには、それが當てはまると。

「私はずっと思っていたんだよ。魔の森の奧までれるエピクくんの実力、最近になって運び込まれるモンスター素材の質と量。キミ実は相當なモンスターを駆除してきたんじゃないか?」

「は、はあ……!?」

『消滅』スキルで消しまくってきたんで証拠は挙がりませんが。

なくともここ數年の間は、エピクくんが危険なモンスターを間引き続けたことで他の冒険者たちには弱いモンスターしか回ってこなかったことは容易に想像できる。ハッキリ言ってぬるま湯環境だ」

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そんなぬるま湯環境は、僕がギルドを辭めたあともひとまず続いた。

僕が薬師協會専屬として森にり続けたからだ。

しかしそれもギルドマスターのバレるところとなり、締め出しを食らっていよいよ森にれない。

そうなれば今頃、これまで僕が駆除してきたモンスターは……。

「今頃他の冒険者に牙を剝いていることだろうね」

「そんなことになったら! 大変じゃないですか!?」

今のこの街の冒険者は、僕が討ちらした下級モンスターばかり相手にしてきてぬるま湯ドップリ勢なんだ。

そんな彼らが、森の奧……いや中間地點の中級モンスターにでも遭遇したらどうなるか。

「別によかろう」

薬師協會長さんはこともなげに言った。

「彼らもみずから冒険者を志したなら命を失う覚悟はできているはずだ。安全を保障されなければ冒険できないというなら、そんなヤツは冒険者ではない。今すぐ職を変えるべきだ」

言うことがシビアだ……。

さらに話を聞いてスェルが手探りするように言う。

「要するに……、狩り場をアイツらに明け渡してもどうせモンスターに駆逐されるだろうから大丈夫ってこと?」

「それに加えて、ポーション販売止令も発したから向こうは完全に詰みだろうね。向こうが派手にケンカを売ってくれたもんだから、こちらも憂いなく伝家の寶刀を抜けたよ」

いやでもさすがに……。

僕が駆除しなくなって數を増やしたモンスターが甚大な被害をもたらしていると予測できているところへ、傷を治すポーションの供給が斷たれたら全滅不可避じゃないか。

「ぬるま湯に浸かりきっていた彼らが音を上げるのに時間はかかるまい。早晩我々に泣きをれるだろうさ、それかエピクくん個人に突っ込んでくるか……。もし頼られても迂闊に助けてはいけないよ?」

「で、でも……!?」

「かつてはこの街も、屈強な冒険者たちで活気にあふれていた」

「?」

唐突な話題替えに、僕も困

「ギルドからE級査定をけている魔の森だが、奧に進むほどそれ以上の強豪モンスターが待ちかまえる難所だということはもう知っているだろう?」

「は、はい……!?」

「私が二十歳そこらの頃は、魔の森を征服してやろうと多くが集まったものさ。野と熱意に満ち溢れた本の冒険者がね。今この街のギルドで屯っている連中は違う。覚悟も熱意もなく、ただ冒険者というだけで粋がっているニセモノどもだ。そんなヤツらに本當の冒険者の困難を教えてあげたくもあってね」

そんなことを言う薬師協會長さんの表に、言い知れないりをじる。

「でで、でも、それなら現狀の冒険者に森のモンスターを抑え込むのは無理ってことじゃないですか? そうしたら本格的に森から溢れたモンスターが街にもってきて、大きな被害が……」

「安心したまえ、そうはならない」

やけに自信たっぷり斷言しますね?

「魔の森に生息するモンスターは、その外に出ることがないんだよ。そういう風に決めているからだ」

「決めてるって、誰が?」

「魔の山の主が、さ」

魔の山。

魔の森のさらに奧にあるという伝説級の境だったか。

前にも幾度か話題に上ったことがある、そこに住むという最強の怪についても。

「魔の山の主は、魔の森まで含むここら一帯の怪の王だ。その意志に逆らうことは誰もできない。モンスターも、主が発する呪力に本能を抑えられ、決められた範囲の外を出ることができないんだ」

「そ、そんなこと初めて聞きました……!?」

「みだりに言いらせないことだからね。それに人間側も、モンスターに侵されない代わりに主からの約束を守らされている」

「約束?」

魔の山の主を騒がせてはいけない。

日々の糧を得るため魔の森にることは許される。しかし膝元で騒がれれば煩わしいので、魔の山にはいることは絶対に許されない。

「じゃあ、しつこいぐらい『魔の山にるな』と言われたのは……? 山の主との契約のため?」

「なんか釈然としないわね。魔の言うことに人間が従わされるなんて……」

スェルの述べた想に、父親である薬師協會長さんは何故か悲しげな表を見せた。

「そう言うものではないぞスェル。魔の山の頂に住むあの方は、魔であるが同時に神ともいうべき存在だ。あの方にとってはモンスターも人間も等しく小さな存在にすぎないのさ」

魔の森にE査定がついているのも、何十年も昔に魔の山の主の存在を知るギルド関係者がおもねってつけたものだという。

『山の主が支配しているので安全』と『山の主を刺激してはいけない』という二重の意味から。

「ということで小者がジタバタしても大した事態にはならないということだ。私たちはここでゆっくり彼らの自滅を待とうじゃないか」

「むー」

スェルはあんまり納得していない様子。

そこで外の方がなんか騒がしくなってきた。

「おや? もう冒険者ギルドが音を上げてきたのかね?」

と薬師協會長さんが気楽に言っていたが、ドアを押し倒すように転がり込んできたのはギルド付嬢のヘリシナさん!?

「た、大変です! ギルドが、ギルドマスターが……!?」

付嬢さんの慌て方が尋常ではなかった。

いつもからは考えられない慌て方。

「森に火を放ちます!!」

「何ぃッ!?」

なんでそんなことに!?

大方の予想通り、間引きのなくなった森で強力なモンスターたちに苦しめられた冒険者ギルド。

それを逆転のために森ごと消し去ろうと火をつけるという。

思考法が破滅的だった。

「お父さん! これも計算のうちなの!?」

スェルの問いに薬師協會長さんは即答しなかった。

「……火そのものは問題ない。他のモンスター出沒地帯同様、魔気が満ちた魔の森は自然の炎などすぐに押し消してしまう。だが……!」

だが!?

「いくら山の主の支配をけていてもモンスターは本能を優先する。獣は火を何より恐れる。火に煽られれば山の主の命令も忘れ、方向もかまわず逃げうかもしれない」

その結果……モンスターが群れをして街に向かってくるということも。

「すまないエピクくん、私の考えが甘かった……!」

薬師協會長さんが迷わず僕へ頭を下げる。

「ヤツらがここまで愚かだったとは! このままでは街に被害が出るかもしれない! 私の愚行の拭いをさせてすまないがエピクくん、バカどもを止めてくれ!」

「わかりました」

この街に被害を及ぼすことはあってはならない。

僕はすぐさま決斷し、部屋を飛び出す。

街の外、魔の森へ向かって駆け出す。

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