《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》25 魔の森炎上

走る走る僕エピク。

魔の森へと到著。

いつも通い慣れた魔域とは様相が異なっていた。まったく違う。

炎に焼かれる木々は赤々と燃え盛り、僕の頬を熱く照らしていた。ごうごうと唸る風が木枝を揺らし、ちぎれた葉が流され飛ぶ。

その葉っぱにも火が乗っている。このままではどんどん燃え広がることだろう。

「もっと火を燃やせ! 松明ジャンジャン持ってこい!」

森の中で蠢く二十人程度の一団がいた。

その中で指揮を執っているのは、あの冒険者ガツィーブだった。

「この森を焼き盡くすんだ! 火をくべろ! 油を撒け! こんな森、モンスター諸共焼けてなくなれぇええええッ!! ギャハハハハハハッ!!」

冒険者が、みずからの生活基盤とする狩り場を潰そうというなんて。

本當に何を考えているんだ。

「やめろッ!!」

僕は迷わず飛び出した。

兇行を行う彼らに立ちはだかり、同時に火をつけた松明や、油のドップリ溜まった壺。

とにかく火の元となる品を目につく傍から『消滅』させる。

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そのショックが大きかったのだろう、ガツィーブとその配下冒険者は皆僕へと注目してきた。

よかった無視されなくて。

「お前……、エピク? 最低F級野郎?」

「なんでコイツが……!?」

「あれ、松明も油も消えちまった!?」

睨み合う形となる僕と集団。

火付けの道は消し去ったが、一つ殘らずというわけでもなく何より木々は轟々と燃え盛っているので、まだ全然事態の打開にはなっていない。

「アナタたちには冒険者の誇りはないのかッ!? 自分たちのしていることが理解できないのか!?」

かつて僕は、この人たちに何も言い返せなかった。

F級冒険者という絶が僕から自信を奪い去った。何も言う資格がないと。

でも今なら、スェルやたくさんの人たちがくれた自己肯定から、負けずに立ちはだかることができる。

「煩え底辺F級! どきやがれ!!」

でも怒鳴られるとやっぱ怖い!

「テメエみたいな最弱野郎に誇りを云々される筋合いはねえんだよ! オレは最強のD級冒険者ガツィーブ様だぜ!」

「最強冒険者はS級だ。D級からは遙か遠い」

「黙れ揚げ足取りのクズが!!」

ガツィーブ、前に會った時と同様全然話が通じない。

余裕がないんだ、何でこんなに追い詰められているんだ?

「なんでオレがこんな目に合わなきゃいけねえんだ!? 負けたんだぜオレが、モンスターごときに?」

「?」

「A級のクソはまだいいよ……! A級だよ、しょうがねえもんな。A級だからだよ……! 聖獣に負けるのもしょうがねえ。でも普通のモンスターにまで負けるなんてありえねえだろうが!!」

そう彼も、僕が締め出された以降の森へったのだろう。

そこで野放しになった兇悪モンスターと遭遇し、負けた。話によればB級A級相當もうろつく本來の魔の森だ。

ガツィーブではまったく歯が立たず、逃げるだけで一杯だったろう。

その事実が彼のプライドをズタズタに?

「オレが負けるわけねえ! D級の最強の冒険者が負けるわけねえ! だから燃やしてやる! 森ごと燃やせばモンスターどもも一網打盡だ! 人間様の知恵を思い知れ! ギャハハハハハハッ!!」

彼の説得は無理そうだ。

を消し去り、これ以上火の手を広げることは無理だろう。

放っておいて本格的な消火活を開始する!

消火の消は『消滅』と同じ、何とでもなるはずだ!

「行かせるな、囲め!」

しかしそんな僕を逃がすまいと冒険者たちがきだす。

大人數を利用して僕一人を取り囲み、前後左右どちらにも行かせまいとする。

「クソ底辺、お前にも恨みをしっかり晴らさなきゃなあ! 自分の罪を償わずに済まされると思うなよ!?」

「僕の罪?」

何のことだ?

「そもそもテメエがゴミ薬師どもと手を組んで嫌がらせするから悪いんだろうよ! それがここまで悪い狀況を生んだんだ! テメエだけは絶対に許さねえ! ここでぶっ殺して天罰キメてやるぜ!!」

ガツィーブが振り上げたのは、ただの木の棒。どこで拾ってきたのかもわからぬ武とも呼べない棒切れであった。

彼の剣は、この前『消滅』させたからなあ。

會うたび末な得になっていく。

「F級が粋がった報いだ! ここで死ねやぁ!!」

もちろん殺されるつもりなどないので抵抗するつもりだった。

しかしその必要もなかった。

炎の向こうから現れた者によって、冒険者たちの陣形はたやすく散り崩されたのだから。

「うぎゃああああッッ!? モンスターだッ!」

「オオカミ!? 最近出てきた超強ぇヤツだ! オレたちじゃ敵わねえ!」

「逃げろぉおおおッッ!?」

モンスターに対する反応も逃げ足も、まるで一般人そのものだった。

冒険者なら対抗する素振りだけでも見せればいいのに。

そんな彼らも逃げる必要はなかった。

現れたモンスターを僕がすぐさま『消滅』させたからだ。

「はへッ!? モンスターは?」

「消した? エピクが?」

衝撃に言葉も忘れる冒険者たちへ……。

「これが僕のスキルです。対象に捉えたものを何でも『消滅』させる。大きさもさも関係ありません。何でも無條件に消せます」

僕がこのスキルを彼らににしてきた。

理由は恥ずかしいから。

冒険者として討伐証明も殘せない、素材も持ち帰れない全部消してしまうこの能力は何の役にも立たないと。自慢するだけ恥ずかしいと思っていた。

でもそれが、僕の罪だったんだね。

「僕は自分のスキルを否定して、隠して、誰にも知られずに森のモンスターを狩ってきました。それで森から強力なモンスターがいなくなって。弱いヤツしか相手をしないアナタたちが勘違いしちゃったんですよね?」

その言葉に、冒険者たちの浮かべる反応は様々だったが、中でもやはりガツィーブが激烈なリアクションを示した。

目ん玉が飛び出るかというほど見開き、こっちを凝視する。

「しかしどんなに恥ずかしかろうと、僕は自分のスキルを公表して報を共有すべきでした。僕の足りない考えでギルドに歪みを生み、挙句こんな事態にまで繋げてしまった。申し訳ありません」

ペコリと頭を下げる。

「僕は自分の責任を取るためにも、必ずこの火を消し止めます。だからせめて邪魔だけはしないでください。もし邪魔するなら……!」

僕らの街を、皆の採取場であるこの森を守るために、僕にできることは結局『消滅』させることだけ。

「……アナタたちも消しますから」

「その必要はないわ」

急に寒くなり、気溫が下がった気がした。

しかしそう思ったのは僕だけだった。他の人……対峙していた冒険者たちは『寒い』どころの話じゃないだろう。

「ぎゃああああああッ!? 寒い!?」

が凍る!? 凍る!?」

「足がかねえ、氷で地面にピッタリ張り付いてるうううううッッ!?」

あれは氷の魔法スキル?

冒険者たちはの表面を凍らされてき取れなくなったようだ。

でも僕はそんなこともない。

『消滅』スキルで無意識にキャンセル……いや、相手が対象から外したんだね。

「本當に救いがたい連中ね。こんなヤツらと同類と思われるだけで最悪だわ」

「リザベータさん?」

A級冒険者のリザベータさん?

もう帰ったんじゃなかったの?

「帰ってないわよ。しばらくこの街でバカンス過ごすって言ったでしょう。……でもまあこんな大ピンチに休業中だからって知らんぷりできないわよね」

それで駆けつけてくれたと……。

これが真の冒険者。

「さあ、協力して火を消すわよエピクくん。私の氷雪スキルなら消火活に打ってつけ……と言いたいところだけれど、骨が折れそうねえ」

炎は木から木へと燃え移り、もはや視界全部が赤く染まっている。

それでもまだ延焼面積は魔の森の一部に過ぎないんだろうが、煽られて平靜を失い、街に向かうモンスターがいつ現れるかわからない。

一刻も早く火を消さねば。

「リザベータさん、僕に任せてもらえませんか。試したいことがあるんです」

ここ最近『消滅』スキルの応用法をいろいろと試してみた。

その方法のほとんどは、意識して『消滅空間』を細く、小さくしていくことだった。

しかし今度はその逆。

あえて大きくしてみようではないか。

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