《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》26 飲み込む虛

『消滅空間』を作可能だとわかった時、空間を収することも可能なら拡大させることも可能だとわかっていた。

どれほど大きくすることができるだろうか?

理論上制限がないならこの世界すべてを消し去ることも可能だろうけれど、それは怖いからやらない。

『消滅空間』を極限まで広げて魔の森の炎上範囲を全部のみ込む?

それもいいかもしらんが、あとの被害が甚大すぎる上に、あんまり『消滅空間』を広げると命を削ることになるかもしれない。

なのでもっとスマートなやり方を試してみた。

『消滅空間』が部の空気まで『消滅』させ、一瞬だが真空を生み出すことは既にわかっている。

一定気圧を保つ作用のために、出來た真空にはすぐさま周囲の空気が流れ込むのだが、それは言い換えれば『消滅』スキルで空気の流れを作り出せるということ。

最低限、自分のところへ空気が流れ込んでくるように。

『消滅空間』を連続で作っては消し、作っては消しすることで出來た真空に空気が流れ込んでくる。

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それはもう排水へ向かっていく水流のようだった。

一定方向への空気の流れに乗って、葉っぱのような軽いものも一緒に流れ込んでくる。

火に燃え、周囲に燃え広がろうとするものもすべて。

火のも。

こちらで追うまでもなく、向こうから吸い寄せられて『消滅空間』に飲まれて『消滅』していく。

「う、うっそぉ~?」

傍らで見守るリザベータさんが間の抜けた聲を発した。

風の流れが渦となる。

それに飲み込まれる木の葉、その木の葉を燃やす炎の赤いで、風の流れがよく見えた。

木を燃やす炎まで剝がされて吸い込まれていき、最後には『消滅空間』に飲まれる。

強力吸引だが所詮は風の力なので一定以上の重いものは飲み込まれない。

火がつくのは大抵軽いものからなので、それらを消し去るには非常に都合がよかった。

「……さて」

このくらいでいいか。

の火の手は吸引し終わった、周囲は燻って真っ黒な炭か、逆に白い灰の風景のみだった。

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枝葉を取られて丸坊主になってしまった幹は悲慘だが、ここは歪なる生命力で満たされた魔の森、回復も早いだろう。

「ただこれだと木の中にまで燻った火は消せてないから念りに消火活しないと。リザベータさん手伝ってもらえますか?」

「あ……!? うんそうね。ここでしは手伝わないと來た意味ないもんね……!?」

リザベータさんには氷雪スキルで雪を噴き散らしてもらい、その水分と冷気で燻りも完全に消えるだろう。

モンスターたちも平靜に戻り、間違って人里に突することもあるまい。

僕らはしっかりと確信を持って、現場から撤収した。

「お、おい……!? もう火は消えたからいいだろ? オレたち解放してくれよ……!?」

「アンタたちは放火犯として衛兵に引き渡すの。解放するわけないでしょ」

「そんなヒデェよ!!」

冷凍保存しておいた冒険者たちも伴って。

街に戻ると、なんか偉い騒ぎになっていた。

城門に人だかりができている。それが皆一緒になって歓聲を上げているのだ。

ただの聲でも何百人とまとまれば怒濤の衝撃になるんだなと知ってビビった。

傍らでリザベータさんが言う。他人事のように。

「英雄の凱旋はいつにもまして壯観ねー」

「英雄? 誰が?」

「アナタに決まってるでしょう?」

そんな當たり前のことみたいに言われても。

「さすがに魔の森の大火事は、街中に知れ渡る兇事だからねえ。最悪火に追い立てられたモンスターに街を壊滅させられるかって瀬戸際、最低限の被害で済んで一安心ってところよ。その最大の功労者はアナタなのよエピクくん」

「僕は、當たり前のことをしただけなんですが」

「當たり前のことをして稱賛されるなんて一番素敵なことじゃない。を張りなさい、今日の主役は間違いなくアナタよ」

城門周りに詰めかけてきた人の誰もが笑顔で手を振っている。

彼らの笑顔を守ったのは、僕か。

そう思うと自然誇らしい気持ちになり、手を振り返すと益々歓聲が上がった。

「エピクさん!」

さらに駆け寄ってきたのはスェルだった。

向かう場所が危険だったとはいえ、彼には心配させてしまって申し訳ない。

「凄いですよ! 森で凄いことになってるのを皆街から見てました! エピクさんが凄いのを皆で確認しましたよ!」

「え? 見えてたの!?」

あんな遠くから?

やっぱり規模が大きいと周囲に大きく伝わるもんだなあ。

「これでもうエピクさんをバカにする人なんていません! エピクさんはこの街一番の冒険者です! この街の英雄ですよ!」

「A級の私は?」

「アナタはただのお客さん!!」

そこへさらにダダダダッと足音が近づいていた。

汚い足音だった。

僕の目の前にいたスェルを突き飛ばす。

「きゃあッ!?」

「スェル!?」

慌てて助け起こそうとした僕を、強引に腕を摑んで引き寄せる。

「ゲハハハハ! よくやってくれた我が冒険者よ!」

それは冒険者ギルドのギルドマスターだった。

馴れ馴れしく僕の肩に手を回し、仲よしさんでもアピールするように著する。臭い。

「街の皆さま! 襲い來る危機を我がギルドのエース! エピクが解決しましたぞ! オレ様はギルドマスターとして、我が部下を誇りに思います! 一緒に讃えてやってくだされ!!」

何をいってるんだ?

この火事騒はギルドマスターの指示で行われたことは知っている。

「やめてください」

僕はすぐさま振り払い彼からを離した。

主張を迷い、流れにを任せるだけの僕ではもうない。

「僕はアナタの部下じゃありません。アナタの決定で僕はギルドを追い出されたんじゃないですか」

「な、何を言うのだオレ様のもっとも忠実な部下エピクよ。何か悲しい誤解があるようだな。オレ様はお前ができるヤツだとずっと前からわかっていたぞ?」

「そんな相手を日頃から最低だの無能だの罵っていたんですか?」

「誤解だ! 聞き間違いだろう? きっとそうに違いない!!」

愚にもつかない言いわけを並べながら目では『合わせろ! 話を合わせろ!』と視線で訴えかけてくる。

そういう空気が読めてしまうのは僕の気の弱さゆえだが、もう屈しない。

そうして空気に流され続けてきた僕の弱さが今日の事件を発したんだと反省したんだから。

「ギルドマスター、森に火をつけるように指示を出したのはアナタですよね?」

「ギクッ!? そんなバカな! 何を勘違いしている!? 何を拠に……!?」

「現場で確保した彼らがそう証言していますよ」

振り向けば、既にガツィーブ以下お縄についた冒険者たちがリザベータさんの監視下で跪いていた。

逃げようとすれば容赦なく刺されるor凍らされるなので抵抗の意志はとっくに刈り取られている。

「さっき言ったことをワンモア」

「森を燃やせって言い出したのはギルドマスターだ! 手に負えないならいっそ燃やしちまえって! オレたちはギルドマスターの指示に従っただけなんだぁあああッッ!!」

大勢の前で明らかになるギルドの非道。

ギルドマスターは顔を真っ赤にしてまくしたてる。

「騙されるな! アイツはしでも自分の罪を軽くしようとデタラメを抜かしておるんじゃ! オレ様は何も知らん! すべてヤツらが勝手にやったことじゃ!!」

だとしても、彼が率いる冒険者ギルドの不始末は彼自が責任をとるのが筋だ。

日頃から支配者と稱して威張り散らしているんだから。いざという時責任を取るのが偉い人の役目だろう。

「それにガツィーブたちが放火に使っていた松明や油。あれ冒険者ギルドの備品ですよね?」

「ぐへッ!?」

「チョロまかしたにしろあれほど大量に盜まれてギルド側が気づかなかったってあります? 気づけばその時點で通報するべきですよね? 気づかなかったら、それはそれで危機管理に大きな問題があると思いますが?」

どの道この人に生き殘る道はないということだった。

問題が起きれば、どんな形であろうとも責任を取るのが責任者だろう。彼が授かった立場の重みを今こそ知るべきだ。

「知らん知らん! オレ様は何も知らんぞ! 火事はあの連中が勝手にやった! オレ様には関係ない! 街を救ったのはオレ様の部下エピクだ! それは大いに関係ある! それだけが事実だ! 全員それに従わんかああああッッ!!」

だから僕のことはもう隨分前にアナタが追い出したんではないですか。

自分の発言にすら責任を持てない人だ。

「では、従わなかったら?」

「誰だ!? そんなヤツ我がギルドの総力を挙げて潰してやる! いいのか!? 冒険者ギルドに逆らって、この街で生きていけると思うなあああッッ!?」

「ほう面白い、ではやってもらおうかの?」

ギルドマスター、さっきから誰と話してるんです?

突如現れた老人。上品で気品漂う佇まいで、何か地位のある人だと一目でわかった。

その隣に薬師協會長さんが従者然として付き添ってるし……。

「あの、協會長さん? このおじいさんは……?」

「紹介しよう、この方はレズラム議長。この街を束ねる都市議會の頂點に立つ方だ」

「つまり……、この街で一番偉い人?」

そんな人のお顔も知らなかったなんて。

僕が無知を恥じると議長さん、自分の真っ白な髭をでて。

「偉くもなんともないさ。ワシはこの街の裁量を行う権限を皆から預かったにすぎん。この街の皆が持つ権利を代行するというだけで上か下かもないものさ」

ただし。

「薬師協會も冒険者ギルドも、都市議會からの承認をけなければこの街で活はできない。どういうことかわかりますかなギルドマスター?」

奧深さある老人から睨まれてギルドマスターは震えあがった。

基本的に権力があれば何でもできるが、それでも思い通りにならないことはたしかにある。

その最たるものは、さらに大きい権力を持った者とぶつかった時だ。

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