《【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない》120 天の使者の獣

大聖の行おうとした攪工作は、相手がブランセイウス様以外なら通用したかもしれない。

大聖教會の勢力を背景に、イリエリヒルトのようなふてぶてしいがゴネ続ければ大抵の通りは引っ込むだろう。

しかしブランセイウス様も、宰相職として権力と謀渦巻く國政を擔い第一線で活躍してきた人だ。

知恵も膽力もそんじょそこらの男とは比べにならない。

そんな相手に、理論の上でこの上なく不利な狀況から言いくるめられるわけがない。

大聲で怒鳴りちらしても、貓なで聲でびても揺るがぬことのない平常なる心で正論を叩きつけられて終わりだった。

「ここに集まっている王都の民よ」

ブランセイウス様の語りかける対象が変わった。

この場に集う數え切れない王都っ子に呼びかける姿は、まさに民草に相対する王そのものだった。

「この場を借りて、昨夜起こったことの真実を伝えたい。この私の指示で調査し、わかった限りのことだが……」

「ま、待ちなさい!」

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大聖が慌てて止めようとするが、場の雰囲気が押しとどめる。

「昨夜、王都を襲撃寸前まで迫ってきた巨大なモンスターは、名を大魔獣エキドナと言うそうだ。大聖教會が隠匿し、ここ王都より離れたアルデン山渓に埋設されていたらしい。何故教會がそんなものを飼い、にしていたか?……それはまだわからないが……」

ブランセイウス様の疑わしい視線が向かう。

その先は大聖教會でもっとも強い権力を持つ一人……イリエリヒルト。

「無論王家は、そのことに対しうやむやにするつもりはない。大聖教會はこのたび大魔獣エキドナを使い、王都を壊滅せんと目論んだ。その罪は必ず償ってもらう。……大聖教會全でな」

「そんな!? 橫暴です! そもそもエキドナを暴走させたのは毒師の獨斷で……!」

「ほう、よくそんなを知っているものだ。まるでその毒師と昔から繋がりがあったようではないか?」

「ッ!?」

今さら口を噤んでももう遅い。

一つのウソを隠し通そうとするなら必ず新たなウソをつかねばならない。いくつもウソをつき続ければ、そのうちに必ず綻びが出る。

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今回はボロを出すのが想像以上に早かったが。

「ち、違う……! 違う違う違う! エキドナを隠していたのは王家です! 前王を毒殺したのはブランセイウスです! 違うというなら証拠を見せなさい! 証拠証拠証拠!」

「そんなに煩く言うならお前たちこそ証拠を見せてみてはどうだ? お前たちは関わっていない、もしくは本當に私がやったというかぬ証拠をな」

「う、煩いわッ! アナタこそ見せなさいよ! わたしたちが悪事に関わったという証拠でもあるの!?」

「あるぞ」

予想だにしなかったのだろうか。

ブランセイウス様によるまさかの肯定返答に大聖は目を剝く。

「そもそも捕らえた毒師が、お前たちとの関係を認めていたのだがな。それでも足りぬと言うなら、こういうのがある。イリエリヒルト、お前が毒師と取りわしていた書簡だ」

「なッ!?」

毒師ロドリンゲデスが潛伏していたアルデン山渓と、ここ王都はそれなりに離れている。

毒の注文をするたびに大聖が直接訪ねていくとは思えないし、その場合はやっぱり手紙で連絡を取り合っていたのだろうか。

「そんなバカな……!? 読み終わった手紙は必ず始末するように命じてあったはずよ」

「相手だってバカではないということだ。いつか切り捨てられるかもという不安に対する備えとして、お前の筆跡で刻まれた書簡を破棄したフリをして保存していたそうだ。毒師くんは減刑を期待してホイホイ差し出してくれた」

「にッ、ニセモノよ! わたくしを陥れようとして手紙を造したんでしょう! わたくしの筆跡も真似て!」

「相手の証拠にケチをつけるのはいいが、お前たち側の証拠品はいつになったら提出されるのかな?」

そう言われて大聖はギクリと息詰まる。

この問答は自分たちだけでなく、集めた民衆も固唾を飲んで聞いているのだ。

數え切れない疑の視線が自分に集中していることを、どんな鈍な人間であっても気づかないままではいられまい。

「あ……う……、わたくしは……、わたくし……!!」

次の言葉を紡ごうにも口が上手く回らないようだ。

口八丁だけが取り柄の大聖が、その技を失った時、すべての終わりが見え始めた。

その時……。

また思ってもみない突発的事態が巻き起こった。

頭上からまばゆいが……!?

「うおッ!? 眩しいッ!?」「なんだ……!?」

集會が行われているのは屋外なので、王都の青空を突き破るような閃に皆、目を庇う。

……じゃないよな?

現在太は西の空に傾いて眩さを衰えさせ、別に現れたは太より力強く南天に輝いている。

……!?

「あッ、あれは……!?」

し時間が経ち、が収まったことでそれが何か判別することができた。

「ペガサス!?」

聖獣ペガサスではないか!?

メドゥーサ様の配下で、処好き疑があるものの頑なに否定している変態!

『魔の山』メドゥーサ様に仕えているはずが、一何故ここに?

「ああ……聖獣様だわ……! なんとしい……!!」

天に浮かぶペガサスを、恍惚とした表で見上げるのは大聖だった。

「見なさい! 証拠が現れたわ! あれこそが証拠よ!!」

「は?」

「神々しき聖獣は、この大聖たるわたくしを祝福して現れた! これこそわたくしが何の罪とも無縁である究極の証拠よ!!」

なんかムチャクチャ言いよる。

しかし大聖は、自分のためにこそ聖獣が現れたと信じて疑わず、その馬に向かって両手を掲げる。

「さあ聖獣様! どうかわたくしの下に降臨なさって、そして恥知らずな冤罪を賭けようとする愚か者たちに天罰をお下しください!!」

『黙れ、あばずれ』

「えッ?」

ペガサスからの容赦ない拒絶と罵倒。

『何故私が、お前なんぞのような何人もの手垢のついた汚にかまわなければならぬ? 私は使命を帯びて降臨した。邪魔だ、疾く去れ』

に対してひたすら容赦のないペガサス。

では何しにこんなところまで來たの?

『人間どもよ、よく聞くがいい。我は聖獣ペガサス。魔にして神、たおやかにして恐ろしきメドゥーサ様の天意を伝えるためにやってきた』

「め、メドゥーサ様の……!?」

メッセンジャーってこと?

何を伝えるためにわざわざペガサスまでよこして……!?

『昨夜……殘忍なる戦の神アテナの眷屬がおいたを仕出かしたようだな。來たるべき戦に備えて魔獣を配置していたとは、とんだルール違反だ』

メドゥーサ様の全能を持ってすれば、人間ごときにメッセージを送りつけるなんて朝飯前。

かつて『魔の山』にいながら前ギルドマスター、ギズドーンを亡き者にし、ギルド理事の皆さんを呪って、舐められたことへの落とし前をキッチリ見せつけたメドゥーサ様だ。

そんなあの方が、子飼いともいうべきペガサスを直接よこしたってことは、それだけで大事だと悟れる。

『かつて神々の王は予言した。悠久の時ののち、神々はいずれが人を治めるに相応しいか競い合うことになろうと。神々は各自、その戦いに挑む者やを引く者と様々に旗幟を明らかにしてきた。……しかしその中で一際小狡くく神がいたようだな』

ペガサスは語る。

『その神は、戦いの始まる前から率先してき、信徒を増やして人間界への影響力をも増し、さらには地上へ手駒の大魔獣をかに下ろして隠していた。……大戦の際の切り札にするつもりだったのだろう。戦いを司る神だけあって狡猾な考えだ。……しかし』

その口調に怒りがじる。

『その行いは、戦いの火蓋が切られるまで平等に人間界への過干渉を戒める神々の約束に反するものだ。その監視役として地上に殘ったメドゥーサ様も、この件に関して見過ごせぬと判斷なさった。……よって!』

神の使者たる、翼ある天馬は言った。

『大聖教會を名乗るアテナの信徒よ! メドゥーサ様はお前たちの完全排除を決められた! ゴモラとソドムが裁きの業火に焼かれたがごとく、お前たちも己の罪深さを悔やみながら焼け死ぬがいい!!』

ここで一旦休止になります。再開時期は未定です。しばらくお待ちください。

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