《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》納得いかない

「いやーはっはっは。こんな早く片付くなんて思ってませんでしたよ、見事ですな」

頭髪の薄い頭を揺らして、後藤さんは豪快に笑った。

病棟を出て院長室へ足を運び、今回の事のあらましを説明した。無論、麻薬のすり替えに関してもだ。

てっきり慌てふためくかと思っていたのに、彼は一瞬顔を歪めたもののすぐに笑った。そしてうちの事務所に來た時はあれだけ怪しがっていたのに、私たちに稱賛の言葉を投げ続けた。

「男前で人で仕事もできるとなれば素晴らしいですな! 若いのに大したもんです、これで看護師たちも安心して働けますよ」

私は違和を覚えて後藤さんを見る。隣の九條さんは相変わらずポケットに手をれたまま立っていた。後藤さんは院長椅子から立ち上がり、私達に近寄る。

「これで依頼は完了ですな。いやご苦労様さまでした」

「……あの!」

耐えきれず聲を上げたのは私だった。思っていた疑問をそのままぶつける。

「名取さんの処分はどうするんですか? 今回のような事がもうないようにしないと、また苦しむ人が……」

私がそう口に出した瞬間、後藤さんの表が鋭くなった。ついたじろいでしまう。

彼は頭をカリカリと掻き、低い聲で言う。

「今回あなた方にお願いしたのは鍵がよく開かなくなると言った不合の対処でした。それ以外はお願いしてませんよ」

「……はぁ?」

「まあまあ。スムーズに解決してくれましたし、依頼料は弾みますよ。ね? だからもう今回の事はこれにて終了。もうお帰りください」

後藤さんは卑しく笑いながら、九條さんの肩にポンと手を置いて言う。私は唖然としてハゲ親父を見た。

……こいつも隠蔽しようとしてる!

私と九條さんに、お金を多く払うから全て忘れてくれと言ってるんだ。

痛みに苦しんだ患者さんがたくさんいるっていうのに……!

「あの! そんなんじゃ神谷さんだって報われ」

「分かりました」

怒りで反論しようとした私の言葉に被せて、九條さんが言う。驚いて隣を見た。

やや嫌そうに肩に置かれた手を払い、彼は続けた。

「そういうことなら、私達はこれで失禮します」

ハゲは満足そうに笑い腕を組む。

「はい、お疲れさんでした」

「ま、待ってください、このまま帰るんですか九條さん? だって」

「もう私たちがここでできる事は終わりましたよ。黒島さん、帰りましょう」

「な……!」

後藤さんは頷きながらニコニコと笑っている。僅かに殘っている頭髪を引っこ抜いてやりたくなるが、そんな私の手を引いて九條さんは出口へと向かう。

「九條さん! いいんですか!?」

「では後藤さん。依頼料の支払いをよろしくお願いします」

「ええ、ええ! 勿論ですとも」

私の言うことも無視して二人はそう會話をわし、引き摺られるように私は院長室から出されてしまった。

強い力に引っ張られよろける私を振り向きもせず、九條さんは足を進める。

「く、九條さん、これで終わりでいいんですか!」

「これ以上ここにいても無駄ですよ」

「でもこれじゃあすずさんの霊も……!」

言いかけて口を閉じる。廊下に出た私たちを、なんだなんだと見てくる人がいるのだ。聲が大きすぎたらしい。一般人がいる中で、霊の話なんかしてられない。

私が靜かになったのを見て九條さんが手を離す。スタスタ歩いて行くその後ろ姿に渋々ついて行きながら彼を睨みつけた。

隠蔽をそのままにしておくなんて。九條さんは変な人だけど、なんていうかここぞという時はやってくれる気がしてたのに。

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