《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》摑めない人だ

それから二人でまた事務所まで歩き、(意外とスムーズに奢ってくれた)戻った途端、九條さんはソファに寢転んだ。

「帰るのが面倒になりました」とか言ってそのまま寢息を立て始めてしまったのだ。

苦笑しながらその景を見てふと、もしかして夜に私一人になると、また自殺したくなるんじゃないかと心配して來てくれたのかな、なんて思う。

………

いや、さすがに違うな。この人は多分気まぐれにいただけだ。そうに違いない。

そう自分で納得しながら、私は彼の布を掛けた。

「あっれー、九條さんなんでここにいるの?」

朝早く出勤した伊藤さんが目を丸くして言った。

私は起きて支度を整え、テレビを見ながら伊藤さんを待っていたのだ。

九條さんはソファの上で用にも睡している。私が彼を起こせるはずもない。

「あ、昨日の夜來られて、帰るのめんどくさいとか言って寢ちゃったんです」

「へえー? ふーん?」

どこか面白そうな伊藤さんは笑みを浮かべてこちらを見た。絶対、何か勘違いしてるとみた。

私は冷靜をつとめて言う。

「ラーメン食べに連れてってくれたんです。すぐ近くの」

「あーあそこね、うん、味しいよね。」

そう言いながら伊藤さんはどこか上機嫌なのは何故なのか。鼻歌混じりで近くに置いてあったポッキーを一本取り出し、九條さんの口に突っ込んだ。

例の音にて九條さんを起こすと、ようやく彼はトロンと目を開けて起き上がったのだ。相変わらずよく寢る人。

「……おはようございます」

昨夜はなかった寢癖がまた付いている。後ろの黒髪が跳ねていた。

伊藤さんが腕を組んで言う。

「ほら、そろそろ現場行ったほうがいいんじゃないですか?」

「……はい……伊藤さん、調べについてはどうですか」

あくびをえながら九條さんが聞く。

「ああ、それがし時間がかかりそうなんです。殺人や自殺なら調べも早いだろうけど病気となるとあまり資料も殘ってなくて」

「まあそうでしょうね」

「ただ、あのアパートが建つ前はずっと畑だったみたいで今のところ怪しいところはありませんね」

「そうですか」

「あ、あと昨日井戸田さんから早速、この半年に居した4組の方の連絡先送られてきました。予め僕たちの事は先方に伝えてあるそうなので、僕こっちの話を今日聞きますね」

「しっかりした人ですね。お願いします」

九條さんはゆっくり立ちがると、気怠そうに一度首を回し、そして私に向き直った。

「では黒島さん、現場に行きますか」

「あ……はい!」

私は大きく返事をすると、すぐさま仮眠室から一つの紙袋を取ってきた。かなり大きめの袋に荷がパンパンにっている。

九條さんはそれを見て、不思議そうに首を傾げた。

「旅行にでも行くんですか」

「また泊まり込みにでもなったらかないませんから荷持っていくんです」

「そんなに何を持ってくんですか」

「著替えとか歯ブラシとか食料とかですよ。ポッキーもってますよ」

「! あなた仕事出來ますね」

「だから私の仕事はポッキー管理なんですか?」

前回も途中で買い出しに行ったわけだし、何故始めから持っていこうと思わないんだ。ボイスレコーダーはしっかり作させるしっかり者かと思いきや抜けてるとこは抜けてるんだから。

呆れている私に気づいていないのか、九條さんはいつものような無表で伊藤さんに聲をかけた。

「では伊藤さんお願いします」

「はい、いってらっしゃーい!」

短く告げた九條さんは、何も言わずに私が持っていた大きな袋をサラリと取った。あまりに自然な流れで一瞬唖然としてしまったほど。

何もなくなった自分の手のひらを見つめて一瞬何が起こったのかわからなくなった。あれ、九條さんが荷持ってくれた?

「黒島さん? いきますよ」

すでに事務所の扉から出ていた九條さんが私に聲を掛けた。紙袋が彼の手にしっかり握られている。

「あ、は、はい」

私は何も言わずにそれだけ返事して九條さんを追った。本當に不思議な人だ、気遣い出來るんだか出來ないんだか。

私は未だに彼が摑めない。

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