《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》報収集

昨日も乗った車に二人で乗り込み、例のアパートへ向かった。昔死人が出た部屋で次々引っ越しが相次ぐ……というのは正直よく聞く話だ。

その部屋に間違いなく『誰か』がいる。

しかしもう何年、いや何十年も住み続けているなんて、結構ヤバいものに姿を変えてる可能が高い気がする。気を引き締めていかねば。

「あれですね」

ハンドルを握ったまま九條さんが言った。目を向ければ、本當によくある極々普通のアパートだった。

やや作りは古く見えるが、外観もリフォームの際し手を加えたのだろう、壁がやたら白くっていた。

外から一つ一つの玄関が見える。2階の奧を見た。他となんら変わらない黒のドアがある。

「見たじ普通のアパートですねぇ」

「他の部屋の住民は影響ないらしいですから、例の部屋のみ何か起こるんでしょうね」

「何が起きたんだろう……」

「伊藤さんが聞き出してきてくれますよ。こういう仕事は彼が一番です、人から話を聞き出すのが上手いので」

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なんか納得。伊藤さんは無害そうなオーラが凄いし、初対面でも人懐こいから口が軽くなりそうだ。

九條さんは車をアパート目の前の駐車場に停めた。二人で降り、見上げてみる。

「とりあえず上がってみましょうか」

白い息を吐きながら九條さんが言う。私は頷き、彼に従った。

九條さんの黒いコートを追いながらアパートへ近づく。外階段の造りだった。冷たい風に煽られながら階段を登る。

2階にたどり著くとなんの変哲もない部屋が並んでいた。特に不穏な空気をじることもない。小さな子供もいるのか、部屋の前に砂場セットが置きっぱなしで微笑ましい。

私達は部屋を通り越して奧へ言った。井戸田さんが言っていた問題のところだ。

「鍵は預かってます、電気や水道も通してくれてるみたいですが」

九條さんはポケットから銀の鍵を取り出した。

一つの扉の前で二人立ち止まる。やや張してきた、やっぱり最初はどうも警戒してしまう。

そんな私をよそに九條さんはいつもの様子で鍵を差し込み、回した。かちゃりと鍵の回る音がやけに大きく響いた。

ドアノブを開けると、すぐに目にってきたのは小さな靴箱に玄関。短い廊下といくつかの扉。なんの変哲もない、普通のお部屋だった。

九條さんは靴をいでズカズカと上がっていく。私も慌てて靴をいで揃えると、リビングの方へと向かった。

のドアを九條さんが開けるとリビングが見えた。そこまで広いとは言えない、極々普通の部屋だった。

小さな銀のシンクにガスコンロ二つ。リフォームしてあまり人が使っていないせいか、どこも綺麗だ。

私はゆっくり部屋全を見回した。だがしかし、何かがいるわけでもなし、不穏なオーラをじるわけでもない。

そういえば病院でも、初めは霊も警戒するから大人しい事が多いと言っていたっけ……。

九條さんは部屋をゆっくり歩き回って、収納場所までひとつずつ丁寧に見てまわった。私もならって同じようにんな場所を覗いてみる。

こんな時、扉を開けた瞬間真っ白な顔をした子供がって……などと想像して一人震いする。だがそんな現象はまるで起きない。

「他の部屋も行きましょう」

私達は部屋を移する。寢室に和室、トイレに浴室。それはどこも変わったところはない普通のアパートだった。

ふうと九條さんは息をついて腕を組む。

「まだ何もじれませんね。ま、最初からスムーズに事が運ぶとは思ってませんけど」

「……何か起きるまで待つんですか……?」

「まあそうなりますね。しかし今回は機材も持ち込みましょう」

「機材?」

「以前お話ししたように、霊は高能のカメラに映ることも非常に多い。車に積んでますから、セットしましょう」

「あ、撮影するってことですか!」

そういえば、前そんな話を聞いた。

「まずはここに何がいるのかを突き止めなければなりませんからね。さ、車に一旦戻りましょう」

彼が踵を返して玄関に戻るのをまた慌てて追う。もう九條さんを追いかけてばかりだ。

二人で靴を履き玄関を出た瞬間、隣から音が聞こえた。二人でそちらを見てみれば、お隣さんであろう中年が丁度出てきたところのようだった。

50代くらいだろうか。肩までびた髪はパーマがかかった、ややぽっちゃりした人だ。私たちを見ると顔を緩ませた。

「おはようございます! あら、新しくられたの??」

ニコニコと話しかけてくる様子はよくいる世間話が好きなおばちゃんに見えた。九條さんは平然と答える。

「いえ。見させて貰ってるだけでまだ決めていません」

「あ、そうなの! 新婚さん? 若いものねー!」

「し!」

新婚て! 私はついたじろいで九條さんを見上げる。まさかこの人とそんなふうに見られるなんて。

いやでも男二人がアパートを見にきてれば普通そう見えるだろう。落ち著け自分、し恥ずかしい気もするけど平然をつとめよう。

やはりと言うか九條さんはすぐに同意して続けた。

「ええ、今決めようか悩んでいるんですが」

「そう、いいわね〜新婚! まだ決めてないなら……あの、お節介なら申し訳ないんだけどね?」

おばさんはし迷うように目を泳がせるが、すぐに口を開いた。

「この部屋ね。すごく引っ越しが多くて」

「引っ越し、ですか?」

「そうなの。私ここがリフォームしてからすぐったんだだけど、えーと、3組? 4? とにかくみんなすぐ引っ越しちゃうのよ…! 大きな聲では言えないけど、なんかあるんじゃないかと思ってるの!」

おばさんは、大きな聲で言った。やはり噂話が好きなタイプと見た、聲のボリュームの設定が不得意のようだ。

九條さんは初めて聞いた、というように頷いて尋ねる。

「そうなんですか……隣にいて何かじたことは?」

「いやあ私霊全然ないのよーあはは! きみわるいっちゃそうなんだけど、中は綺麗だし家賃安いから私は引っ越す予定ないわ!」

「噂で何か聞いたことは」

「いやー? ないわよ、全然。だからまあ、ただの偶然かもしれないけどね。一応、新婚さんの新居に何かあったらやじゃない? 伝えておこうかと」

おばさんは笑いながらそう言った。九條さんはそれ以上は何も言わず、どこか考えるように黙り込む。

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