《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》験者たちの話
「あ、おかえりなさーい」
伊藤さんは事務所で椅子に座り、こちらを振り返ってにこやかに言った。機の上には開かれたパソコンと、何やらメモが沢山書かれた紙が雑に置かれていた。
「ただいま戻りました」
九條さんはそういうとスタスタとまずは仮眠室にり、手にはポッキーを持って戻ってきた。そしてソファに座り込み、早速封を開けて一本食べると伊藤さんに話しかける。
「どうでした、住んでいた4組に話は聞けましたか」
「はいはい聞けましたよ〜。電話で聞いたのが3組、あと1組は直接會ってもいいとの事なので訪問してきました。あ、黒島さんも座ってね〜」
「は、はいすみません」
伊藤さんが広がっているメモたちを手に取って見つめる。私はそっと九條さんの目の前に座り込んだ。すると九條さんは私にポッキーの箱をずいっと差し出して來たので、特にいらなかったけれど一本頂く。
伊藤さんは頭をかきながら言う。
「えーと共通してるのは『』ですね。どの方たちもそれは言っていました」
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私と九條さんの目が合う。先程部屋の前で見えたの人は、やはりあそこに住まう霊なのだろうか。
伊藤さんはメモを見つめながら話す。
「まずリフォームしてから初めてった人達です」
1.Aさんの証言
家族構 夫、妻の2人
引っ越しして1週間は何事もなく過ごしていた。周りも靜かで住みやすい場所なので大変気にっていた。
だがある日から、しまっておいたなどが勝手に移したり無くなったりすることが増える。
初めは気のせいだと2人納得していたがそれは徐々に悪化、2人でしっかり確認して収納したものがなぜか風呂から見つかりいよいよ不気味に思えてくる。
もしや留守中に誰かが侵しているのではと疑い監視カメラを設置すると、誰もいないのにだけが勝手に床に落ち引きずられるように移していたのを見て引っ越しを決意。(この時のビデオはすでに処分)
引っ越し先を探している最中、夜中トイレに起きた妻がドアを開けた時、黒髪のが立っていたのを発見しそのまま気絶。
逃げるように2人で妻の実家へと引っ越した。
2.Bさんの証言
家族構 夫、妻、子供(2)
最近ようやく言葉を話せるようになって來た娘がやたら何もない空間に話しかけたり見つめたりしていた。子供にはよくある事と初めは特に気にしていなかった。
ある日妻が洗濯を干していたところ、背後で1人遊んでいた娘がきゃっきゃっと聲を上げて笑っていた。
何気なくそちらを見た時、壁から2本の白い腕がびて娘に近づいている様子が目にる。
すぐさま娘を抱き抱えて家を飛び出し、そのままもう戻る事は無かった。荷の整理などは全て夫と業者に頼んだ。
娘に何があったかたずねると、拙い言葉でこう述べた。
「お姉さん 抱っこ」
3.Cさんの証言
家族構 夫、妻
暮らし始めて1週間以上は何もじる事なく平穏に過ごしていた。だがある日、妻が部屋で掃除をしていると、突如浴室からシャワーの音が響いた。
見に行くと、何故か全開でシャワーが出されている。不思議に思いながらも止めて再び掃除に戻った。
しかしすぐにまた水の音がする。再び浴室へいくと、今度はシャワーではなく蛇口の方が全開に開かれていた。
この時點できみが悪くなった妻はすぐさま夫に連絡して帰って來てもらう。自は外の喫茶店で過ごし夫の帰りを待った。
帰宅した夫とアパートへ戻ると、しんとした部屋が待っていたのだが、まるで2人の帰宅を待っていたかのように浴室からシャワーの音が響いた。
急いでそちらへ向かっていくと、すりガラスになっていた風呂場の扉に何かが見えた。
ぼんやりとした形だが、紛れもなくのシルエットにじた。
「……てのがざっと電話で聞いた容ですね」
伊藤さんはサラリとそう述べた。私は次々起こる怪奇現象に寒気をじつつも、何より伊藤さんの話に震え上がった。テレビで聞くプロのように聞きやすさと抑揚のバランスが秀でていて、余計に怖いエピソードと化していたのだ。
それによく電話一本でここまで聞き出せたなと私はそっちに興味が移ってしまった。井戸田さんは引っ越しの時何も話して貰えなかったと言ってたのに……これも伊藤さんの技なのだろうか。
九條さんは慣れているのかそこには何も突っ込まず、ポッキーをかじりながら淡々と聞いた。
「なるほど、たしかにどのエピソードもが出てくる」
「ですね。あ、九條さんポッキーのカス落ちましたよ。んで最後の1人が10日で出て行ってしまったという男ですね。結構この近くの住まいだったから、アポ取って會ってきました」
伊藤さんはポケットからレコーダーを取り出した。
「本人に許可を取って録音してきました。これです」
伊藤さんは手早く作すると、音量を上げて私たちに聞こえるよう差し出した。
機械からは若めの男の人の聲と、穏やかな伊藤さんの聲が聞こえてくる。
「えーと今回は男一人暮らしの方ですね、単赴任だったそうで」
私と九條さんはレコーダーを見つめた。
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