《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》験談

二人で車に積んでいた機材たちを運びれる。本格的なそれに、信也は驚いたように目を丸くした。私たちは黙々と部屋に録畫の設定をしていく。

もはや慣れた流れを素早く行っていると、背後から遠慮がちな信也の聲がした。

「何ていうか……本格的なんですね」

「ええ、霊は高能なカメラにうつることもよくあるので。勿論百パーセント上手くいくとは限りませんけどね。ですが、お隣の高橋さんが目撃したのはエレベーターや非常階段でしたね。さすがに許可もなくそこらは撮影できないので、どうしたものか……他に多くの住民がいるとなれば管理會社もうんとは言いませんからね」

九條さんは考えながら答える。私は持っていたコードを繋げながら九條さんに言った。

「あとで高橋さんとやらにも話を聞いてみますか」

「そうですね。原さん、可能なら高橋さんにアポをとっていただけますか」

「あ、はい分かりました……」

彼はポケットにっていたスマホを取り出してどこかに連絡をし始める。その間に録畫のセッティングが終了した私たちは立ち上がり、九條さんが言った。

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さん、マンションも見にいきましょう」

「はい」

私たちはそのまま部屋を出、マンションの探索を始めた。

目撃報があったのはエレベーターと階段前ということだった。エレベーターはくる時も使用したが、特に何も見つけられていない。階段はまだ見ていないが、一何階の話か聞いていなかった。だが三階の住民が見たというなら、三階か一階の階段だろう。

まず私たちは三階階段へ移してみる。部屋が並ぶ一番端に、他とは違うのドアがあった。銀のそれはしっかり閉じられており、重いドアだった。大の人はエレベーターを使うので、階段はあまり使われないのかもしれない。

私たちがそこへ足を踏みれると、あまりり込まない階段がひっそりとあった。一応上の方に窓はあるのだが、日當たりの問題なのかなんなのか、階段は結構暗い。白い蛍燈がっている。

背後でドアが閉まる音が大きく響いてびくっと反応してしまう。なんかやだな、ここ。他はあんなにおしゃれで綺麗なのに、ここだけやたら暗い。

「降りましょう」

「は、はい」

私たちはゆっくり階段を降り始めた。ない足音がやたら寂しげに響き渡る。無駄に回りを見渡す。

なんか、じる。悲しい気みたいなものを。

姿は見えないが、自分の皮にじわじわと伝わる悲痛な空気が痛い。ここにいると私の心も一緒に落ち込んでしまいそう。

「九條さん、何も見えないんですけどね、でもなんか悲しいものをじます。泣いてしまいそう」

「ええ、私もじます。非常に分かりやすい悲しみの気です」

彼もし眉を顰めて言った。やっぱり九條さんもじているらしい。

どんな人がここにいるんだろうか、何をそんなに悲しんでいるんだろうか。死んでもなお悩んでいるその原因は何だろう。

足を降ろしたとき、それが最後の段差だった。私たちは一階に到著していたのだ。じっと周りを見てもまだ姿は見えない。見知らぬ私たちに警戒しているのかもしれない。

目の前のドアを開けると風が吹いて私たちの髪をでた。離れたところにエントランスが見える。階段と違って明るく眩しいほどに照明がついていた。目に刺激が強い。

一度エントランスの方に行ってみるが、そこにはあの悲しい気はなかった。階段だけにあるらしい。私は九條さんに言う。

「ここは何もじません、階段だけにありました」

「同じ意見です。肝心の本人はまだ姿を見せませんが……何度か行ってみるしかないですね。他の場所も見てみましょう」

私たちは各階を歩いてみたり(不審者と思われないだろうか……)また階段を降りたりとマンションを観察して歩く。だがめぼしい霊は特にみられない。まあ、よくあることでもある。最初はあっちも警戒することが多い。

「うーん、いそうな気配はじるけど姿は見えませんねえ」

「一度原さんのところに戻りましょうか」

私たちは散策を一旦休みにし、信也が待つ部屋へと戻った。彼の部屋の中で何か起こればいいのだが、期待できるのかどうなのか。

三階にたどり著いた時、部屋の前で信也と誰かが立ち話をしているのに気がついた。相手は男のようだ。パーカーを著た茶髪の青年で、私たちに振り返るとどこかすがるような目でこちらを見た。

信也が私たちを見る。

「あ、お帰りなさい。さっき言ってた隣の高橋です」

「あ、どうも……さっき原から連絡もらって、すぐ部屋に來たんです」

ペコリと私たちに頭を下げる。とりあえずみんなで中にろうと言ってきた信也に賛同し、私たちはリビングへと通された。みんなでテーブルを囲って座り込むと、まず九條さんが挨拶をした。

「九條尚久といいます。心霊調査をしています」

「黒島です」

「あ、どうも! 高橋です。原から連絡きた時はびっくりしました、まさかコイツがそういうところに相談行ってたなんて。だって原は見えないみたいなのに」

ちらりと隣に座り信也を見る。どこかバツが悪そうに信也は視線を逸らした。もしかして、視えるといった高橋さんの言葉を信じない発言でもしていたんだろうか。

九條さんは話の先を促した。

「では早速ですが、高橋さんが目撃された霊の話を伺っても?」

「あ、はい。

俺は幽霊とかそういうの今まで見たことないタイプだったんです。でもここに引っ越してきて、まず原と同じように時々部屋が揺れることに気がつきました。地震とかじゃない揺れですよ、何かが部屋に衝突したのかと思ったくらいです。

変だなーと思って、最初は手抜き工事のせいでなんか欠陥があるのかとも思ってたんですけど。そんなある日、仕事帰りにエレベーターを呼び出した時のことです」……

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