《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》ポッキー管理は私の仕事

1. 髪の長い

時刻は夜の八時くらいでした。明るいエントランスを抜けてエレベーターを呼び出して。その時、待つ間スマホを眺めてたんです。そのまま到著してきたエレベーターに足を踏みれた時、中に人がいたことに気がつきました。

髪の長いがこっちに背中を向けて立ってたんです。あれ? って思いましたよ、普通エレベーターに乗る時って扉側を見るじゃないですか。でも疲れてたのか、今まで心霊験なんかしたことがなかったせいか、深く考えず乗り込みました。

三のボタンを押した時、もう一つの違和に気づいたんです。一階についたのになんでこの人は降りないんだろうって。例えば忘れしてまた部屋にもどるとか、そういうこともあるかもしれないけど、でも手元のボタンは俺が押した三以外點燈していなかった。

はっとして振り返った時にはもう誰もいませんでした。でも間違いなくは立ってましたよ、あれは見間違いなんかじゃないです。

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の特徴は」

九條さんが尋ねると、高橋さんは腕を組んで唸った。

「うーんこれが、後ろ姿だったし、一瞬見ただけで全然覚えてないんですよ。黒髪で長いってだけ。役に立てなくてすみません」

「いいえ、それが普通ですよ。大の年齢などでも分かりませんか」

「え? うーん、何となくですけどそこそこ若い人だと思いますよ。おばあちゃんとかではないし」

若くて髪の長い、か。殘念ながら顔は見ていないとのこと。これから私たちが會えるといいのだが。

「とにかく怖くなっちゃって、自分の部屋に飛び込みました。原が帰ってきた時にそのエピソード話したんですけど、こいつ見間違いだーって信じなくて」

やや恨みがましそうに信也を見る。彼は何も答えなかった。

「えーと、それが一ヶ月前のことですかね。しばらくは怖くって、夜は階段を使うことにしたんです。エレベーターは嫌だなって思って。そしたらまさかの今度、一階の階段に別の幽霊見ちゃって」

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參った、というように高橋さんは頭を抱えた。全く霊の存在なんて見えてない信也に比べて、結構じやすい質らしい。

信也は自分でも言っていたがそういう力が鈍い方なんだろう。もし今までそういう経験をしていたら、私が視えるという話も引かずにいられたかもしれない、と思う。

「今度は子供! 子供だったんですよ!」

高橋さんの興した聲が響いた。

2. 小さな子供

あれも夜でしたね。仕事休みの日で、夜に酒買いにコンビニ行こうって思ったんです。時刻は多分夜の九時とかかなあ。さっきも言ったようにエレベーターはごめんだったので階段を使ってました。

ここのマンションの階段ってどうも薄暗いじなんですよね。夜だからもちろんライトとかついてるんですけどどうも心もとないじで。そんな中一階を目指していました。

もうしで著く、って時に、一階部分の照明が消えてることに気づいたんです。あー管理會社に言わなきゃなーと軽く考えて進んだんですけど……。

ふと一階にたどり著く最後の段差に、人影があったんです。一瞬またの幽霊でも見たのかとびびったんですけど、大きさが子供だったのですぐ冷靜になりました。

子供が階段に座り込んでいたんです。髪の短い子でした。後ろ姿だったから、男の子かの子かよくわかんなかったけど……。暗かったし。ここのマンションの子供がなんか理由あってそこにいたのかなと思って、俺聲かけたんです。

『どうしたの、もう遅いよ。おうちは?』

俺の聲にその子は振り向きませんでした。ひどく俯いたまま聲も出さずに黙ってて。もしかして泣いてるのかも、と思って困ったんですよね。ほら、こういう時男って不利でしょう? 変に関わって拐犯扱いされたりしてもなあって。

時間も時間だし、とりあえず警察に電話したほうがいいかなあって思って、ポケットにれておいたスマホを取り出したんです。でも一旦、自宅の電話番號とか言えないか聞いてみようかなって思って再度その子の方を向きました。

『ねえ、おうちの電話番號とか』

いませんでした。子供はどこにも。本當に目を離したのは一瞬だったのに、消えちゃったんです。

うちの階段って結構重い扉を開けないとエントランスに抜けれないんですよ、音もするはずだしだってれるはず。気づかないわけがないんです。

あ、やばいもんみたかも。そう気づいて慌てて元きた階段をのぼりました。酒なんて買ってる場合じゃないですよ。

原が家にいるみたいだったからすぐにこいつの家に行って今あったこと説明したんですけど、いまいち信じてないじでしたけどね。絶対見たんですけどね!

の次は小さな子供。確かに、九條さんと今日階段を見た時扉なども見ている。一瞬目を離した隙に子供が一人気づかれず外に出るのは考えにくい。

生きている人間ではなかった、と考える方が私たちにとっては納得がいく。

九條さんが質問した。

「どれくらいの年齢かわかりますか」

「うーん、小さいって言っても、こう、小學生ぐらいではあったと思いますよ。座ってたし顔見えてないからなんとも言えないけど、中學年くらいじゃないのかなあ……」

「男かどうかはわからない、とおっしゃってましたね」

「髪は短かったですけどね。服裝とかまではちゃんと見てなくて、スミマセン」

「いいえ。お話ありがとうございます」

丁寧に頭を下げたので私も続く。高橋さんはふうと息を吐くと、ずっと黙っていた信也に言った。

「でもお前さ、部屋が揺れるとかは自分も験したからわかるけど、幽霊とかは見間違いだーって言ってたのに、何で急にこんな調査始めたの?」

不思議そうな顔だった。信也は何か言いかけようとして黙る。確かに私もちょっと疑問ではある。聡だって、霊とかは絶対信じてないのによく連れてきたな。まあ多分、あの子は完全に面白がってるんだろう。

信也は言葉を濁した。

「まあ、いいじゃん。気になることは放っておけないタイプなんだよ。またなんか聞きたいことあったら連絡するから、今日はありがとな」

「いやお禮いうのはこっちだよ、俺あれ以降階段もエレベーターも使うのドキドキだもん。引っ越すにしても金ないしさ。解決してくれたらありがたい。えーと九條さんと黒島さん、よろしくお願いします!」

高橋さんが深々と頭を下げた。明るくて素直な人だな、と微笑む。彼は信也としだけ會話をわすと、そのまま部屋から出て行ってしまった。

殘された私たちは、仕掛けた機の設定を再度確かめながらとりあえず控室にることにする。信也は特に何か言うでもなく、私たちの言うことに従った。

控室として與えられた寢室はベッドが一つあるだけのシンプルなものだった。とりあえず地べたに座り込み、持ってきておいたキャリーケースから水やポッキーなどを取り出し、ひと休憩とする。

九條さんは考えるように甘味を齧りながら言った。

「これからのことですが……原さんがじる衝撃とやらを何とかして験してみたいと思いますね。原さんは二、三日に一度の頻度だと言っていましたし、難しいことではないと思います。同時に時間が許す限りマンションを見回っての霊と子供の霊を探しましょう」

「階段に何かいるなってじたし、子供の霊はあそこにまた現れるかもしれませんね」

「今のところ、子供、衝撃に共通點はありません。この土地自が霊を集めやすいという問題なのかもしれませんね。浮遊霊が多いのかも」

「そうしたらどう対処するんですか?」

「腕のある能力者に頼むしかないでしょうね」

私はぬるくなったお水を一口のむ。私たちは祓えないからなあ、土地自の問題だとすればどうしようもない。

「まあ、今伊藤さんも調べ途中ですからね。その報告も待ちながらとりあえず探しましょう。もうし休んでからまた歩き出しますか」

彼はそう言ってポッキーの袋に手をばした。いつのまにかもう一袋完食していたらしい。私はキャリーケースから新たにいくつか箱を取り出しどさどさっと床に散らばらせる。

「はい、他にも味ありますよ」

「さすがですね。ポッキーの管理が完璧です」

「だって九條さんそれないと仕事できないでしょう」

「できませんね、睡眠など取れなくてもしの間なら困りませんが、ポッキーがないと一日で參ります」

斷癥狀はどんなものが出るんですか」

「泣いていじけて床に橫たわったままきません」

ついお水を吹き出しそうになってしまう。何とかそれだけは防ぎながらも、私は笑い聲を抑えきれず大聲をらしてしまった。

「く、九條さんがそんなことしてる姿想像つきません!」

「そうですか。男なんてそんなもんですよ、子供と一緒です」

私はお腹を抱えて笑う。九條さんがいじけて床に橫たわってる姿を想像する。見てみたい、今度わざとポッキー忘れてやろうかな。

九條さんが私の顔を見てズバリ言った。

「今見てみたいからポッキーを止しようと思いましたね?」

「あは、ばれました?」

「そんなことをすればただでは済まないですよ、あなたの仮眠中に額に油マジックでウンコ描きます」

「仕返し小學生じゃないですか」

さては事務所で言った私の発言を気にってるな? やめてほしい、それぐらい床は雑菌まみれですよって言いたかっただけなんだから。

私はまたいくらか笑いながらようやく落ち著きを取り戻す。目に出た涙を軽く拭き取ると、九條さんに言った。

「大丈夫です、もう一年も一緒にやってるんですから。九條さんがポッキーなしじゃ生きられないことぐらし知ってますよ。今後もちゃんとポッキー管理しますね」

「……さすがです」

「ふう、思い切り笑った。あ、そうだ、スマホの充電がなくなってるんだった。ちょっとコンセントを拝借して……」

充電を取り出し辺りを見回す。部屋の隅に発見し、そちらに向かって立ち上がろうとを持ち上げた時だった。突然、頭痛を覚えそうな程の悲鳴が響き渡ったのだ。

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