《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》會えない二人
突然のお菓子に顔を上げる。彼は至って真顔で、私にポッキーを差し出していた。すぐに隣の伊藤さんが笑う。
「もう、九條さん。普通の人は朝っぱらからポッキーは辛いんですって!」
「そうでしたか」
「まあ、一番お気にりをあげますってことだよ、ちゃん。そういう僕も今いいものあげれられないや、買ってきた差しれ全部ちゃん食べていいよ!」
「え!?」
「ありがとね」
そう言われて、九條さんと伊藤さんが私を勵ましてくれているんだと気づく。ありがとう、ってお禮を伝えてるんだ。私お禮を言われるようなことしてないのに。
それでも嬉しくて、ポッキーをけ取っておいた。
私のがこんな失禮なことを言っているというのに、二人は笑顔で許してくれる。それどころか、きっと私の心配もしてくれるんだろう。なんて優しい心なんだろう、と思った。
ああ、馬鹿にされても見下されても、私はを張っていられる。普通の人には理解されない仕事だけど、誇りをもってここに勤めていますと言える。
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私たちを離れた場所から聡がじっと見ていた。その視線に気づかないふりをし、私は顔を背けた。
「あーえっと! 僕の報告をしますよ、ドンピシャな報がってきましたんでね」
伊藤さんがそう聲をあげ、持っていた鞄からノートパソコンを取り出した。その場にしゃがみ込み作する彼を、私と九條さんが後ろから覗き込む。信也も控えめにこちらを見てくる。
パソコンを起させながら伊藤さんは言った。
「このマンションの前は公園があったと昨日調べたと思います。その公園で……というか、正しく言えば公園の目の前で通事故が起こっています」
「通事故?」
私が反応して答えた。同時にあのの姿を思い出す。外傷がひどい狀態だった。もし通事故で亡くなったとしたら説明がつく。
「そう。今から十三年前の事件だから、まあまあ前だよね。これがね、悲しい事故で……飲酒して居眠りした自車が、歩道まで出て人を跳ねたらしい」
立ち上がったパソコンを作し、伊藤さんが問題の記事を見せた。じっと見つめると、確かに飲酒運転、の文字が見える。そしてその下に、『二人を跳ね』……。
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九條さんが不思議そうにいう。
「被害者は二人ですか?」
「そこです」
伊藤さんが大きく頷いた。
「この公園で待ち合わせをしていたと子供が跳ねられたんです。記事と、それから元々あった駄菓子屋で働いていた人と連絡取って詳しい話を聞きました。
どうやら、公園の前にが立っていた。そこに、遠くから子供が駆け寄ってきた。それを、背後からきた車が轢いたんです、母親の前で」
私と九條さんはハッとして顔を見合わせる。、子供、悲鳴、び聲……。
「その直後、車は結局公園にまで突っ込んで母親の方も轢いた。無茶苦茶ですよ、目の前で子供が轢かれるのを目撃して、さらに自分も被害に遭うなんて。悲慘すぎます」
伊藤さんは眉を顰めて言った。その景を想像する。
お母さんが子供と待ち合わせでその姿を待っている。見えたと思った瞬間、背後から車が突然やってきて子を跳ねる。悲痛なび聲をあげた瞬間、さらに自分の命まで……。
が痛くなる。どうしてそんなことに……。この世は理不盡で悲しい出來事が多すぎる。
九條さんが記事に目を通しながら言った。
「轢かれたは大坪明穂さん(34)……。子供は小學三年生、ですか」
「ええ、明穂さんは即死だったみたいです。お子さんは意識不明の重、って記されてますが、駄菓子屋の人に聞きました。その後亡くなったみたいですね、名前は大坪真琴ちゃんだそうです」
「まこと!」
驚きで聲を上げたのは、私ではなく信也だった。つい聲に反応して振り返る。昨晩、私たちからまことの名前を聞いていたので驚いたのかもしれない。
信也は信じられない、という表でこちらを見ている。何かを察したように聡が小聲で言った。
「実は昨日の段階で名前を知ってたのかもよ、そういう演出も簡単にできるよ」
これまたこちらの怒りを買うような発言をしてくる妹に聲を上げようとしたが、九條さんが私の手首を摑んで止めた。相手にしなくていい、ということだろうか。
私はもやもやしながらもそれに従った。聡のことは無視し、伊藤さんの話の先を促す。
「悲しい事件ですね。それで、その後公園はなくなりこのマンションが建ったということですか?」
「そういうこと。九條さんから昨日の話も聞いて、ビンゴじゃないかと思ってさ、何かが揺れるような衝撃って、やっぱり車が衝突した時の覚が表れてるんじゃない? 明穂さんか、真琴ちゃんか分からないけど」
「そうだ、の霊はの損傷が激しかった。やっぱり通事故によるものじゃないでしょうか。それに、さっき出會った時もまことという名前に反応していて」
「さっき?」
九條さんが不思議そうに首を傾げる。そういえばまだエレベーターでの験を話していなかったことを思い出し、私はかいつまんで説明した。九條さんは納得したように頷く。
「我々が聞いた悲鳴と傷だらけの霊は同一人と見て間違いないですね。そして、大坪明穂さんでしょう」
「九條さん、もしかして高橋さんが見た子供の霊も……」
「まだ我々は會えてませんが、年齢的に見て真琴さんと見るのがスムーズですね」
「となれば、明穂さんが探してるのは真琴ちゃんってことになりますよね?」
「でしょうね」
明穂さんが悲しげに誰かを探している姿を思い出す。真琴という名前に強く反応していた。目の前で自分の子供が殺されたんだ、そんなの仏できっこない。
ずっと黙っていた聡が不思議そうに聲を出した。
「でも十三年も前の事件でしょ? 待ち合わせしてた親子がお互いを探すって言ったって、同じマンションなのになんで會えないの? 変じゃん」
聡の疑問はこればりは気持ちがわかる。普通に考えればそういう疑問は浮かんでくるものだ。九條さんもすぐに答えた。
「生きていない者たちに普通は通用しません。彼らにも波長が合ったり合わなかったりすることもある。ここでは調べきれていない何か他の理由がある場合も。ですが明穂さんが真琴さんを探して彷徨っているのは事実です。そのみを葉えてあげねば浄霊になりません」
「會わせてあげるってことですか? どうするんですー?」
聡が尋ねる。九條さんは腕を組んで考え込んだ。霊と霊を引き合わせる、って今までやったことなかったかもしれない。
彼はしばらく考えた後答えた。
「本人たちに話しかける他ないですね。真琴さんの方にはまだ會えていませんし、とにかく出會えるまでさんと散策を続けます」
まあ、それしか私も思いうかばないなあと思う。一度真琴ちゃんの方にも會ってみたい、接できるまで頑張ろう。
決まりだと言わんばかりに九條さんは信也と聡に向かって言った。
「では、休息を挾みつつマンションを回ります。どうぞお二人は自由になさっててください、進展があれば報告します」
それを聞いて伊藤さんはパソコンを一旦閉じた。とりあえず控室に行こうと移する。ちらりと背後を見ると、聡が真顔でこちらをじっとみていた。何か聲をかけようか迷ったが、とりあえずそのままリビングを出る。
寢室に戻ったところで、三人床に座り込んだ。私は即座に謝罪する。
「あの、妹が失禮なことばかり言ってすみません」
「まあまあ、ちゃんが謝ることじゃないよ。はいご飯食べよー。九條さん、パソコン持ってきたし僕もここで報収集していいですか? 危険な霊じゃなさそうだし。なんならお守り置いてきてエサでもいいですよ僕」
コンビニ袋を漁りながら伊藤さんがいう。普段、彼は事務所で報収集を行い、來客がきた時には対応できるよう待機している。伊藤さんがここにいるということは事務所は閉めているということだ。
だが、霊を引き寄せやすい彼の質を使うこともある。でも伊藤さんはエサ役は基本嫌がることが多い。そりゃ霊をあえて引き寄せるだなんて誰でも嫌だと思う。だからこそ、彼からの提案は意外だった。
もしかして、信也や聡のことで私を心配し、早く解決できるよう提案してくれたんだろうか。
九條さんはし考え、答えた。
「まあ、ここで待機でもいいですよ別に。久々にエサになってもらいましょうか、思えば相手は子供の霊ですから、私とさんは子供に逃げられやすいですし」
「私と九條さん一緒にしないでくださいよ」
「失禮しました、伊藤さんほど子供に好かれないので。階段でじた気を見るに真琴さんの方も危険な存在ではなさそうですからね。もうし休憩を挾んでから行きましょう。朝方まで歩き回っていたので」
そういうと彼は伊藤さんからけ取ったペットボトルの水を飲み込んだ。床に並べられたいろんな商品を眺める。パンにおにぎり、お弁當やデザートまでたっぷりだ。
「ちゃん好きなの食べてね!」
「すみません、ありがとうございます」
一つおにぎりを手にする。おにぎりの封を開けて一口頬張った。海苔の割れる音が大きく響く。
九條さんはポッキーを食べつつ言った。
「さて、さっき突かれたところは一理ある疑問でしたね。十三年の間、二人ともそれなりに近くに存在しているのにお互いを認識できない理由。明穂さんの方は子供を探して彷徨っているじですし、なぜ真琴さんを探し出せないのか……波長の問題なのか……」
九條さんの獨り言のような聲を聞きながら、私も心で同意した。
多分、真琴ちゃんだってお母さんに會いたいはず。
なぜ二人は、こんなに長い時間會えないんだろう?
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