《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》厳しい伊藤さん
と、瞬きをした、一瞬の時だった。突然、伊藤さんの隣に人の姿が出現した。あまりに突然のことだったので、驚きで聲をらしてしまいそうだった。今ままで無の空間だった場所に、小さな人がしゃがみ込んでいる。
後ろ姿から見るに小學生三、四年生くらいか。ショートカットの髪はれており、セルフカットをしたのか先はし歪んでいた。正面を向いているので、こちらからは顔が確認できない。白い服にところどこ模様がついている。が、それが模様ではなく、汚れであることにすぐ気がついた。
まことちゃんは伊藤さんの布を小さな手で握り、控えめに引いていた。まるで何かを頼るように、願うように。伊藤さんは気づいていないのか気づかないフリをしているのか、く様子はない。
そんな伊藤さんを不思議に思ったのか、まことちゃんがゆっくり彼の方を向いた。見えなかった橫顔がようやく見える。
「……!」
私はじっと目を凝らしてそれを見た。その子の鼻からが垂れている。さらに目元もあざのようなもので黒くなっていた。
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わかりやすい外傷。やっぱり、事故で亡くなったんだ。
九條さんがちらりと私を見る。頷いて返事した。まことちゃんです、母親である明穂さんのように怪我しています、と。
その痛々しい様子にが痛む。明穂さんを見た時もキツかったけど、子供がこんなに傷だらけなのはなお辛い。人生これから楽しいことがあっただろうに、あんなふうに殺されてしまって……。
九條さんが聲を上げた。この場からかないのは、子供に逃げられると思った彼なりの配慮なのかもしれない。
「ここでお母様を待っているのですか?」
まことちゃんは布を握ったまま、ゆっくりこちらを振り返った。真っ白なにつぶらな瞳。のは青い。
九條さんが続ける。
「お母様を待っているのですね? 待ち合わせしていたから。あなたを探しているお母様を知っていますよ」
まことちゃんがゆっくり立ち上がった。しっかりこちらを向き私たちを見上げる。鼻の下にこびりついたの痕が目立つ。
彼が著る洋服はやや大きめのようだった。指先は長袖に隠れて見えない。その白い服はいろんなところが汚れていた。事故の時アスファルトに叩きつけられたためだろうか、肩の部分はわずかに破れている。ただ、明穂さんのように手足が折れていることはなかった。
九條さんがなお聲を上げる。
「お母様と會って、行くべき場所へ行きましょう。それが…………え?」
ピタリと彼が聲を止める。私はまことちゃんから目を離さないでいると、彼が小さく首を振ったのがわかる。それが拒否しているのだと明確な意思表示だ。
「なぜです? 何か理由が?」
九條さんがさらに尋ねると、次の瞬間場にそぐわぬ明るい聲が階段に響いてきた。
「あれーこっちにいるのかな? あ、いたいたー伊藤さんたち!」
聲を聞いて眩暈を覚えた。聡の聲であることがすぐにわかったからだ。そして案の定、聲に驚いたまことちゃんは瞬時に消えてしまうのだ。
噓でしょう、こんなタイミングで!
九條さんはああっと言うふうに天井を仰いだ。私は逆にがくっと首を曲げる。上から聡の明るい聲が降ってきた。
「あのー! お晝ご飯って食べました? ピザでも取って一緒に食べません?」
巻き髪を揺らしてニコニコと顔を出す。その慌ただしさに気がついたのか伊藤さんもイヤホンをとってこちらを見た。聡は伊藤さんを見て言う。
「どうしたんですかーそんなとこ座って! 寒そう、かわいそう〜!」
「聡! 調査中は突然聲かけたりしないで、今せっかくまことちゃんと話が出來そうだったのに!」
「え? 幽霊と信中だったの? あは、ごめんー」
馬鹿にするように笑った。私ははつい握り拳を作る。そんなこっちの怒りもじていないのか、聡はそそくさと階段を降り伊藤さんの隣に行った。
「なんで伊藤さんここ座ってるんです? ピザとりませんか、一緒に食べましょう! 私伊藤さんとか九條さんともっと話してみたくてー」
ニコニコ顔でしゃがみ込む。この人懐こさは私にはないもので凄いとは思うのだが、それにしても今回はやけに伊藤さんと九條さんに懐いている気がする。まあ、二人とも普通に見てモテるタイプだから気持ちもわからないではないが……もしや本気で狙ってるつもりだろうか?
伊藤さんはイヤホンをポケットにしまい込む。肩にかけていた布を取って簡単に畳みながら答えた。
「あーもうお晝は三人で食べたから」
「ええ、でもちょっとくらいは食べれるでしょ? 食べましょ!」
まるで引かない聡のいに、伊藤さんが小さく笑った。片方にできるエクボが見える。
「はは、あれだね、聡さんさ」
「え?」
「空気を読むってこと覚えた方がいいね、もう大人だし」
まさかの厳しい言葉に、その場の空気が凍った。
私すら、驚愕して伊藤さんを見るしかできない。
あの天使みたいな伊藤さんが、いつだって優しくて神様みたいな伊藤さんが、サラリと厳しい……。
時々ブラック伊藤さんを見ることはあったけど、誰かに対してこうも攻撃的なのは初めて見た。なぜか隣の九條さんは小さく吹き出して笑った。
固まっている聡を置いて伊藤さんは立ち上がる。まるで何事もなかったようにこちらを見上げた。
「消えちゃいました、よね? なんか布引っ張られてるのは気づいてたんですけど。うーん話途中でした?」
「ええ、ちょうど會話途中でしたね。私が母親に會おうと促すと、まことさんははっきり言ったんです。『いや』と」
やはりそうか、私も頷く。首を振っていたまことちゃん、なぜかお母さんに會いたくないんだ。伊藤さんは腕を組んで首を傾げる。
「いや、ですか。なんでだろう、もしかして、だから二人は會えないままなんですかね」
「理由はちょうど聞けませんでしたけど、おそらくそうでしょう。同じマンションにいつつも會えない原因は、母親は探していても子供の方は隠れていたのかもしれません。
思えば彼らの出現場所はそれを表しています」
「出現場所、ですか?」
私が尋ねると九條さんは説明してくれた。
「明穂さんの目撃はいずれもエレベーター、もしくはエントランスでした。なぜそのあたりに固まっているか疑問だったんですが、答えは簡単です。マンションで一番人が多く通るのはエントランスかエレベーターだからです。人探しをするのに人が多い場所にくるのは必然」
「そ、そっか、確かに」
「逆に、まことさんは階段。エレベーターがあれば階段を使う人間はない。人にはあまり會いたくないという彼の心理が表れている」
なるほど、確かに言われてみればそうだ。私は心する。いくら會いたいと思っていても、相手に隠れられたらなかなか見つけ出せないだろう。
黙り込んでいた聡が口を挾んだ。伊藤さんに口撃されたせいか、酷く機嫌が悪そうな聲だ。
「會いたくないならここから離れればいいじゃないですか? 誰かについて行ってもいいし、仏、とかするならすればいいし? なんで律儀に自分が死んだ場所に居続けるの?」
これまたそれなりに尤もな疑問でもある。意外とこの子は鋭いのかもしれないと思った。九條さんも素直に答える。
「その疑問は私も同じです。なぜ母親から逃げているのかも分かりませんし、この場にとどまっているのかもよくわかりません。まあ聞こうとしたらあなたの聲が邪魔してくれたんですけどね」
「すみませんでしたーあ」
「もう一度接したいですが、騒がしくしてしまいましたしし時間を置きましょうか、伊藤さんも寒いでしょうし。明穂さんの方に接してもいいですが……まことさんが拒絶してる理由を聞いた方が早いでしょうからね、一旦引きましょう」
私たちは返事をして階段を登り始める。思わぬところで調査が一時止まってしまった。
し振り返ると、聡はめげずに伊藤さんに笑顔で話しかけていた。
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