《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》

大きな聲に気づいたのか伊藤さんも振り返る。私をみて瞬時にこちらに駆け寄ってきた。背後にいた聡がなんだなんだ、とばかりにこちらに聲を掛ける。

「え、どーしたの?」

「さ、む、い……」

かろうじて聲を出す。伊藤さんがすぐに持っていた布を私にかけてくれた。聡は背後でどこか笑いながら立ち上がる。

「え、乗り移ったとか、そういう演しゅ」

私の正面に聡と信也が回り込む。と、彼は言葉を止めた。二人とも唖然としてこちらをみている。視界の端にそんな様子をとらえるが、気にしている場合ではなかった。

これまで生きてきてじたことのない寒気だった。しっかり著込んでいるというのに冷風がを突き刺す覚がわかる。痛い。耳も皮も、全が痛い。手先が凍っているみたい。

!」

異常をじた信也が慌てた様子で、自分の著ていた上著をいでかけてくれる。九條さんが厳しい表で言った。

「撤収しましょう、も顔も尋常ではないです、一度部屋に」

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そう発言をしている時だ。突然、自分のに変化が訪れる。寒さによる震えは瞬時に止まり、同時に全に噴き出てきたのは大量の汗だった。ぶわっとが開いて汗を排出しだす。

暑い。

とんでもなく、暑い。

まるで真夏の日の下に放り投げられたようだ。むっとした熱気を自分の周りにじた。口の中はカラカラに渇いて気持ち悪い。頭がぼうっとし思考回路が回っていない。今まで寒かったのに、この暑さは何? 自分のがおかしくなってしまったみたい。

「あつ、い……」

ちゃん?」

私はかかっている布や上著を力無い手でどかせる。そして自分が著ているコートもぎ捨てる。それでもまるで改善される様子はなく、セーターにも手を掛けた。このままだと死んでしまうと思い、正常な思考が働いていない。

「ちょっとお姉ちゃん!」

が慌てた様子で私に聲をかけて手を止めてくれるが、額から流れた汗が目にり、よく前が見えない。異様な量の汗がポタポタと垂れた。

「あつい、あつい……」

水分がなくなりカサカサに乾いたかそう言った時、自分のがふわりと浮いた。に力もらず、されるがままでいる。

「部屋に戻ります」

上から降ってきた聲は九條さんだった。ああ、また彼に抱き上げられているんだと理解する。視界はぼやけたまままだはっきりしない。でも振から、階段を登っているんだとわかる。伊藤さんの困ったような聲が聞こえる。

「九條さん、ちゃんどうしたんでしょうか! やっぱりまことちゃんですか?」

「正直わかりません。ですが何者かと波長が合ってしまったのは間違いないでしょう」

「寒がったり暑がったり、苦しそうだし……あ、九條さんそっち四階ですよ! 三階はここです!」

「すみません、つい焦っていて」

階段の扉が開いたと同時に、ふっと自分を取り巻く空気が変わった。熱気が冷気に変わる。でもさっきのような異様な寒さではなく、この季節にじる通常の冬の寒さだ。頬に冷気が掠ったことで、自分の頭もふっと冷靜さを取り戻した。

「あ……寒い」

ポツリと聲を出すと、伊藤さんが私を覗き込んだ。

「大丈夫!? とりあえず部屋戻ろう!」

「すみません……」

「謝らなくていいよ、しっかりね!」

うっすら開けた目で九條さんと伊藤さんの顔を見る。そのままし視線をかせば、後ろに信也と聡も來ていた。二人とも真剣な顔立ちで私たちを追っている。

部屋に戻ると、リビングにあるソファにすぐに寢かされた。途端、とんでもない不快に襲われる。著ている著やセーターも、背中や首元が汗でぐっしょりと濡れているのだ。外気でそれが冷えたので、冷たくじる。

はやや疲労があったものの、思ったより平気だ。私はしすると頭を持ち上げる。九條さんたちが私を囲んで見下ろしていた。

「あ、すみません……もう落ち著きました」

「大丈夫ですか。調は」

「もう咳も止まったし、寒気もないです。暑くもないし普通です。ちょっとはだるいですけど」

「突然寒気が來たのですか」

「はい、もうも痛みをじるぐらい寒くて。でも次の瞬間はものすごく暑くなったんです、一気に汗が噴き出すくらい……なぜかは分かりません」

私が説明していると、伊藤さんが隣から水を差し出してくれる。頭を下げてけ取り飲んだ。がカラカラになっていたのでありがたい。水分がに染み渡る。

九條さんが何か考えながら尋ねる。

「何か他に気になる現象は」

「気づきませんでした」

彼は唸る。さっきの現象は一なんだったんだろう。何かの攻撃? それにしては、すぐに止んだし攻撃的な気はじられなかった。

あれ、でもそういえば。先ほどの狀況を思い出して言う。

「すみません、ちょっと考え事をしていたんです……」

私はマイナスな思考の時に霊にられやすい、と分かっている。だから普段はなるべくそういった考えはしないように心がけていたと言うのに、ついさっきは考え事をしてしまっていた。だからこんなことになったのかも。仕事中に何をやっているんだ。

でも九條さんは私を責めなかった。何も返事をせず、一つだけ頷いた。注意の一つも言わず、彼は優しいと思う。

「寒気、次には暑い……一何を表しているのか。関連づけるものが今のとろこ見當たりませんが……」

一人でぶつぶつと考え事をする九條さんに、私は水を飲みながらおずおずと言った。

「すみません。さっきすごく汗をかいて……シャワーと著替えをしたいんですが」

「著替えはいいですが、今浴室で一人になるのはよくないのでは。倒れたりられても気がつけませんよ」

「でも、凄い量の汗かいたんですよ。気持ち悪くてかないません」

「じゃあ私が所に待機してていいですか」

「いいわけないですよね?」

「では諦めてください」

キッパリ言われてしまった。そりゃ心配してくれてるんだとわかってるけど……九條さんや伊藤さんもいるのに、としてこの汗だくでずっと室にいるのは心が痛い。だってほんと、髪だって汗で張り付いてるぐらいなのに。私は項垂れた。

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