《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》戸い
真琴さんたちは、お禮を言って帰宅した。思い切り泣いた後、でもスッキリした表で笑っていた。々疑っていた奧田さんも、最後は私たちに頭を下げて帰っていった。
その後ろ姿をみんなで見送りながら、伊藤さんが言う。
「的でしたね。ああ、こう言う時は僕も視えたらなあ……って思います」
伊藤さんはちらりと、聡や信也を見た。彼らは何も言わず、気まずそうに視線を逸らす。視えなくても、きっと明穂さんのは伝わったんだろうな。
明穂さんのことはこれで解決だ。ほっと安心したが、もう一つ大きな問題が殘っている。
「さて。もう一仕事行きましょう、今回はむしろこっちが本番みたいなものです」
九條さんが厳しい顔で言った。私はため息をつく。
飛鳥ちゃんだ。
明穂さんの方は、真琴さんさえ來てくれれば浄霊はそう難しいことではないと思っていた。案の定、スムーズに浄霊ができたわけだけど。
後はあの小さな子相手だ。
九條さんが伊藤さんに言った。
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「伊藤さん、あなたがいなくては飛鳥さんに中々會えないので、このまままたエサでお願いできますか」
「はい、もちろん大丈夫ですよ!」
「一気に終わらせましょう」
厳しい聲で言った九條さんの背中を、私たちはそのまま追いかけた。
明るいエントランスを通り抜け、一番端にある銀の重い扉を開く。が當たらないそこは一層寒さが増していた。薄暗く、上部にある非常燈が寂しげにっている。ぶわっと悲しい気でを包まれた。最初に來た時より、もっと強くなっている気がする。
前回のように、伊藤さんは一番下の段に座り込み、聡たちは踴り場まで行き端の方に固まった。私と九條さんは一番下、扉前に立ち、みんなを見渡すように見上げた。
伊藤さんは防寒をしっかりした後、イヤホンをつけて壁にもたれ目を瞑る。ブルっと寒さでを震わせた。
私は祈るように手を組み、飛鳥ちゃんに呼びかける。話したいことがあるの、出てきて。
「さんもおそらく飛鳥さんに気にられているでしょう、られたりしていますから」
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「どうでしょうか……母親はみんな子供が大事、なんて無責任な発言をしたからだと思います」
「……あなたの優しさが彼には眩しかったんですよ」
小聲で囁く。いいや、きっと私の発言は飛鳥ちゃんを傷つけたんだと思う。母にされてきたお前には分からない、と言いたかったのかもしれない。
しばらくそのまま時間だけが経った。これまでの中で一番長くかかっている。寒さでそれぞれがストレスをじ始めていた。でもここで諦めたら、もう飛鳥ちゃんとは會えない気がする。
私は目を閉じて祈る。
(飛鳥ちゃん、もう一回だけお話しさせて……もう母親に會え、なんて言わないから)
あなたを救いたいから。こんな寒くて薄暗いところに閉じこもってないで。
あなたはもっと溫かな場所に行くべきなんだから。
じっとみんなで変化だけを待ち続けていた、時だった。
突然周りの気溫が下がった。元々寒かったその場所が、ぐんぐん寒さを増していく。余裕で氷點下にまで達しているだろうと思うその空間に、自分の吐いた真っ白な息が昇っていった。
「飛鳥さん」
九條さんが優しく名前を呼んだ。私はじっと目を凝らして辺りを見回す。
「飛鳥さん、しお話し出來ませんか」
間違いなく近くにいる、とじる。この寒さは異常だ、彼が死んだ時もこんな風にじていたんだろうか。
姿は見えないものの、九條さんはそのまま話し出した。とにかく話してみないと始まらないと思ったんだろう。
「すみませんでした、あなたが飛鳥さんだとようやく分かりました。私たちは違う子と勘違いしていたのです。あなたは篠田飛鳥さんですね」
エコーがかかったような不思議な聲。九條さんが言い終わってしした頃、階段の中央あたりに人影が生まれた。その人は、黒いモヤを守っていた。
膝を抱えて座る飛鳥ちゃんだった。彼は相変わらず目の周りを黒く、そして鼻をつけたまま、子供とは思えない冷たい目でこちらをみていた。今までと隨分違う、怒りをじる視線に、私はを強ばらせた。
九條さんが小聲で尋ねる。
「何やら様子が違いますね」
「怒ってる? みたい……黒いもやみたいなのをに纏ってます……!」
「怒っている」
「私が怒らせたのかも」
「どうでしょう。あなただけではなく、散々違う名前で呼んで母親に會えと言ってきた私たちみんなに怒っているかも」
飛鳥ちゃんは何も言わずじっと私たちを見ていた。ウネウネと生きのようにく黒いモヤたちは、何か邪悪なものをじる。ずっと大人しくしていた飛鳥ちゃんを刺激しすぎて、悪いものへ変わりつつあるんだろうか。私のせいで、生前の嫌な験を思い出させてしまったのかも。
九條さんはゆったりした口調でいった。
「飛鳥さん。私たちはあなたを傷つけたりしない。あなたの味方です。ここに一人でいる飛鳥さんを、もっと素敵な場所へ案したいだけ」
いつもよりだいぶらかな言い方だが、飛鳥ちゃんの表は固いままだった。次第にどこからかピシ、ピシっと小さな音が聞こえてくる。
ラップ音、というやつだ。
ちらりと周りを見ると、伊藤さんは気づいていないのか気づかないふりをしているのか、微だにしない。聡と信也は不思議そうに周りをみていた。ラップ音だけ聞こえているみたいだ。
隣の九條さんが珍しく困っているように見えた。私もどうしていいか分からず九條さんと飛鳥ちゃんを互に見るだけ。
多分、九條さんのせいじゃない。飛鳥ちゃんが大分的になっている。その表からひしひしとじる不快なオーラが強くなってゆく一方だ。
それでも九條さんは話しかけ続けた。
「ここで母親を待つ必要はないんです。待たなくても、あなたはもう誰かに叩かれたりすることはありません。大丈夫、安心して」
その言葉を聞いて、飛鳥ちゃんの目がキッと釣り上がった。ついこちらがビクッとを反応させてしまうほど。
『うそ』
はっきりとそう聞こえた。その聲は低く、子供とは思えない聲だ。その威圧に押しつぶされそうだ。
「いいえ、噓ではないです。あなたはもう怯える必要はない、あなたは何も悪くない」
『怒られる』
「もう大丈夫です。あなたを怒る人は誰もいない」
『じゃあ、 一緒に來てよ』
冷たい聲がして、九條さんも一瞬口籠った。
だめだ、と心の中で思う。この子、本當に心を閉ざしている。私たちの言葉より、生前けた親からの仕打ちの方がずっと心を占めているんだ。
こちらの戸いが伝わってしまったのだろうか。次の瞬間、飛鳥ちゃんは突然口を開けてび出した。まるでサイレンのような、高くて悲痛なび聲だった。彼にとって戸いと悲しみと怒り、全てをぶつけた聲。ひどい音量につい顔を歪めた。
それに共鳴するようにラップ音が強くなる。さまざまな方角から聞こえてくる音に危機が増す。九條さんが強い口調で言った。
「いけない、一度撤収を」
聲は掻き消された。どこからか強い突風のようなものが現れたからだ。まるで近寄るなと言っているようだった。聡の悲鳴が遠くから聞こえた気がする。風に煽られ、私はのバランスを崩し倒れ込んだ。背後にあった出口の扉にもたれながら、この狀況をなんとかせねばならないと必死に考える。
飛鳥ちゃんは混してるんだ。何を信じていいか分からないんだろう。生前誰のことも信用できなかった彼に、信頼されるだけの関係が作れていない。
「飛鳥さん、どうか落ち著いてください!」
九條さんの聲は掻き消される。飛鳥ちゃんに屆いてはいない。
風音とラップ音の中に、何かが割れるような音がした。頭上からだった。見上げようとしたとき、突然自分に白い服が覆いかぶさる。
「さん!」
確かにそんな聲が聞こえた。自分はただ驚きでを固まらせる。同時に、何かが落下したのをじた。さらに、すぐそばでガシャンという音が響く。
「く、九條さん!?」
彼の白い服に埋もれながらび、なんとか顔を上げる。至近距離にある九條さんの顔に、赤い何かを見つけた。
九條さんの額からが垂れていた。
その赤を見つけた瞬間混してぶ。
「が! 九條さん、が出てます!!」
私がそう言ったとき、ふっと全てが止んだ。風も、ラップ音もおさまり、靜寂が流れる。そこでやっと九條さんがを起こした。
私から離れた九條さんの顔を改めて見上げると、やはり一筋のが流れていた。足元を見れば、何かの割れた破片や部品が見える。非常燈だ、とすぐに分かった。私のすぐ頭上にあった非常燈が落下してきたのだ。私を庇って代わりに九條さんが怪我を負ってしまった。額から一筋垂れる出はこめかみにっている。
「大丈夫です」
彼はそう短く言って何事もなかったかのように立ち上がる。私は慌ててハンカチでも、と思ったが、あいにく鞄は部屋に置きっぱなしなので持っていない。
「で、でもが」
「私はいいです。
それより、あちらをどうするか」
鋭い視線で見る向こうを私も見てみると、呆然としたようにこちらを見てくる飛鳥ちゃんがいた。彼は階段に座ったまま、罪悪に満ちた表で隣の九條さんを見ている。
を覆っていた黒いモヤはいつのまにか消えていた。その小さなからは、強い戸いじた。
(自分が誰かを怪我させたって、分かったのかな……)
飛鳥ちゃん自がけてきた暴力。自分が流してきた。
それを今度は自分が加害する側になってしまった戸い。
「大丈夫、あなたのせいではありません。怖がらせてしまった我々大人が悪いんです」
九條さんはそう言ったが、飛鳥ちゃんの表は晴れなかった。
膝に顔を埋めた。そして靜かに靜かに、泣き聲を上げ始めた。
その姿に、が痛みつけられて仕方がない。
優しい子なんだ。ただ、どうしていいか分からないんだろう。そりゃそうだ、こんな小さな子、しかも心に深い傷を負った子が、すぐに私たちの話を聞いてくれるなんて難しいはず。
この子のせいじゃないのに。どうして飛鳥ちゃんがこんな目に遭わなくてはならないの。彼にだって幸せに生きる権利があったというのに……。
私はいてもたってもいられず、ゆっくり飛鳥ちゃんに向かって階段を進んだ。九條さんが戸ったように名を呼んだが、足は止めなかった。
飛鳥ちゃんの隣にしゃがみ込む。震えるそのに手をばした。無論れられない。
「怖かったね……」
小さな嗚咽が聞こえる。
『寂しい』
溢れた小さな聲に、涙が止まらなくなった。
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