《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》一緒に
本當なら、家族にいっぱい甘える年頃。走り回って、勉強をして、時々怒られて、でも幸せに長していくはずだった子だ。それを、最も信頼する人間に裏切られ人生を絶たれた子。
この小さなを抱きしめられたら。
過去の呪縛から救い出して、一緒に歩いていけたら。
大丈夫だよって、伝えられたら。
無力は罪だ、と痛する。どうすれば伝えられるんだろう。どうしたら救えるんだろう。
私たちの力だけでは、飛鳥ちゃんの涙は止められない。
背景が、真っ白になった。
今まで寒かった気溫が一気に暖かくなる。まるで冬から春になったように、心地いい溫度となった。皮にぽかぽかとした太のが當てられているような錯覚を覚える。
眩しいほどの白に、飛鳥ちゃんだけが泣いている。階段の壁も、聡たちの姿も、何も見えない白い空間だった。突然変わった世界に、戸う暇すらない。
飛鳥ちゃんに話しかけようとしたとき、すっと自分の目の前を二本の足が通った。細い足だった。突然、鈴の音のような聲が降ってきた。
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———どうしたの
優しい言葉が響く。はっとして顔を上げた。聲と同じように、優しい微笑みをしたがそこに立っていた。
それに反応するように、飛鳥ちゃんの泣き聲がピタリと止む。顔を上げた彼は、涙で頬を濡らしたまま目の前のに答えた。
——— どうしていいか分からないの
ここで待ってないとお母さんに叱られる
でも待たなくていいよって言われたの
はゆっくりしゃがみ込んだ。飛鳥ちゃんの頬を両手で包み、何度か頷く。
———お母さんに叱られるの?
———叩かれる ご飯もらえなくなる
———痛いね お腹も空いちゃうね
———お腹空いた 寂しいし寒い
悲痛な聲に、は何度も頷いてみせる。たったそれだけの作が、ひどく安心を植え付けた。ふと、私の母の顔を思い出した。
私のお母さんとは年齢だって顔立ちだって似ていないのに、なぜこんなにも連想させるんだろう。
———泣いてちゃ可い顔が臺無しだよ
———だって、寂しい
——— 寂しいね
私、あなたぐらいの子供がいたの
今はもう大きいけど
本當はもう一人 子供しかったんだ
———そうなの?
———うん、妹か弟がしいって、散々言われてたの
飛鳥ちゃんの涙と鼻を、躊躇いなく手のひら拭いた。そして、しアンバランスなショートカットの髪を何度もでる。
———うちの子に、なる?
飛鳥ちゃんの涙が止まる。驚いたように、瞬きすらせず目の前のを見た。
———今からたくさん遊ぼう、味しいご飯を食べて、溫かい布団で寢よう
今までの辛い出來事を全部忘れるぐらい、私と楽しもう
———今から?
———そうだよ、新しい家族は嫌かな? 元々のお家がいい?
飛鳥ちゃんは強く首を振った。その拍子に涙が周りに滴り落ちる。ホッとしたようには笑った。
———私がいっしょに行ってあげる、って言ったら、來る?
———いっしょに?
——— いっしょなら、怖くないでしょ?
もし怖い目に遭ったら、私が必ず守ってあげる
絶対に、守ってあげる
飛鳥ちゃんが目をまん丸にしていた。驚きで固まっている小さな彼を、ゆっくりと抱きしめる。おしそうに、その人は笑った。
——— いっしょに行こう
怖くないよ 大丈夫
もうあなたを傷つける大人はいない
こんなに怖がらせてごめんね
自分を抱きしめる溫に、飛鳥ちゃんは泣いた。さっきとは違う、嬉しそうな泣き聲だった。そして腕の中で、何度も頷く。
それを見たは笑って飛鳥ちゃんから離れた。細く小さな手を取ると、しっかり握る。
飛鳥ちゃんは初めて、白い歯を出して笑った。欠けた前歯が痛々しくも、しかった。
はっとすると、いつもの階段に座っていた。いつのかにか寒さは戻り、冷え切った指先の痛みが現実だと教えてくれた。
目の前に伊藤さんの後ろ姿がある。その足元には壊れて散らばった非常燈。さらに奧に、九條さんが立っていた。
彼の隣には、大人と子供が並んで手を繋いでいる後ろ姿があった。一人は髪の長い、もう一人はショートカットの。
九條さんは優しい目で二人を見ている。
「……明穂さん!!」
耐えきれずんだ。
明穂さんがこちらを振り返る。けなくも涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を見て、笑った。任せてね、って言ってるようだった。
隣にいる飛鳥ちゃんは、穏やかな顔をして明穂さんを見上げている。それは子が母を見るような目で。
九條さんが明穂さんに頭をさげた。
子をし探していた明穂さんと、親の恐怖に囚われた飛鳥ちゃんがここで出會ったのは、ただの偶然だ。
でもその偶然はこの世で一番素敵だと思った。
に飢えていた飛鳥ちゃんを、で包んで連れて行ってくれるなら。これ以上ない最高の供養だ。飛鳥ちゃんもきっと眠れるに違いない。
「ありがとう……」
救ってくれてありがとう。
二人は何か會話しているように見えた。よく見る幸せな母娘。そのまま歩き出した明穂さんたちは、出口の扉に吸い込まれるようにすうっと消えて行った。
溫かな空気だけを殘して。
しばし呆然となり沈黙が流れる。いつのまにか悲しみの気は消え、ただの階段になっていた。
夢のような時間だった。でも足元に散らばった緑の破片が、現実に起こったのだと知らせてくれる。
「うう……ん、いたた」
場違いな聲が上がった。伊藤さんだ。ずっとかなかった彼はき出し、耳からイヤホンを外したかと思うと、頭を抱えた。
「いたた、頭痛が酷い。途中から寢てたのか気を失ってたのか……」
「伊藤さん、大丈夫ですか?」
「うんだいじょ……うわ、なにこれ。危な! なんで非常燈が落っこちてるの?」
驚いている彼の言葉を聞いて思い出した。私は立ち上がって九條さんに駆け寄る。
「九條さん、!」
「ああ、忘れていました」
「寢癖じゃないんだから忘れないでくださいよ!」
「小さな傷だと思いますよ、大丈夫です」
やや乾きだした出が痛々しい。私を庇って怪我を負ってしまった。病院へ行った方がいいのではないのか。
何がなんだか分からない、というように伊藤さんが聲をだした。
「え、どうしたんですか九條さん! 浄霊失敗したんですか? 一何が」
そこに、聡の聲がした。
「連れてってくれたんだね」
そちらを見ると、真剣な表をしている聡と信也がいた。二人は飛鳥ちゃんたちが消えていった扉をじっと見ながら、呟く。
「最後、一瞬だけ手を繋いでる姿が見えた」
「俺も……小さい子供との人が見えた」
二人の言葉に驚いた。今まで無縁だったというのに、まさか見えたなんて。けれど九條さんはあまり驚くそぶりは見せず言う。
「お二人とも、鈍な方ではありますが恐らく伊藤さんよりは力あると思いますよ。元々原さんは部屋が揺れる験をしていたんですし、聡さんはられたんですからね」
「え、僕だけ本當にみえないんですか? ほんとのほんとに零??」
困ったようにいう伊藤さんにしだけ笑った。揺れる験すら出來なかった伊藤さん、やっぱり霊を見るには無縁なお人らしい。
呆然としていた信也が立ち上がる。
「とりあえず……一度部屋に戻りましょう。怪我の手當ても」
その提案に私たちは頷いた。キョトンとしている伊藤さんにことのあらましを説明しながら、私たちはその場からようやく撤収した。
伊藤さんは話を聞きながらまたしても目を真っ赤にさせて泣きそうになっていて、霊は見えなくても寄せ付けてしまう理由はわかるんだなあ、と思った。
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【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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