《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》友達
麗香さんはもぐもぐと食べつつ不満を続けていう。
「寢てばっかりだしポッキーばっか食べてるし? 何考えてるかわかんないのよ、幽霊の方がわかりやすいわよ」
「表も出にくいですしね……」
「出不だしめんどくさがりだし」
「天然ですしマイペースですしね」
「顔だけ良いから周り騙されてやたら最初だけモテるけど」
「九條さん自はに興味あるのかってじですよね!」
鼻息荒くしてそう言った時、二人の視線が合った。同時に、小さく吹き出してしまう。
二人で笑った。誰かと好きな人について話せるなんて、初めての経験だった。共しつつ愚癡もあり。それがなんだかとても楽しくて、同時に心が楽になる気がした。
ようやく目の前のパスタを食べてみる。麗香さんが知ってるお店なだけあって、味は味しかった。一人では食べれなかっただろうなと思う。
麗香さんはふうと息を吐いて言った。
「まあ、変なやつだけど芯はしっかりしてるっていうかね。仕事は真面目だし、意外と思いやりはあるから、ずるいのよね」
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「それですね。私もなんだかんだ、この一年たくさん助けられたから……好きになるのはしょうがないだろって思ってます。
でもやっぱり、報われない思いをずっと持ってても辛いだけだから、言ってよかったなとは思います」
「あなた結構強いのよね。それでいいと思う、時間は有限だしね。そりゃ立ち直るのも時間はかかるだろうけど、前を見なきゃね」
「麗香さんも時間かかったんですか?」
「んー私の場合悔しさが大きかったかな。今も好きっていうより、全然相手にされなかったから悔しいんだと思う。未練はあるって言ったけど、一途なわけじゃないわよ、他の男とも遊ぶし」
「わお」
なんだか麗香さんらしいと思ってまた笑ってしまった。まあ、麗香さんは人だし仕事もできるし、絶対モテるだろうから相手に困らなそう。
彼は考えるようにいう。
「ま、落ち込むのはしょうがないけど、さっさと新しいにも目を向けるのが一番よ。次はもっとマトモな人間好きになった方がいいわね」
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「まともな人間って」
「まあナオ以外の人間は大概マトモだけど」
「前、街コンなるものに一人で參加したんですよ。撃沈したんです、自慢話ばかりだったり妙に距離が近かったり……九條さんは生活力とかは皆無だけど、そういうことは一切ないから、結局九條さんの株が上がって終わっただけでした」
はあとため息をつく。しレモンの香りがする水を一口飲み、あの時の慘敗ぶりを思い出して悲しくなった。お金払って疲れただけのイベント、私には向いてないんだろう。元々コミュニケーション能力が高いわけでもない。
なぜか麗香さんは笑った。
「まあ、運が悪かったんじゃない? ちゃんとした人も絶対いるはずだから」
「まあ、そうでしょうけど」
「じゃあ私の友達誰か聞いてあげる」
「ほんとですか!?」
「でもその前に、あなた近くに超優良件あるじゃない」
そう言われてはて、と首を傾げる。そしてすぐに思いつく、以前も麗香さんとそういう話をしたなと思い出したのだ。私は恐れ多くて首を強く振った。
「伊藤さんですか!? あの人は件っていうかもう神様じゃないですか!」
「あなた何言ってるの?」
呆れて聞かれるけど、だって私はそう思ってる。伊藤さんってもう手が屆かない太っていうか、そういうじなのだ。気さくで話しやすいけど、でもすごい人すぎて、憧れが勝っている。
麗香さんは不思議そうにいった。
「だって気遣いもできるし格もいいし顔も結構いいし、なんで彼が対象から外れてるの?」
「な、なんて言いますか、蕓能人みたいな覚なんですよ、憧れが強くて、付き合うとか考えたことないっていうか。いやそもそも私なんて釣り合わないんですけど!」
「そう? そんなの相手に聞いてみなきゃわからないじゃない。なんでか長く彼もいないみたいだし、狙うなら今のうちかもよー」
面白そうにいう麗香さん、多分楽しんでる。なぜか恥ずかしくなった私は俯いて食事をした。か細い聲でボソボソという。
「ていうか、あっちがダメだからこっち、なんて、失禮じゃないですか……」
「なんてそんなもんよ。別に狙えなんて言ってるわけじゃなくて、視野を広げてみればって言ってるだけ。いくらいい人でも対象に見えないこともよくあるしね。ま、私も誰かいい人いないか探しておいてあげる」
麗香さんはそう言って食事を続けた。私は言われた言葉を頭の中で繰り返す。
そりゃ、視野を広げた時に一番近くにいるのは伊藤さんだ。でも、九條さんとは違った意味で伊藤さんと付き合うなんて想像できない。それに、萬が一伊藤さんを好きになって振られたら立ち直れなくないか? 一緒に働く人二人ともに振られるってヤバすぎる。
うん、やっぱりナイナイ!
私はそう結論づけて、とにかくパスタを頬張った。
その後ゆっくりデザートまで堪能した私たちは、ようやくお店をでた。寒さが堪える冬の中、二人で駅に向かって歩く。味しい料理とケーキに満足し、私はこんな良い場所を教えてくれた麗香さんに謝した。
「味しかったですね。おしゃれだし、気にりました。突然呼び出したのにありがとうございます」
「ああ、別にいいのよ。私結構暇してることも多いから。一個の案件が重いから、仕事はあまり立て続けにれたくないの」
「あ、そっか。私たちとは違って手強い相手ばかりですもんね」
「今來てる依頼も話に聞く限り面白そうよ。腕が鳴るわ、実に會えるのが楽しみ」
そう言ってニヤリと笑う。その余裕っぷりと強さに素直に心した。私は今だに怯えてたり怖がったりしてるけど、さすが麗香さんは違う。きっと恐ろしい相手ばかりなのに楽しむ余裕があるなんてすごい。私もいつかこれくらいになりたいと思う。
今日は楽しかった、と微笑んだ。まず誰かとこんな可い場所でランチにくることもだし、麗香さんとゆっくり話せたのもよかった。バナ、というやつを誰かと話した経験がないため、貴重だった。
しばらく歩いて駅に辿り著き、私は最後にもう一度お禮を言った。麗香さんのおかげで隨分スッキリした。
「本當、突然の呼び出しにありがとうございました! おかげで楽しかったし気が楽になりました!」
頭を下げると、彼は栗の髪を揺らしてしだけ眉を顰めた。そしてやや不機嫌そうにいう。
「突然呼び出すなんて別に全然いいんだけど。それより他に納得いかないところがある」
「え!? 何か相でも!?」
「あなた友達がいないって散々嘆いてたけど、失した後われた私の立場は何ってことよ。別に予定さえ合えばいつでも付き合ってあげるから、その他人行儀やめなさい」
そう言われて固まる。
つまりそれは、ええと、『私は友達じゃないのか』っていう解釈でいいの……?
まさかそんなことを言われると思っておらず目を見開いてしまった。なぜか麗香さんはしだけ恥ずかしそうにプイッと橫を向き、私の返事すら聞かず手を振ってホームへと歩き出す。
「あ、ありがとう!」
必死にそれだけ言った。麗香さんは一度だけ振り返って、笑った。
その後ろ姿が見えなくなったところで、が熱くなってることに気がつく。それを隠すようにマフラーに顔を埋めて歩き出した。頬が勝手ににやけてくる。
失は悲しかったけど、やっぱり私あそこで働けてよかった。良い人にいっぱり巡り會えたもんな。まさかタイプがまるで違うあんな友達ができるなんて、思ってなかった。
またってもいいのかな。
(しかし友達ってどれくらいの頻度でっていいんだろう? ラインって用なくてもしていいのかな? あまり頻度高いとうざがられそう……でも麗香さん正直にうざいって言ってくれそう……)
にやけると同時に、人付き合いに慣れていない自分はそんなくだらないことに悩んだ。そんな時間が、失して痛んでいた心を忘れさせてくれる。
私は朝よりだいぶ軽い足取りで帰路についた。
休日が明け、また仕事が始まる。
朝、自室の全鏡の前で気合をれた。九條さんと會うのは振られたあの日以來だ。そりゃ気まずい、気まずくない人なんているのか。でも、今まで通り接してくださいと言ったのは私だ。堂々としていたい、と思っている。
だしなみを普段よりしっかりチェックした。腫れた瞼は元に戻ったし、たくさん寢て食べた。どこからどう見ても健康的な自分は、いつも通りだと言える。
そこから寒空の下歩き出した。に痛みを覚えるほどの外気がを震えさせる。白い息を空に送りながら、足を早めて歩いていた。
見慣れた事務所に辿り著き、そのドアを開ける。いつも朝一番は私か伊藤さんだ、九條さんがいることはまずない。調査終わりに自宅に帰るのが面倒だとかで泊まり込んだ時だけだ。
扉を開けた瞬間、し溫かな風をじた。そこで、私より伊藤さんが早いのだと瞬時に気づいた。
「あ、おはよー」
伊藤さんが笑顔で迎えてくれる。その顔を見てホッとした。私はコートをぎながら挨拶を返す。
「おはようございます! 伊藤さん、調は大丈夫ですか? 今回は聡たちの依頼で々お世話になりました」
「ううん、もうすっかり元気だし。ちゃんと解決できてよかったね!」
優しく笑ってくれる伊藤さんに、彼が帰宅した後のことを話した。信也のお母さんが宗教にハマっていたことや、聡と付き合っていたというのは彼の噓だったこと。私の過去を知っている伊藤さんには全て言いたかった。
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