《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》どういう意味?
にっこり笑って言った。
「同じことを言おうと思ってました! ちゃんとポッキー以外で晝食とってくださいよ」
「……善処します」
「私はちょっとデザートがしいので、コンビニに行ってきます。九條さん何かいりますか?」
「特には」
「じゃあ行ってきます」
私はそれだけ明るい聲で言うと、カバンを手に持ってゆっくりと事務所を出た。本當は駆け出したかったのを懸命に堪えて余裕を作ってみせた。
扉を閉めてエレベーターに向かい出した時、一気に悲しみの波が押し寄せてきて泣きそうになる。ああ、泣くな泣くな。泣いたってしょうがない、こうなることはわかって告白したんだろ自分。
口を強く閉じて涙を抑えた。やっぱり告白なんかするんじゃなかった、という自分と、言わなきゃいつまでも片想いで時間を無駄にしてたんだぞ、という自分が無駄な葛藤を始める。終わったことだというのに。
エレベーターに乗り込みビルから出る。外は空が真っ白で雪でも降り出しそうな雰囲気だった。天気予報を見るのを忘れてしまった、今日は崩れるのかな。
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ぼんやりそんなことを思いながら、本當はデザートなんて食べるつもりはないけどコンビニへ向かった。変な意地で、噓じゃなくて本當にコンビニに行ったんですという事実がしかったのだ。
歩いてすぐにあるコンビニへ辿り著く。溫かな暖房がぶわっと自分を包んだ。レジ橫にあるまんを見て、甘味よりあっちにしようかなどと悩みながら、とりあえずデザート売り場へ移する。
晝時だからか種類はなかった。スカスカの棚を見て、しいものがないなあ、なんてがっくりする。そんな些細なことですら泣きそうになっていた時、背後から明るい聲がした。
「あれ、ちゃん? 買いにきてたの?」
ぱっと振り返る。伊藤さんが笑って私を見ていた。手にはお弁當やお菓子を持っている。それを見ただけで、自分の心がふわりと浮くのを自覚した。
「伊藤さん」
「あ、デザート?」
「はい。でもいっぱい売り切れてて……」
「ほんとだねー。あ、これ結構味しかったよ、最近発売されたやつ」
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伊藤さんはチーズタルトを指差した。私は食べたことのないやつで、さっき見た時は特に魅力をじなかった。でも伊藤さんが勧めてくれた、というだけで買ってみようと思うから不思議だ。多分、この人変な壺とかもめちゃくちゃ売っちゃえる人だと思う。
「へえ! じゃあ買ってみます」
「うんうん。ちゃん、かばん持ってるってことはお弁當も持ってる?」
「え? はい、持ってますが」
「寒いけどちょっと近くの公園で食べない?」
予想外の提案に伊藤さんを見る。彼は小さく微笑んで、言った。
「何かあったでしょう?」
優しい聲に息をするのすら忘れた。彼は私を探るように、でも包むようにみている。
……なんでバレたんだろう。
別に普段通り過ごしているつもりだったのに、きっとうまくやれてると思ってたのに。ううん、きっと、伊藤さんのセンサーが凄すぎるだけ。
私は小さく頷くと、溫かい飲みも手にしてレジに向かった。
歩いてすぐ近くの公園につき、二人でベンチに腰掛けた。この寒空の下、外で座っているのなんて私たちぐらいだった。人気のない公園で、とりあえず溫かいお茶を飲む。
伊藤さんも買ったお弁當を取り出して食べ出した。なんとなく切り出しにくい自分も、お弁當を取り出す。
「なんかさーなんとなく、なんとなーくだけど、元気ないなあって思ってて」
話題を出してくれたのは向こうだった。彼は綺麗な箸づかいで卵焼きを一口食べる。決して重すぎず、そして軽すぎない絶妙な聲だ。本當に、どうして伊藤さんってこんなに々上手いのかな。
「バレてましたか……」
「聡さんとか原さんのことかなって思ってたんだけど。ちゃんがお晝に買い出し來るのも珍しいしさ。朝話の途中だったし、何かあったのかなーって思って」
「さすがです、伊藤さん」
「例えば原さんに復縁迫られたとか」
今朝は話さなかった報を突然當てられて、ご飯をに詰まらせるかと思った。なんて的確!
「ええっと、それも、ありました」
「あ、やっぱり? 原さんどうもちゃんに未練ありそうだったし、今朝の話聞いたらなおさらそうかなって。本當は聡さんと付き合ってた訳でもなかったならねー」
「でも、それは斷ったんです」
「あれ、そうなんだ」
「九條さんに振られたんです」
今度は隣で、思い切り食べを詰まらせた聲がして焦った。橫を見ると、苦しそうに咳き込んでいる。慌ててその背中をでると、彼はすぐに息を整えて私の方を見た。さすがにこの展開は予想外だったらしい。
「え!? ど、どういうこと!?」
「ええっと、帰りに告白して……振られました」
小聲でそう告げる。伊藤さんは目を見開いて固まった。彼は元々表かだけど、でもこんなに驚いてるのは初めて見たかもなあ、と冷靜に思った。
そんな伊藤さんの様子がしだけおかしくて、私は小さく笑う。
「そんな風に見たことない、って、あなたには他にいい人がいますってキッパリ振られました。伊藤さんには々応援してもらったのにすみません、朝言おうと思ってたんですが」
「…………いや、そんなこと全然気にしなくていいんだけど。九條さんが言ったの? 本當にそうやって?」
「はい。でも、予想通りでした。九條さんにそんなふうに見られてないことはわかっていたので。正直気まずいし悲しいけど、諦めることができるので、言ったことは後悔してません」
私は膝に置いたお弁當を見下ろす。
多分、九條さんに作るのは最後になるだろうなあと思っていたお弁當。
さつま芋の甘煮、れてやった私はちょっと々しいかな。
しばらく伊藤さんは黙り込んでいた。伊藤さんでも、掛ける言葉に困っているのかもしれない。あまり悲しい顔を出さないようにしたつもりだが、そりゃ人の失話なんて困るだろうなあ。しかも二人が同じ職場だなんて。
私はこの気まずさをなんとかしようと、笑いながら言った。
「って言う話を、麗香さんにもしたんです! 明るく聞いてくれてスッキリしました。仲良くなれて、そういう面でもこの事務所にってよかったなあって思ってたんです。失は悲しいけど、前向きに行きます!」
箸を持ってお弁當を食べながら言う。すると隣から、予想していたよりずっと低い聲がした。
「無理しないで」
何だか普段と違う音に橫を見る。伊藤さんが眉を下げて私の顔を覗き込んでいた。
「無理して明るくしなくていいよ。ちゃんはいつも僕を気遣いがすごいって言うけど、自分こそかなり人に気をつかうタイプでしょ。心配かけまいと頑張ってるの、わかってるから。無理しないでいいよ」
てっきり明るい勵ましが來るかと思っていたのに、思ったより真剣なトーンで言われたので戸ってしまった。そして、伊藤さんの言葉がグッと心に沁みる。
やっぱりこの人ってすごいなあ、敵わないなあ、なんて。
私はその人の顔を見つめ返し、微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、告白して諦めるきっかけになったのは本當によかったな、って思ってるんです」
「…………」
「だってちゃんと進むにはやっぱり諦めないと。あ、麗香さんが誰か紹介できないか見てみるって言ってくれて! あとは街コンでもまた行こうか……前撃沈したんですけどね」
笑いながらそう言ってみるけど、伊藤さんは笑わなかった。ほとんど殘ったままのお弁當もそのままに、困った顔で私を見ている。困らせたいわけじゃなかったのになあ、とが痛んだ。
「……そっか。ちゃんがスッキリしたっていうならよかった。他に探すって言うならなおさら」
「はい、うじうじしててもしょうがないですからね! 新しく彼氏でもできれば九條さんも安心するでしょうし、やっぱり失には新しいが一番かと」
「じゃあ、僕でもいいかな?」
自分の頬が固まるのを自覚した。作っていた笑顔は直し、時が止まったのかと思ったぐらいだ。
伊藤さんは笑うこともせずじっと私をみていた。普段、笑顔でいることが圧倒的に多い彼の、そうじゃない表。私にとっては凄い威力で、そりゃ固まるのも無理はないと思う。
「…………え
っと、あ、の?」
口かられた聲はそんな間抜けな聲だった。言葉にすらなっていない。一何を言われたのか、理解が追いついていなかった。
僕でもいいかなとは? 僕……僕?? 伊藤さん?? あれ、え??
完全にパニックになった私を見て、次の瞬間伊藤さんがにっこり笑った。あのエクボを目にし、張り詰めていた空気がすっと軽くなった。
「って、失した直後のの子に言うのはずるいよねー」
「え、えーーと」
「九條さんは勿無いことしたな、こんないい子振るなんてね?」
そうにこやかに言った伊藤さんになんて返していいか分からず、私は黙り込む。そんな私を置いて、彼は涼しい顔でお弁當を食べ始めたので、私もそれに続いて視線を下げた。
さっきの一どういう意味? 深い意味なんてないよね、あるわけない。冗談で言ったんだろうな、でも伊藤さんってそういう冗談言う人だっけな?
ぐるぐると頭の中を疑問符が回り続け、食べたさつま芋は味がよくわからなかった。
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