《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》故意

「今回麗香が攜わった案件について再度詳しく説明します。先ほども言いましたが、自分で首を絞めて自殺するという不可解な死が相次いだことで、まず私の方に聲がかかりました」

「影山さんに、ですか?」

私はそう聲に出したが、九條さんは特に驚いてはいなかった。そうか、まずは麗香さんよりさらに経験値が上の影山さんに話がいくのは自然な流れなのかもしれない。

「はい。容はこうです。

『ここ半月で、若いの不思議な自殺が相次いでいる。あまりに不自然なので見てみてほしい』と。

まずは私が詳細を聞きました。そこで、亡くなった人たちにはある共通點がありました」

「共通點?」

「まず、全員二十代の若いであること」

低く真剣な聲に、ごくりと唾を飲み込んだ。

今までも恐ろしい霊と関わることはあった。だが、本當に死人が出ているような事件は初めてなのだ。私たちは元々祓うような人間ではないので、そんな重要な案件が來るはずもない。

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「亡くなったのは全員で四名。この半月で四名です。それに、被害者と次の被害者は何かしら知り合いだった。亡くなった方の部屋に足も運びましたが、霊らしきものはまるでじられない。きっと、人から人へ渡り歩くタイプだと思います」

影山さんは一旦ふうとため息をつく。

「調査中、全く別件の依頼が私の元に來ました。今はこの不審死で手一杯なので斷ろうかと思っていたのですが、その依頼容を聞いて驚きました。

依頼は二十代の若いから。ここ數日、説明のつかない現象が相次いでいる。眠るたび、夢を見る。自分で自分の首を絞めて、苦しくて飛び起きるそう」

私と九條さんは無言で顔を見合わせた。それって、つまり。

「そう、偶然にも、次の被害者となるから依頼が來ていたのです」

「そのはもしかして、最後に亡くなった方と?」

「顔見知りだったようですね」

九條さんも険しい顔で何度か頷く。影山さんは両手をぎゅっと強く握り、続けた。

「個人報なのですが、こんな時なのでそんなことも言っておられず……橫原くるみ、という優をご存知で?」

「え!」

大きな聲を出したのは私だ。だって、今日ニュースで見たばかりじゃないか。伊藤さんと話したんだ、私とちょっと似てるとか言って。

「それって、えーっと、調不良で舞臺降板したっていうあの優さんですか!?」

「ええ。続く怪奇現象に悩み、仕事もしばらく休んだようです」

「そうだったんですか……九條さん、ほら、今日たまたまニュースで見たじゃないですか!」

隣で首を傾げていた彼に私はそう告げた。思い出したのか、九條さんはししてああ、と小さな聲をらす。

「なるほど。その優からの依頼だったんですか」

「ええ。

私が除霊に行こうとも思いました。ですが、今回どうも霊に好かれるのは若いとのこと。それで」

「麗香の方がふさわしいとじ、彼に依頼を頼んだのですね」

「その通りです」

私たちはゆっくり橫たわる麗香さんを無言で見た。そうだったんだ。影山さんの判斷は間違いではないと思う。まさか麗香さんがこんなふうになるなんて、想像してなかったんだろう。

九條さんが尋ねる。

「それで、その優は大丈夫なのですか。他の誰かが除霊を」

「……九條さん。橫原くるみは、無事です」

俯いた影山さんが小さく呟く。九條さんは腕を組んだ。

「麗香の首に自分で絞めた痕がある。つまり、霊は橫原くるみから麗香の方に憑いた、ということですか」

「ええ。

本當ならそのまま亡くなっていたかもしれません、死に至らなかったのは麗香の力で抵抗したからでしょう。それでもあの首の痕です、かなり手強い相手であることが分かります」

「なるほど……。橫原くるみと麗香は元々は知り合いではなかったと思いますが、今回は除霊されそうになり、反抗して憑いたんでしょう。

それで、私の最初の質問はどうしたのですか? あなたの結界はどうしたのですか」

九條さんの質問に、影山さんが顔を上げる。その表を見てどきりとした。

言葉に言い表せられない顔だった。苦しそうな、それでいて決意したような。

九條さんも影山さんの様子に疑問をじたのか、眉を顰める。

「影山さん?」

「結界は、張っていないんです。いえ正しくは、あなた方が來るまでは張っていた」

突然、予想だにしていない言葉が耳にってきて止まった。私たち二人は、ただ目の前の影山さんを見つめるしかない。

彼は九條さんではなく私を見た。真っ直ぐに。

「黒島さん。申し訳ない」

「……え?」

「今回の依頼の共通點。

若いであることと、その前に憑かれた者と知り合いであること。

『踏切の音を聞く』という験をしている者です」

「なん……ですって?」

聲を出したのは九條さんの方だった。私は唖然としてくこともできない。

二十代の……そして、憑かれた人と知り合い……踏切の音を聞く……?

それってつまり、

私が憑かれてしまったということ??

する私の橫で、大きな聲を上げたのは九條さんだ。

「なぜ結界を張らなかったのです! あなたの力があれば、一時的にでも近寄らせないようにできたはず。いや、そもそも、條件に合う彼を連れてこいだなんて無謀にも程があります!」

珍しく焦って言う九條さんに対して、影山さんは落ち著いていた。目を逸らすことなく、靜かな聲で答える。

「麗香に憑いたままだったら、彼はどんどん生命の危機に脅かされる。

麗香がこんな姿になってしまった相手の除霊を、こんな病室でしろと言うのですか。病で戦う病人たちがいる環境で? 普通の除霊とはワケが違うんです。一どんな弊害が出るか分かりません」

影山さんのゆっくりとした話を聞いて、ようやく悟る。多分九條さんも同じように察したのだろう、言葉を失い絶句した。

つまり、この人は……

わざと私に憑かせようとしたのだ。

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