《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》連絡
あえて結界を張らず、條件に合う私を呼び、麗香さんの近くにいかせた。麗香さんに憑いてる何かを、彼から引き離すために。
突如隣の九條さんが立ち上がり、テーブルに乗り出した。そして、向かいに座る影山さんのぐらを強く摑み聲を荒げた。
「そうと分かっていれば、彼をここに連れてきたりしなかった!!」
それでも影山さんは全くじなかった。眉間に深くシワを寄せて、しっかり九條さんを見つめ返す。
「自分でも最低な選択をしたと思っています。それでも、それしか思いつかなかった。事を話せばきっとここには來てもらえない。そう思ったから、全て伏せてお呼びしました」
そうか、そういうことなのか。私は真っ白な頭の中で冷靜に納得した。
麗香さんのの回りの買いなんかじゃなくて、それが目的だったのだ。そしてまんまと、私は憑かれてしまった。
私は小さな聲で隣の九條さんに言う。
「九條さん……落ち著いてください」
「しかし」
「私は大丈夫です」
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呼びかけに、彼は苦しそうにその手を話した。影山さんの著ているシャツが大きくれている。九條さんはドスンとソファに腰掛け、顔を大きく俯かせた。
影山さんは私をみて、深々と頭を下げた。
「黒島さん、申し訳ない。さっきも言ったように、この業界で若いはあまりいない。それも、麗香の知り合いの中では、あなたしか思い當たらず、ここに呼び寄せました。
私が命を懸けて必ず祓います。毆ってもらっても構いません、本當に申し訳なかった」
垂れる頭をぼうっと眺めながら、私は怒ることができずにいた。
きっと影山さんも考え抜いて、これしか麗香さんを守れる方法がなかったんだ。私は健康だし、移だって出來るから、除霊もやりやすい。彼がこの方法を選んだのは、仕方がないと思えた。
私は無理矢理微笑んでみせる。
「麗香さんを助けられたならよかったです。
影山さん、どうかよろしくお願いします」
私の言葉を聞いて、影山さんは苦しそうに顔を歪めて手で覆った。多分、自分でも葛藤があったのだなと想像がつく。
そして私は、いまだに項垂れている隣の九條さんにも聲をかけた。
「九條さん。影山さんがいてくれるなら大丈夫です」
「……軽率でした……あなたを、ここに連れてきてしまった」
九條さんのそんなか細い聲を聞いたのは初めてだった。驚きの方が大きい。私は首を振って否定した。
「きっと私は、無理矢理ついてきてたと思いますよ。麗香さんは大事な友達なんです、力になりたいですから。それに、影山さんがいてくれるなら大丈夫ですよ」
私の言葉に、九條さんがようやく顔を上げる。叱られた子供のような、弱々しい顔だった。見たことがない表に、つい苦しくなった。
九條さんは一度大きく息を吐くと、目の前の影山さんに厳しい聲を掛けた。
「私もできることはお手伝いします。必ずさんを守ってください。必ず。
彼に何かあれば、私は決してあなたを許さない」
その言葉に、影山さんが大きく頷いてこちらを見た。決意したような、力強い視線だった。
病院に長居するのもよくないと話は切り上げられ、私は一度事務所に帰ることになった。影山さんも、除霊するのに々準備がいるらしい。
麗香さんに挨拶をすることもなく病室を出た。憑いている者が遠ざかれば、きっと彼も回復して意識を取り戻すはず。そう願うしかない。
そそくさと病院から出た私たちは無言で歩く。駐車場に行く前に、立ち止まって影山さんが私に何かを差し出した。
「黒島さん。これを必ず離さず持っていてください」
真剣な表で私に差し出したのは、手のひらに収まるほどのお守りだった。赤い布で作られたそれはよくある形のだ。が、普通なら表に文字が書かれていることがほとんどだが、それは無地だった。
私の両手に握らせると、影山さんが言った。
「必ずですよ。私が作ったです、こちらの力をたっぷりそこに注ぎました。これがあれば、どれだけ強い相手でも數日は大丈夫でしょう」
「數日……」
「今まで被害にあった方を見るに、怪奇な現象が起き始めて數日は命が無事だそう。このお守りもあれば、黒島さんもすぐに狙われると言うわけではないでしょう」
私は強くお守りを握りしめた。影山さんは隣にいる九條さんにももう一つ渡した。
「九條さんにもお渡ししておきます。あなたはなるべく黒島さんから離れないでください。除霊の準備ができましたらすぐに連絡をいたします」
「分かりました。
私は除霊などは一切出來ませんが、出來ることはやりたいと思っています。今回の案件の詳細を伊藤に送って頂けますか。相手を知ることは無駄にはならないと思うので」
「もちろんです。しだけお時間をください」
深々と影山さんは頭を下げると、そのまま足早に立ち去った。私と九條さんはしばらくその後ろ姿を見送る。どこか重い空気の中、ポツリと九條さんが言う。
「さん、何か今普段と違う様子はありますか」
「いいえ。何も変わりないです」
「そうですか。一旦事務所に帰りましょう」
足をかした彼について私も歩き出す。いつもより歩調は早い気がした。必死に九條さんの隣についていると、小聲で言われる。
「すみません。あなたを巻き込んで」
「九條さんが謝ることは何一つないですよ。きっと大丈夫です」
「あなたは人が良すぎます」
「だって、あのままじゃ麗香さんが危なかったかもですし……役に立ててよかったです」
しばらく沈黙が続いた。二人で車まで足を運び、ようやくそこに乗り込む。冷え切った車にエンジンの音が響いた。九條さんがポケットからスマホを取り出す。
「まずはこの事態を伊藤さんに連絡します」
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