《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》舌打ち
「そうですね。伊藤さんは私のそばにいない方がいいのでは? 今回狙われてるのはみたいですけど、伊藤さんの好かれやすさは凄いですから、あっちに行っちゃったら大変です」
私が提案すると、九條さんが目を丸くしてこちらを見た。はて、変なことを言っただろうか?
「ここで伊藤さんの心配までするなんて、あなたどうなってるんですか」
「どうって! 伊藤さんを犠牲にしようなんて思いませんよ。それに、全く視えない伊藤さんに憑いたら危険度が増す気がします。せめて危険を察知できる私の方がいいですよ」
「…………そうですね」
なぜか九條さんがしだけ笑う。全然面白いことなんて言ってないと思うのだが、なぜ彼の表が緩んだのか。
スマホを作すると、伊藤さんにコールした。相手はすぐに電話に出る。スピーカーにしながら、九條さんは淡々と今あった出來事を説明した。
初めは明るく挨拶をしていた伊藤さんが、どんどん分かりやすいほどに聲を低くして行った。最後はほぼ無言になり、相槌すら返してこなくなる。
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車に九條さんの聲だけが響いていた。しばらくして説明を終えた頃には、ようやく暖まってきた頃だった。
「……という、急事態になりました。伊藤さん、影山さんから連絡が來ると思うので、注意しててください」
『…………』
「果たしてどこから調べようか私もまだ見當がついてません。とりあえず、今から事務所に戻ります。あなたは今回は自宅待機です」
『いいえ。僕も事務所に殘ります』
キッパリと強い聲が聞こえた。私は慌てて言う。
「伊藤さん! ばかりが狙われてると言っても、伊藤さんの質じゃ安心できません、近くにいない方がいいですよ!」
『ううん、僕に移ったらその時はその時だよ』
「視えない伊藤さんが憑かれるより、まだ視える私の方がマシですよ! 々私は慣れてるし」
『もし萬が一、急なことがあったとき、お守りを捨てたら僕の方に來るかもしれないでしょ。僕にしか出來ないことだよ』
また彼はそんなことを! 今までも、私から霊を遠ざけるために、自分を犠牲にするような行をしてきた。でも今回は相手が違うのだ、麗香さんすら苦戦するような、死人が出るようなものなのに。
伊藤さんの優しさこそ、凄すぎる。
「でも伊藤さん」
『いいですよね九條さん? ダメなんて言わないですよね。これは僕の意思です』
私はちらりと隣を見た。九條さんは困ったような顔をしていたが、どこか納得したような表でもあった。伊藤さんがこうして言い出すのを勘付いていたのかもしれない。
「私に止める理由はありません。では、事務所に帰ります」
「九條さん……!」
『はい。僕もできることはやっておきます』
その言葉を最後に、電話は切られてしまった。私は天を仰ぐ。伊藤さんに何もなければいいのだけれど、もし代わりに……なんてことがあれば。影山さんがなんとかしてくれるかもとはいえ、まだ除霊準備中なのだし。
「彼の優しさです。甘えてください」
「でも」
「止めることはできませんよ。ではまず帰りましょう。さん、何かしでも変わったことが起こったらすぐに教えてください」
「はい……」
渋々返事をした私を見て、ようやく九條さんが車を発進させた。いつも以上に安全運転にじた。
事務所に著くと、怖い顔をした伊藤さんがパソコンに齧り付いていた。帰宅した私たちをちらりとだけ見て、何かキーボードを叩きながら聲だけを出す。
「お帰りなさい、影山さんから來てます」
「早速ですね」
「影山さんに依頼がきた容がそのまま転送されています。が、正直これじゃどこから手をつけていいか分からないですよ」
顔を歪めながら伊藤さんが言った。私たちはとりあえずコートをいで置くと、伊藤さんを囲むように椅子を移し座る。伊藤さんが一度顔を上げて私を見た。
「大変だったね、ちゃん」
「あ、いえ……」
「影山さんは、大袈裟じゃなくこの業界でめちゃくちゃ有名な実力派だから。きっと大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
不安がないといえば噓になる。でも、私はその言葉を信じて自分を強く保つしかなかった。心をすことは一番よくないことだとわかっているのだ。
伊藤さんは畫面を睨みながら言う。
「ここ半月で四名の犠牲者が出ている、とのことですね。共通して20代、人から人へ染するように被害が出てる。全員自分で首を絞めて自殺。
麗香さんが依頼をけた相手が優の橫原くるみ。恐らく彼は無事で、麗香さんに移ったんだろうと」
「橫原くるみと麗香は顔見知りではなかったはずなので、そこだけは除霊してきた麗香に反抗して憑いたと考えるのが自然でしょう。ですが、それまでは知り合いを練り歩いてきたはず。伊藤さん、一番最初の被害者はわかりませんか」
「そこですよ」
伊藤さんが顔を歪める。
「橫原くるみの前に亡くなったは誰かわかるんですって。彼の行きつけの容室で働く容師みたいです。影山さんは死んだ現場まで見させてもらったらしいんですが、それ以前の報はまだ警察からもらってないらしいですよ。まー守義務もあるからぽんぽん報を流せないんでしょうけど、重要なところだから早くよこせって今かけあってるらしいです」
九條さんが腕を組んで考え込む。
「人から人へ伝染するタイプは珍しくありません。ですが肝心なのは、一番初めに憑かれた人間はどこから拾ってきたのか、です。無差別に憑かれる場合もありますが……。
この異常事態が起こり始めたのは半月前ほど。例えば、一番最初の被害者の周囲に亡くなった方がいて、それが原因だとしたら」
伊藤さんは唸りながらパソコンを作する。はあとため息をつき、苛立ったように舌打ちした。伊藤さんの舌打ちなんて初めて聞いたので、ちょっと驚いてしまう。
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