《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》朝がくる
睡眠不足はよくない、と言われ、私は仮眠室で寢ることを提案される。眠気はまるでなかったが、素直に従うことにした。力の溫存は必要なことだ。
非常識かもしれないが、眠っている私の様子を見にいくのを許してほしい、と九條さんは言った。それは了承する。私のに異変が起きていないか確かめてくれるということだ。寢姿を見られるのは恥ずかしいな、と思ったが、思えば伊藤さんはともかく九條さんは調査中よく見られていた。
調査に使うキャリーバッグには、いつも數日分の著替えや日用品がっている。なるべく寢やすい服を選んで著替え、固めのベッドに橫になる。
今のところ変な様子はない。布をしっかり被り、天井を見上げた。
眠くない。でも、寢なきゃ。
自分に言い聞かせるも、明日の除霊のことで頭がいっぱいだ。よくない、他のことを考えなくては。
畫面が割れたスマホは一応作は出來たので、イヤホンをつけて音楽を流すことにする。早く眠ってしまいたい。明日になって、影山さんに祓ってもらいたい。
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祈るように目を閉じ、流れてくる好きなアーティストの歌聲に耳を傾けていた。
多分、眠った。
いつのまにか、私は眠った。
何もない真っ白な空間をふわふわと飛んでいるような覚だった。心地よさにを任せ、規則的な吐息を繰り返す。かけていた音楽は最後まで再生し終えたのか、止まってしまっていた。寢返りを打った時、無音のイヤホンが耳から取れた。
その僅かな刺激が自分の目を覚まさせた。薄暗い仮眠室の天井が見えて、ああ眠ってた、とぼんやり思う。
中途半端にはめていたイヤホンを外す。瞼が閉じてしまいそうなに逆らうことなくそのまま枕に頭を落とした。今が何時かだなんて興味はなかった。
しんとした狹い仮眠室に、冷蔵庫が稼働するしの音だけが響いていた。そのまま再び夢の世界へ飛び込もうとした時、突然大きな音がしてびくっとが跳ねた。
笑い聲だった。
二つの笑い聲だ。おかしくておかしくてたまらない、という楽しそうな笑い聲。それはこの部屋からではなく、仕切りのカーテンの向こうから聞こえて來ていた。
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九條さんと伊藤さんの聲だ。
眠気が吹き飛び頭を上げる。まだ笑い聲は続いていた。ほとんど息継ぎも聞こえない連続した聲で、ただ二人は笑い続けている。
面白いテレビでも見ている? 伊藤さんが笑えるエピソードでも話してるのかも。
そう思いながら心臓がドキドキと鳴り響いた。伊藤さんはわかる、でも九條さんがあんなに大笑いすることなんてあっただろうか。なくとも私はこの一年見たことがない。
いや伊藤さんだって、笑ってしまったとしてもすぐに言いそうだ。『ちゃん寢てるんだから靜かにしましょうよ!』と。
では、あの聲たちは?
無言で足を下ろす。未だ聞こえてくる聲の方に向かって、ゆっくりと進んでいった。白いカーテンの隙間からがれている。そうっとそれに手をばした。
思い切りカーテンを開ける。見えたのは明るい事務所。ついていないテレビの前に座る二人。
九條さんと伊藤さんがソファに腰掛けて、笑い続けていた。目を細めることなくしっかり開いたまま。何も面白そうなことは見當たらず、私はその場で小さく聲をかけた。
「どうしましたか……?」
そういった途端、ピタリと笑い聲が止まる。そして、同時に首を回して二人が私を見たのだ。
今度は笑顔も何もない、無表。冷たい視線に足が震える。九條さんも伊藤さんも、何も発してくれない。
違う、違う。九條さんたちじゃない。
それでも目が離せない。囚われたように、二人から目が離せない。無音の部屋で、金縛りにあったように私はけない。あなたたちは誰、二人はどこに行ったの。
それ以上、私を見るな。
はっと開眼した。
薄暗い天井に、イヤホンが片方だけ外れている。音楽はもう流れていなかった。
眼球をかしながら辺りを見回してみるも、変なとこは何もない。
夢?
られた?
でも、お守りは持ってるし事務所も塩で守ってるはず。だから今られるわけがないと思うのだが。
イヤホンを適當に放り投げて足を下ろす。がれる白いカーテンに近づき、そっと耳を澄ませた。
「……じゃないですか。うーん、蕓能人相手ってやっぱり無謀ですねえ」
「調べるにしてもどこから手をつけたらいいのかですね」
「そもそも報がなすぎるんですよ! 変な自殺方法だけど、まだ世間には全然出てきてないですし」
二人の會話が耳にってくる。ほっとをで下ろした。いつもの二人だ、ちゃんと會話している。
さっきのあれはなんだったんだろう。
一度二人の顔を見たいと思ったが、聲を聞いただけで安心したので再びベッドに戻った。私のために調べをしてくれてるみたいだし、今話したら眠れなくなりそう。
夢だ。あれは夢だったんだ。自然と恐怖心が出てきてしまったんだろう。
私はそう言い聞かせて寢転がった。目を閉じると、無表でこちらを見てくる二人の顔が浮かんで仕方がなかった。
翌朝。
私は起き上がり簡単に支度を整えた。あの後も、時間はかかったがなんとか眠ることはできた。多分変な夢を見たんだろう。
あの夢のことを九條さんたちには言わなくてもいいかな、と思っている。お守りたちがあるのでられた可能は低いと思うし、実害も特にない。変な心配をかけるだけだ。
朝の著替えも済ませてカーテンを開けると、ソファに寢転がっている伊藤さんと、ポッキーを齧っている九條さんの姿が目にった。
私に気づき、九條さんが顔を上げる。
「おはようございます、眠れましたか」
「ええと、なんとか」
「朝食も食べましょう。ポッキー……はいりませんよね」
「はい、私は普通の食事にします。冷凍のおにぎりかな。九條さんたちは遅くまで調べをしててくれたんですよね、ありがとうございます」
「殘念ながら、新しい報は何も出てきていません。まあ、今日無事に除霊されればそれで終われるので必要ないかもしれませんがね。あの影山さんなら大丈夫でしょう」
九條さんがキッパリと言い切ったことで安心が増す。そうだよね、麗香さんよりさらにベテランの人って聞けば、その力は納得できるものだ。
「ししたら影山さんが迎えにくるはずです。そこで移して除霊開始です」
「はい」
「さん、見せてください」
そう言った九條さんは突然立ち上がり、私に歩み寄った。急のことに驚きで止まる。彼は真っ直ぐ私の前に立つと、手をばして私の髪を払った。どきりとが鳴る。
「首に異変はありませんね」
じっと見つめているのは私の首だ。首を絞めて自殺するという怪異なので、それを確認しているのだ。私は戸いを隠すように橫を向く。
「は、はい。大丈夫です」
そんな私の様子に気がついたのか、九條さんはし困ったように視線を外した。すぐに離れ、例の命の源とも言えるお菓子を手に取り齧る。
話題を変えるように尋ねた。
「麗香さんは大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、霊はあなたに移ったようですし、容が悪化することはないと思います。あとは意識が戻ればいいのですがね」
「麗香さんは生命力強そうだし、大丈夫ですよね」
「それ、なんだか分かります」
九條さんがふっと笑う。私も釣られて笑った。二人で靜かな朝を過ごしていると、し掠れた伊藤さんの聲が響き渡った。
「うーん! おはようございます〜ちゃん大丈夫?」
ソファからを起こした伊藤さんは、挨拶と同時にすぐに私に聲をかけた。いつもだしなみはしっかりしている彼が、前髪をし跳ねさせている。それが珍しくて面白くて、私はつい微笑んだ。
「おはようございます。大丈夫です、ありがとうございます」
「そっかよかった。影山さんから送られてきたもの効いてたんだろうね〜ふああ。僕も歯磨きしなきゃ」
「伊藤さん前髪跳ねてますよ、九條さんみたい」
「うそ、直るかなあ」
ブツブツ言いながら髪をでる伊藤さんが微笑ましくて眺める。朝から癒しチャージしてしまった。今日の除霊前に、いいじに肩の力が抜けたな。
「私朝ごはん準備しますね!」
「あ、僕やるよちゃん!」
「いいんです、いていた方が余計なこと考えなくて済むので。怪我だって小さいからこれくらい大丈夫ですよ」
私は笑いかけて裏へる。準備って言っても、ほとんどレンチンだしね。大したことはしないのだ。
三人分の軽い朝食を並べている時だ。事務所の扉をノックする音がした。昨日のこともあったのでどきりとがなる。
九條さんがすぐにいていくれた。そして、聞こえてきた聲を聞いて安心に包まれる。
「おはようございます。隨分早く來てしまいました、よろしかったですか」
らかな腰で言ってきたのは影山さんだ。私はすぐにカーテンをから顔を出す。私を見て、彼はほっとしたように表を和らげた。
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8 78シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜
世に100の神ゲーあれば、世に1000のクソゲーが存在する。 バグ、エラー、テクスチャ崩壊、矛盾シナリオ………大衆に忌避と後悔を刻み込むゲームというカテゴリにおける影。 そんなクソゲーをこよなく愛する少年が、ちょっとしたきっかけから大衆が認めた神ゲーに挑む。 それによって少年を中心にゲームも、リアルも変化し始める。だが少年は今日も神ゲーのスペックに恐れおののく。 「特定の挙動でゲームが強制終了しない……!!」 週刊少年マガジンでコミカライズが連載中です。 なんとアニメ化します。 さらに言うとゲーム化もします。
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