《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》何を考慮してそうなるの?
ちらりと伊藤さんを見ると、ニコニコ笑いながら私を見ている。食べさせる気満々らしい。私は顔を赤くして首を振った。
「い、いいえ! 自分で食べます、布を外してもらえれば」
「だめだよ、しの油斷も」
「ほら、油を」
「そんなことするよりこっちの方が早いって。ほら、怪我してるのと一緒だよ。あーん」
いや、あーんって!!
伊藤さんはにこやかに私におにぎりを勧める。何か伊藤さんがこんなことをしてくるのって珍しい。いつでも相手を気遣うタイプだから、私が困ったり恥ずかしそうにしてることもすぐに勘づいてくれるのに。
なぜか頑なに引こうとしない。
まあ、それだけ急事態ということ。確かにリスクがあるのならなるべく布は取らない方がいい。伊藤さんもそう心配してるんだろう。私は素直に頷いた。
「いただきます……」
おずおずと口を開けて食べてみる。いや、人にご飯食べさせてもらうなんて、赤ちゃん以來じゃない? 記憶の中ではお母さんですら殘ってない。
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一口食べるだけの行為がとんでもなく恥ずかしい。もぐもぐと咀嚼しながらなんとなく伊藤さんと逆に視線をかすと、すぐそばに立っている九條さんと目が合った。
彼はなぜか無言でこちらを見ていた。無表でじっと見られると居心地が悪い。もしかして呆れてる? いや、九條さんは意外と心配だし、これぐらいして當然だと思っていそうだけど。
ししてく。九條さんは仮眠室にると、小さな箱を持ってきた。何を、なんて聞かなくてもわかる見慣れたものだ。小腹でも満たすのかと何も言わずにいたが、彼はドスンと私の橫に腰掛けた。
そして封を開けると、一本取り出し突然ずいっと私の顔に寄せたのだ。
「どうぞ」
……まさか、九條さんも私に食べさせるつもり? 急になに。伊藤さんの真似っこだろうか。
「…………いや、おにぎり食べてるんですけど」
「はい、考慮してアーモンド付きにしました」
(何を考慮してそうなるの?)
右からおにぎり、左からポッキー。二種類の食に挾まれる形になり、なんだこれ。なんだこれ??
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いや多分、食べて力をつけろと言うことだろう。そりゃさっきの除霊でだいぶ力を失った気がする。
「ど、どうも、でもさすがに甘味は食後に」
「あ、九條さん僕があげますから。貰います」
言いかけた私に被るように、伊藤さんがそう言った。そしてそのまま九條さんが持っていたポッキーたちを奪い取る。手元に何もなくなった九條さんは、しばらくその狀態で固まった。そしてしして、ちらりとこちらをみると、頭を掻きながら立ち上がり、また仮眠室へって行ってしまった。
なんか、よく分からない奇行。
「はいちゃん、まずおにぎりどうぞー」
「あ、どうも……」
素直に口に頬張る。これって三食全部こうなるのなかなあ。
「伊藤さんすみません、介護させて」
「あはは、介護って。ちょっとしたお手伝いじゃない、普段九條さんに焼いてる世話に比べれば十分の一ぐらいだよ。可いの子に食べさせるのは結構楽しいんだって分かったしね」
サラリとこの人は。私はどう答えていいかもわからずとりあえず早く食べ終わろうと急いだ。伊藤さんは涼しい顔をして、私に食を與え続けた。
しばらくして食べ終わり、私は一息つく。同時に伊藤さんはパソコンを開き、報が來ていると大きな聲を上げた。
九條さんもすぐに駆け寄り、みんなでパソコンを覗き込む。警察から、この半月でなくなった四人の報が屆いたのだ。橫原くるみより以前の被害者たち。
1.川村莉子(25)
會社員。自宅にて自分で首を絞めて自殺。
2.鬼頭舞香(21)
川村莉子と同じアパートに住む大學生。二人は時々夕飯を共にする友人関係であった。ある朝大學に通う途中、人気のない道で首を絞めて自殺。
3.東野遙(27)
鬼頭舞香が中學生の頃家庭教師をしていた。現在會社員。時々連絡を取り合うぐらいの間柄。自宅にて首を絞めて自殺。
4.三谷菜々(27)
東野遙の昔からの友人で容師。実家にて首を絞めて自殺。
「この最後の三谷菜々って人の知り合いが、橫原くるみですね。それを除霊したのが朝比奈さん、と」
伊藤さんが考えるように言った。九條さんも険しい顔でじっと畫面を見つめて答える。
「そうですね。こう見てみると、若いという以外は共通點はなさそうですね。知り合いを渡り歩くと言っても、親しさにはばらつきがありそうです。とても親しい間柄から、時々連絡をとるぐらいの間柄まで。そこは霊との相かもしれません」
「他に々詳細も書かれてますけど……とりあえず注目すべきは、この一番最初の川村莉子(25)ですかね」
伊藤さんが畫面を指差した。そこに出ている川村莉子の報には死んだ時の詳細までも書かれているようだった。私は目を逸らす。九條さんは頷いて答えた。
「ええ、やはり、この川村莉子がどこから霊を拾ってきたのかは大きなポイントになります。まずはここを徹底的に調べましょう。蕓能人でもないですし、調べやすいかと」
「ええ。とりあえずこの子の周辺で最近、若い男の人が亡くなっていないか調べてみます」
「私も手伝います」
二人はあっという間に方向を話し合い、き出した。伊藤さんは集中力をマックスにしパソコンに齧り付く。いつもぼうっとしている九條さんでさえ、ポッキーを一本だけ口に突っ込むと、しっかりパソコンに向き直った。
殘されたのは両手さえ自由に使えない私。これじゃあ掃除やご飯の支度もできない。
そんな私に気づいたのか、伊藤さんは『テレビでも見ててね』と言ってつけてくれた。時間的に明るい報番組が多いのでありがたい。味しそうなお店の紹介や明るいトークなどがあって、気が紛れるなと思ったのだ。
布で巻かれた両手でペットボトルを挾み水を飲む。
(ああ、分かってはいても何もしないのは心苦しい……)
かと言って考え込むのも駄目だ。られてしまうかもしれない。私はなんとか気分を明るくさせながら、テレビに映るハンバーグを見つめることしかできないのだ。
ほんのし時間が経ったところで、伊藤さんが聲を上げる。
「九條さん、こっちで川村莉子のSNSを見つけました。送るので過去の記事を読んでもらっていいですか?」
「……早いですね」
「調べは僕の仕事ですから。ううん、警察からの報に住所までは書いてないんですよねえ。連絡先が分かれば家族に……いや、亡くなって半月じゃあ話を聞くのも難しいか。ちょっとこのSNSから仲のいい友達らしき人を見てコンタクト取ってみます」
流石の伊藤さんだ、進みが早い。
喜ぶと同時に疑問でもある。もし莉子さんの近くで亡くなった人がいて、さらにそれがあの男だとする。でもそこから一どうするんだろう。あの霊、浄霊なんてできるタイプでないことは確かだ。無差別に人を攻撃するような霊の思い殘したことなんて、葉えられるわけがない。
元が割れれば、影山さんがきやすかったりするんだろうか。
口に出そうとしたがやめた。今は二人ともできることから必死になってくれているんだ。希がなくても進まねばならない。
私は気になり、九條さんの背後へと回った。彼はSNSを読んでいるところで、川村莉子が書いた文が表示されている。
『仕事終わり。殘業疲れたーー推しを眺めて充電!』
『週末は楽しいことがあるから楽しみ!!』
『ケーキ食べた!』
ごくごく普通の発言ばかりだった。日常生活中心の発言。定期的に書いているようだが、特に近しい人が亡くなったような描寫はないようだ。
九條さんがどんどん遡っていく。數ヶ月分まで戻るが、どれも當たり障りのないものだ。
九條さんはふうと息を吐く。
「今のところそれらしきものはありませんね……」
「普通のの子ってじですね、なにがあったんでしょう……」
「まあ、わかりませんよ。明るい話題だけ書き込むタイプだったのかも。伊藤さんの方で何かわかるかも」
二人で伊藤さんの方をみる。彼は一口水を飲み、畫面から視線を離すことなく言った。
「SNS上で仲良さげな子にコンタクト取ってみましたが、怪しがって返事くれない可能は高いですね。それより、川村莉子さんの出校が分かりました。仲良い友達が數人卒業生でいるので、そっちも當たってみます」
「流石の人脈」
友達が一人しかいない私も見習いたい。こうやっていつも々広げて調べてるんだろうなあ……。心せずにはいられない。
九條さんは頷きながら続きを読み始める。私は再びソファに戻り、気を紛らわせるようにテレビを眺めるしかなかった。
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