《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》小さな痛み

しして伊藤さんが帰宅した。一気に事務所が明るくなる。

聲を顰めつつも、楽しそうな笑顔でビニール袋を掲げた。

「ただいま戻りましたー! いっぱい買ってきたから食べましょ」

伊藤さんが帰ってきたことでホッとする。なんとなく、九條さんと二人きりはもう辛いと思った。

伊藤さんは私たちの前にあるテーブルに々なものを並べていく。

「伊藤さん、ありがとうございます」

「全然いいの。何話してたの二人で?」

「え? えーと……九條さんがになったらどんなじなのかを」

「噓でしょ何がどうなってそんな話してんの」

呆れたように伊藤さんが言う。私はさっきまでの複雑な気持ちを飛ばすように、笑って言った。

「あ! でもモテるのは九條さんより絶対伊藤さんですね、伊藤さんの子になったらえげつなくモテると思いますよ!」

「それ全然嬉しくないんだけど……男にモテるってさあ」

「そうですか? 褒めてるんですけど……あ、もちろん今もの子にモテると思いますけど」

Advertisement

「ええ? モテないよー別に」

彼は笑いながらどんどん買ってきたものを出す。食事はもちろん、飲みやおやつまでラインナップは富だ。

九條さんはポッキーに手をばして、すぐにひっこめた。

「トイレに行ってきます。先に食べててください」

「はーい」

そう言って席を立ったのを、見送ることなく機の上だけを見ていた。一人で気まずくなって馬鹿みたいだな、と反省している。

九條さんがいなくなり伊藤さんと二人になったところで、彼はトーンを変えずに聞いてきた。

「で? 本當は何話してたの?」

サラリと言ったので驚いて顔を上げる。伊藤さんは優しく微笑んで私を見ていた。私が落ち込んでいるのがバレてしまっているようだった。

つい笑ってしまう。

「伊藤さんってなんでそんなに人間観察力凄いんですか」

「凄いかな?」

「凄いですよ。もう、笑っちゃうぐらい」

「笑うぐらい余裕があるならいいね」

しばしそのまま笑い聲を出した。それと同時に、昨晩の會話が蘇ってくる。

なぜあんなことを言ったのか本人に聞いてみたかったけれど、そんなわけにもいかない。第一あれば私が盜み聞きしただけなのだ。

私は一つ大きく息を吐く。伊藤さんを安心させるように明るく言った。

「大丈夫ですよ、今はそれどころじゃないですし。生きるか死ぬかの問題ですから、失ぐらいね。時が解決してくれるって分かってます」

伊藤さんは無言のままサンドイッチの封を開けていく。

「九條さんもしは伊藤さんの気配りできるところ、見習ってほしいですね!」

「はは、まーあの人は天然だからねえ」

「ですよねえ。見てる分には面白いんですけど」

「それは言えるね。あんな面白い人見たことないよ僕」

「同です。でもそれを言うなら、私伊藤さんみたいにスーパーコミュ力の人も見たことないですよ!」

「ええ、そうかなあ? 別に普通だと思うけど」

「スーパーです! しかも優しいし! 神ですから!」

私が力んで言うと、伊藤さんがふっとこちらをみる。

普段浮かべているエクボを無くして、低い聲で言った。

「僕結構腹黒いよ。失で弱ってる子には、ここぞとばかりに攻めるしね」

いつもの彼とは違った表な気がして、止まった。

「モテるだなんてちゃんは言うけど、好きな子にモテないと意味ないよね」

ほんの數秒、沈黙が流れる。たったそれだけなのに、やたら長くじてしまった。

固まっている私を見て、伊藤さんはにっこり笑った。いつものように人懐っこい、犬みたいな顔。

「はい、どうぞ」

サンドイッチを差し出してくる。

脳みそが現実に追いついていない私は、素直に口を開けるしかなかった。パンのらかさとレタスのシャキッとした食が伝わってくる。でも、味はちっともわからないのですが……。

「戻りました」

タイミングよく、九條さんが帰ってくる。伊藤さんは何事もなかったように話し出した。

々買ってきました、影山さんはまだ聲かけない方が良さそうですよね。お先に選ばせてもらって食べちゃいましょう、九條さんポッキーの前に食事を取ってからですよ」

「……はい」

ちゃんプリンとゼリー買ってきた、どっちがいい?」

「あ、では、プリンで……」

「オッケー。サンドイッチ々種類買ってきたから食べようねー」

いつもの伊藤さんだ。テキパキ手際よく仕切ってくれる。私と九條さんはされるがまま。

さっきのはなんか聞き間違いだったかな。それとも深い意味なく言ったのかも。うん、そうだそうだ、私のことを話していたわけじゃないだろう。

気を取り直して、サンドイッチを食べていく。もはや食べさせられるのには慣れてきた、こんな狀況だからしょうがないだろうっていう開き直りだ。案外自分は適応力が高いのかもしれない。

穏やかに食事が続けられていく。無音のテレビは未だついたままだ。今は誰もみる人がおらず、事務所し明かりを燈してくれているだけ。

いくらかサンドイッチを食べたところで、お腹が膨れてくる。ちょうどいい量かも、あとプリンかな。

そんなことを考えている時、突如靜電気のような覚が私の頬に當てられた。

ピリッと電流が走るような、小さな痛み。今までじたことのない不思議な覚。

一瞬だけ顔を歪めるも、すぐに元に戻った。誰もれていないのに、一なんだったんだろう。

    人が読んでいる<視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください