《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》一番大事なものをなくしたとき

持っていたそれをくるりと返し畫面を見せつける。伊藤さんが先ほど見つけてきた寫真が一枚、表示されていた。

みた途端、影山さんは停止する。

二人が笑顔でピースをしている寫真だった。二人とも若い。場所はどこかの居酒屋なのか、すぐそばにはドリンクや料理がし寫っていた。

笑っているのは川村莉子。

その背景に、影山さんの橫顔が寫っている。

彼はグラスを手に、楽しそうに笑っていた。

「……それ、は」

を震わせている彼に、ずっと黙っていた伊藤さんが聲を上げた。

「川村莉子の裏アカウントからいろんな人のところへ飛んでみました。繋がっていたのは大概日比谷の熱狂的ファン。そしてその寫真は、日比谷の信者たちのオフ會です」

影山さんのこめかみに、汗が垂れた。私はそれを、じっと眉を下げたまま見つめている。

伊藤さんの聲が続く。

「どうみても、ただ興味があるとか、日比谷の人生の背景が知りたいとか、そんな人たちの集まりじゃなさそうでしたよ。彼を崇め、尊敬し、憧れている人たちばかりと見ました。そこに參加してたんですね、影山さん」

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影山さんは黙ったまま何も言わない。視線を泳がせ、迷っているようだった。言うべきか、黙っておくべきか。彼の葛藤が見える。

川村莉子も參加していた日比谷のオフ會に、影山さんも參加していた。川村が生きている時なので、まだこの事件は始まっていない頃。

悩んだ挙句、素直になろうと思ったのだろうか。ひとつ深く息を吐き、俯いたまま、影山さんは話し出した。

「寫っているのは私です……こんなこと、人には言えなかった。

おっしゃる通り、私は元々彼にひどく憧れていたんです」

私は靜かにため息をついた。

だからあの踏切の寫真一枚で、日比谷の聖地だと分かったのか。それ以外にも、事件に詳しかった。ああいう殺人犯を調べることに興味があった、という発言を信じていたが、発生したのは十五年以上前だ。鮮明に覚えていると言うのは、思えば不自然だった。

信者だから、わかったのだ。

今まで見てきた影山さんからは信じられない。あんなに正義に溢れ、優しい人だったのに、まさか犯罪者を崇拝するだなんて。

九條さんは持っていたパソコンを置く。

「日比谷だけではないのでは?」

「……ええ、私はおそらく、人間として欠陥品なのです。

昔から、死というものに対して魅力をじる人間でした。同時に、猟奇的な殺人犯にも。上手く説明できませんが、心の奧底が満たされ、ワクワクするのです。日比谷だけでなく、いろんな事件の犯人を調べては崇拝していました」

どこか遠くを眺めるように、ぼんやりとしていた。そして、悲しいの瞳で続ける。

「私を人間にしてくれたのは妻です。彼が私にを教え、優しさを教えてくれ、私は今こうして生きている。あの人と出會わなければ、ここにはいないでしょう。日比谷たちを崇拝することはやめられなかったが、なくとも黒い部分を隠しながら生きてこれた」

「……そういった人間が一定數いることは知っています。理解はできませんが、一つの趣味ですから、崇拝するだけなら私がとやかく言うことはありません。

ですが、何が悪かったかというと影山さん。あなたには人にはない不思議な強い力を持っていることです」

はっと彼は顔を上げる。私たちの顔を順番に眺め、數歩後退した。何かを察したようだった。その顔は、『信じられない、そんな、まさか』そんな聲が聞こえてきそうな表だ。

追い討ちをかけるように、九條さんが言う。

「分かりますか。麗香すら力負けする、あなたが用意したはことごとく効かない、あなたの除霊の特徴を知っている。

それは『あなた』しかありえないんですよ」

影山さんは小さく首を振る。何度も何度も振り、信じられないとばかりに言った。

「待ってください……私は確かに人には言えない、黒い部分を持っている自覚はあります。けれどだからと言って」

「言いましたね、必要なのは自覚だと。

あなた、奧様を一ヶ月半前に亡くされていますよね」

影山さんがびくっと反応する。

何度か彼自から聞いた奧さんのこと。彼は妻家で、とてもしているようだった。

優しい笑顔で、亡くなったことを悲しみ嘆いていたのを私は見ている。

……きっとその奧さんが、

一番大事なキーだった。

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