《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》こんな終わり

「…………え?」

疑問の聲が自分の口かられた。

しっかり首に巻きつく指たちは紛れもなく自分のものだ。何が起こったのかわからず、頭が追いついていない。私? 私が一、何をしているというの。だって影山さんは。

すぐそばで気を失う彼を見る。やはり、眠ったまま変な様子はない。さっき自分の目でもみたはずだ、黒い影山さんは消滅していった。

「なん」

そう言いかけた途端、伊藤さんと九條さんが勢いよく飛んできて、引き離そうと腕を引っ張った。二人とも、いや、三人とも何が何だかわからないという狀況だ。まだ手のひらに力はっておらず、息は出來ていた。だが、しっかり首に張り付いている。

「離れない!」

「どうして!」

パニックだった。まるで一化しているように、手は首から離れてはくれなかった。男二人が力の限り引いているのに、この腕はまるでいてくれないのだ。

なぜ。どうして。何が起こっているの。

言うことを聞いてくれない自分の両手に愕然とし、絶を覚えた。二人が引く力に痛みはじるのに、手先の覚だけが何もない。自分の溫をじることすらなかった。

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九條さんが聲を荒げて言う。

「なぜ! 影山さんの存在はもういなくなったはず!」

しているようにんだ後、すぐにハッとした顔になる。そして小さく首を振り、を震わせた。

「まさか…………」

そう呟いたときだった。

九條さんの背後、事務所の隅の方に影が見えた。それはゆらゆら揺れる炎のように蠢いている。こちらの様子を伺うように、離れた場所にいる。

はっとしてその一點を凝視する。耳に音など何もってこなかった。世界で自分と、その影二人きりになった覚に陥る。

影は徐々に姿を変えた。ただの塊だったそれが、人形になる。隨分背が高い人間だ。まず見えたのは素足だった。汚らしい、痩せほそった足だった。

白い服が見える。全的に痩だが、お腹だけし膨らんでいた。肩には長めの髪がかかっている。髪は痛み、ボサボサだった。

顔がわになった時、全てを理解した。こちらをニヤニヤして見る白い。頬は痩け、そこには適當に剃られた不揃いの無髭。窪んだ目元、くすんだ顔。不健康そうなそれは、ニュースでみた顔とはまるで変わり果てた男。でも顔の造りに、昔の面影をじる。

日比谷だ。

『その後、聲が聞こえました。『なりたいものになれ、お前ならできる』と何度も私に囁いた』

先ほど影山さんが言っていた言葉。奧さんと日比谷を同時期に亡くし、弱っているときにそんな聲を聞いたのだという。

その話を聞いた時は、てっきり幻聴なのかと思っていた。そしてその聲の言うように、黒い自分が実化してしまった。

……まさか、

その聲は日比谷本人? 自分を崇拝し憧れている人間をそそのかし、かした。そして當の本人は、もしかして離れたところからずっと楽しんで見ていたのだろうか。

自分が手を下すことはなく、ただ面白がって……

「く、九條さんあれ」

そう聲を出したとき、突然私の手のひらは力がって首を締め付けた。空気の通り道が塞がれ、一気に苦しさが襲ってくる。

伊藤さんは私の手にしがみつき力を込めるが、やはりびくともしない。九條さんは私が言いかけた言葉に釣られるように振り返り、日比谷の姿を見つけた。

「やはり……! 影山さんに隠れていたのか!

を離せ!」

九條さんの切羽詰まる聲にも、日比谷は何も答えずただ笑っていた。薄汚い歯だった。やつが纏う嫌な気は、言葉には言い表せられないほど不快なものだ。

苦しさに立っていられずその場に崩れ落ちる。伊藤さんは必死に手を引っ張り続けているが、苦しさは何一つ変わらなかった。

「日比谷! お願いだから去れ、彼を連れていくな! 私が代わる!」

必死に懇願する聲が遠くに聞こえる。苦痛から涙が自然と溢れ、目の前が霞んだ。

ああ、こんな終わりだなんて。

絶対だめ、これじゃあきっと九條さんは一生自分を責め続けてしまうだろう。彼は何も悪くないのに。ないヒントでここまで辿り著いてくれたのに、自分のせいで私が死んだと思ってしまうだろう。伊藤さんだって、さっき私の手の布を取ってしまったことを責めるかもしれない。

死にたくない。自分のためにも、周りの人のためにも。

けれどこの狀況を打開する方法など、何一つ思い浮かばなかった。それこそ、私の腕を切り落とすぐらいしかないのかもしれない。それでもいい、どうにかして命だけ助かりたい。

そう強く願っていると、ふと圧迫が軽減した。その隙を狙って酸素を一気に取り込む。未だ腕は解放されないが、なぜか絞める力が弱まったのだ。

あれっ、と思う間も無く、再び力が込められ苦しくなる。しかししして、また突然弱まる。苦しみと解放互に味わう。

遊ばれている? 苦しんでる姿を見るのが楽しいのだろうか。

一瞬視線を上げて日比谷の方をみた。もしかして私の様子を面白がって観察しているのかと思っていたが、それは違った。彼はさっきとは違い、苛立ったように眉を顰めてこちらをみていたのだ。

その顔を見た後また苦しさに襲われる。容赦ない強さだった。の中の酸素はまるで足りておらず、意識がぼんやりとし出す。目の前の景もよく見えず、九條さんがぶ聲すら聞こえなかった。

するとその時、視界に何かがり込んだ。

ふわりと揺れる栗だった。同時に、頬を強く毆られた。容赦ない力で、その衝撃でが吹っ飛んだ。

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