暇なら読んでみて下さい。

( ^-^)_旦~

來客用の宿泊部屋に戻ったオーレンとアニカは、並べられたベッドに向かい合って腰掛けた。

ウォルトの住み家に來た時の２人は、同じ部屋で寢泊まりしている。

先にアニカが口を開いた。

「さっきの魔法、見た…？」

「見た。俺の知ってることと違ったぞ…」

「あれ…簡単にやってたけど、もの凄く高度な技だよ」

さっきウォルトさんが見せた『炎』の魔法は、通常であれば人の顔より大きい程度の炎が出現する。

そこまでは普通だったけど、その炎を簡単に指の先に燈るくらいの大きさまで変化させた。

「魔法は誰が使ってもほとんど同じ効果が発現する。これが常識。當然、炎の大きさもそう。覚えたての頃なら炎が小さいのは當たり前だけど。さっきのウォルトさんみたいに魔法を変化させるには、魔力の作を繊細に行う必要があるんだよ」

「俺もそれは知ってる」

昔、魔法の師匠である村の魔法使い、ホーマおじさんが教えてくれた。

魔法を使うだけなら才能があれば可能だけど、魔法を変化させるのは難しい。魔力の調節や作はそう簡単に修得できるものじゃないと。

実際、それができれば私の『火炎』も魔力量を制できるかもしれない。でも、どうすればいいのかホーマおじさんは見當がつかないと言ってた。

「しかも…詠唱してなかったよね…？」

「あぁ…。いきなり炎が現れたからビビった…」

無詠唱による魔法の発は、途轍もない高等技でほんの一握りの魔導師しかできないはず。これもホーマおじさんが教えてくれた。

「あのじだと、ウォルトさんは自分が普通だと思ってるな…」

「間違いないよ。明日になれば解ることだけど、まさか命の恩人が凄い魔導師だったなんて…」

短い付き合いだけど、ウォルトさんが噓を吐いているとは思えない。絶対にそんな人じゃない。

３０種類の魔法をる魔導師が何人いるだろう？斷言はできないけど、街のギルドで最高と言われている魔導師でもおそらく１０種類程しか使えないと思う。

「とにかく、明日ウォルトさんの魔法をこの目で見せてもらおう！それ次第では…」

「次第では？」

「弟子にしてもらうしかない！」

「それは…ありだな。ウォルトさんは教えるの上手いし、俺達パーティーにとって絶対に良いことだよな」

「うん！全ては明日だ！」

「おう。じゃ、おやすみ」

２人はウォルトの魔法を楽しみにしながら、ゆっくり眠りについた。

★

翌朝、絶品の朝食を食べ終えて後片付けを済ませると、早速魔法を見せてもらいたいとアニカはせがんだ。

ウォルトさんは快く了承してくれて、魔法を見せてくれることになった。場所は家の前のし拓けた更地。そこで実演してくれるみたい。

「じゃあ、今から見せるけど何か使ってしい魔法はある？」

「じゃあ『火炎』はできますか？」

まずは、自分も使える魔法を見てみたい。ワクワクしてきたぁ！

「できるよ。『火炎』」

「ちょっとまっ…！」

まさに一瞬の出來事。

止める間もなく、翳した右手から特大の炎が放たれた。大きさは私の『火炎』の軽く倍以上ある…。し離れた場所にある巖に向かって放たれた炎は、しばらく燃え続けて霧散した。

隣で見ているオーレンは、顎が外れそうなくらい口を開けて驚いてる。そりゃ、そうだよね…。

「これでいいかい？」

「一、どうやって…？それに、はなんともないんですか？」

「ん？今日も調は特に問題ないよ」

「そうじゃなくて…。魔力の殘量的な…」

「？」

私が知る限り、魔法を発するのに必要な條件の１つに手順がある。手の形であったり、呼吸法であったりと様々な手順が存在して、當然『火炎』にもそれはある。

ホーマおじさんから教わったのは、両手の親指と人差し指で菱形の空間を作るというものだ。

でも、たった今『そんなの関係ない』とばかりに片手で放たれた『火炎』。威力も詠唱速度も私の魔法とは比べものにならない。そんな魔法を放ったのに、魔力も全然余裕がありそうだ。

私には何が何だか理解できない。自分が學んだものが間違いのような気さえしてきた。１つだけ確かなのは、とにかく凄いということ。

「他にもある？」

「じゃあ…『氷結(コール)』はできますか？」

氷系の、私は名前しか知らない魔法だ。

「できるよ。『氷結』」

またも右手から放たれた冷気で、巖が凍りついた。何本も突き出た氷柱が、その威力を語っている。

オーレンはいよいよアホ面で放心してる。気持ちは解るよ…。

「次は？」

笑顔で私のリクエストを待っている。

「もう大丈夫です…。ありがとうございます」

「まだ、全部見せてないけど？」

「もう充分です…」

「そう？アニカがいいならそれでいいけど」

ウォルトさんは首を傾げてるけど、そう言うしかなかった。これ以上魔法を見せてもらったら、あまりの衝撃に魔法使いとしての自信を無くしてしまいそう。

しばらく混したけど、恩人がとにかく凄い魔導師であることを目の當たりにして、ずっと気になっていた自分のことについて尋ねてみる。

「ウォルトさん。私も『火炎』が使えるんですけど、何故か１回しか使えなくて…。原因が解らないんです。よかったら診てもらえませんか？」

「１回しか使えない…？『火炎』を見せてもらっていいかい？」

「はい」

詠唱の準備にると、じっと見つめて観察してくれてる。張するけど、魔法に集中しよう。

神集中して詠唱する。

『火炎』

手順を踏んで魔法を放った。その後、いつものごとく力して座り込んでしまう。

「その歳で、これだけの威力の『火炎』を放つなんて…。凄いな」

「ハァ…ハァ…何か　わかりましたか？…ハァハァ」

「うん。発する時の魔力の流れが不自然だね」

「魔力の…流れですか…？」

「簡単に説明すると…」

ウォルトさんの説明によると、には魔法を発するときに魔力が通る『道』のようなものがあるらしい。

通常、使う魔法に応じた適切な道をが無意識に選択して魔力量を調整するらしいけど、私が『火炎』を発するときは何故か無駄に大きな道を通ってしまっているらしい。

それは魔法の威力に関わらず、全ての魔力を強制的に放出してしまうような道で、ウォルトさんの見立てでは、私の魔力量だと今の『火炎』を２回は使えるみたい。

「そんなの…　どうすれば…」

落ち込んでいると、ウォルトさんが微笑む。

「それじゃ、早速矯正してみようか」

「えっ？」

「今から、もう１度使ってみよう」

「でも…魔力が殘ってないです…」

魔力を回復させるには魔力回復薬を飲むか、時間が経って自然にで生されるのを待つしかない。今、魔力はすっからかんだ。

「大丈夫。ちょっと手を貸して」

言われ通りに両手を差し出すと、微笑んでスッと手を重ねた。ウォルトさんの掌はやっぱり溫かくて心地いい。

「何だろう？」としばらく待っていると、掌からに溫かい何かが流れ込んでくる。

『凄く溫かい…。なに…？』

それから黙って１０秒ほど待つ。

「これぐらいでいいかな。魔力はどう？」

魔力は今、空っぽなんです…けど…！？

「回復してます！」

「うん。もう１回使えるはずだよ」

どうゆうこと？？魔力を渡されたってこと…？そんなことができるのも初めて知った。

驚きながらも、ウォルトさんに言われた通り『火炎』を発しようと神集中を始める。するとウォルトさんの手が肩にれた。

「あの…何か？」

「気にせず、このまま詠唱して」

ウォルトさんは目を閉じて何かを探ってるように見えた。言われた通りこのまま詠唱する。

『火炎』

詠唱した瞬間、で何かが変化した。上手く言えないけど歯車が噛み合ったような…の中心に１本芯が通ったような不思議な覚。ウォルトさんが何かしてくれたことだけは解った。

そうして放った魔法は、いつもと変わらぬ威力だったけど…。

「……魔力が殘ってる！」

に魔力が殘ってる覚がある。力と一緒でハッキリ解らないけど、あと１回は詠唱できそうだ。力もない。

ゆっくりウォルトさんに目を向けると、『よかったニャ』とか言いそうに微笑んで説明してくれた。

「アニカが詠唱する瞬間に魔力を作して、流れを整えてみたんだ。ちゃんとる魔法に適した道を通るよう修正できた。今のでが覚えたはずだから、今後は大丈夫だよ」

「ありがとう…ございました」

「気にしなくて良いよ。このくらい魔法を使える人なら誰でもできるからね」

さすがに確信した。いや、確信せざるを得ない。ウォルトさんは…凄い魔導師。それも無自覚の獣人魔導師。

平然と口にしてるけど、ホーマおじさんは『ベテラン魔導師にしか原因は解らない』って言ってた。それをいとも簡単にやってのけた。

私の心は決まった。弟子にしてもらうしかない！

読んで頂きありがとうございます。