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( ^-^)_旦~

連れ立って家の外に出た２人は、互いに目を合わせることもしない。ウォルトが先を歩き、し遅れてマードックが歩く。

マードックが止まっても、ウォルトは振り向かない。１０歩ほど先に進んだところで振り返ると、先に口を開いた。

「闘(や)るからには、本気だな？」

「當たり前だ！大、お前にそんなこと考える余裕があんのか？」

「酔ってたから負けたっていうのは無しだ」

「…言うじゃねぇか！酔ってねぇから心配すんな！ガハハ！」

「解った。…マードック」

「何だよ？」

「ボクは…やっぱり獣人だ」

「？」

「闘いたくないのに…やるからには、絶対負けたくない」

「…おもしれぇ！俺も同意見だ！行くぞ、オラァ！」

「シャァァァァ！！」

「ウォォォォン！！」

２人は獣の顔になって雄びを上げると、互いに駆け出して激突する。

ウォルトが先に攻撃を繰り出す。右拳で顔面に毆りかかるが、マードックは軽々と手でけ止めた。

「軽い拳だな。ちゃんと飯食ってんのか、お前？」

片眉を上げて、馬鹿にするような視線を浴びせてくる。

「オーガみたいな奴だな…」

剛力で知られる魔のようにビクともしない。解ってはいたけど、さすがとしか言いようがない。

「失禮なことを………言うんじゃねぇよ！」

マードックは摑んだ拳を離さず、頭突きを繰り出してきた。

間一髪でそれを躱すと、牙を曬して首に噛み付く。そこで、マードックは拳を離して距離をとる。

「へぇ…。ちったぁ鍛えてるみてぇだな」

「これでもボクなりに鍛えてる」

「そうかよ。次は、俺の番だな！」

そう言ってマードックが一瞬で間合いを詰めると、右拳で腹を突き上げてくる。１番躱しにくい狙いだ。

辛うじて橫に躱したものの、逆の手で著てるローブを摑まれた。

「しまっ…！」

「オラァァ！」

そのまま、片手で軽々と持ち上げて地面に叩きつけられた。けもとれず、まともに衝撃を食らう。

「ガハッ！…カハッ！」

「ガハハハ！獣人のくせに、そんな服著てるからだ！」

跳び上がるように起き上がって、すかさず距離をとる。ローブをいでモノクルを外した。

「おぅおぅ。相変わらず貧相なだな」

白い皮を纏うウォルトのは、普通の獣人に比べてかなり痩せているものの、引き締まって彫刻のように腹筋も割れている。

俊敏そうなつきだが、獣人にとって重要じゃない。太く大きな筋こそ獣人のステータス。

『貧相か…』

何百、何千回と言われてきた言葉。

きっと、マードックには一生解らないだろう。鍛えても鍛えても強くならないで生きることの辛さは。

だけど…このだったからこそ手にれたモノがある。このに…自分自に絶して、死にたいと森に來てから手にれたモノ。

「お前には解らないだろうけど、獣人は貧相だと苦労するんだ」

「だからなんだ？知らねぇよ」

「でもな…」

「？」

「このだったからこそ…手にれたモノがある！」

ウォルトのが淡くると、マードックに向かって駆け出す。さっきより數段早い。

「『強化(ドープ)』か！やっと魔法使いやがったな！」

『強化』はその名の通り能力を上昇させる魔法。大幅に上昇させることもできるが、その場合はに大きな負擔がかかる諸刃の剣。當然、自分の元來の能力に応じて上昇値に限界はある。

一気に間合いを詰めてくるウォルトを待ち構えて、マードックはニヤリと嗤う。

『こっからが本番だな』

コイツと闘うのは初めてだ…。魔法を使えるのは知ってっけど、どんな魔法を使うのかは知らねぇ。それでも俺は冒険者だ。魔法への対処には自信がある。

「ウラァ！」

ウォルトは跳躍して回し蹴りを繰り出してきた。踏ん張って両手でガードする。

「クッ！」

け止めた腕が痺れる。まともに食らえば、かなりダメージをけるな…。正直、驚いたぜ。

「ウラァァァァ！」

「チッ！」

著地して休みなく魔法で強化した打撃を浴びせてきやがる。素早いから連打の回転がはえぇ。

反撃の隙など與えないとばかりに、上下に打撃を散らして急所を的確に打ってきやがる。とにかく、今は頭を重點的にガードだ。

どうせ全部はけきれねぇし、耐えられねぇことはねぇ。コイツは無駄に賢い…。隙を見て何か狙ってるかもしれねぇからな。

「くっ！がっ！」

予想以上の連打にを打たれながらも、マードックは筋を大させてガードに徹していた。

何分、続いたろうか。

ウォルトは絶え間なく無呼吸で打撃を打ち込んでいたが、呼吸するために一瞬だけきを止めた。

『やっとか…。待ってたぜ、この野郎！』

「オラァァァァ！」

「グゥッ！」

マードックは、その瞬間を見逃さず握り固めた特大の拳を繰り出す。ウォルトは腕を差してガードしたものの、後ろに吹き飛ばされた。ミシッと嫌な音が響く。

「ペッ！好き放題やってくれたな！結構、痛かったぜ！」

の混じったツバを吐きながら嗤う。いいのを幾つかもらっちまった…。貧弱のくせにやりやがる。

「化けだな…。頑丈すぎる」

褒めてるつもりだろうが、失禮な奴だ。人を化け扱いしやがって。いっちょ俺も褒めてやるか。

「正直、虛弱質の獣人がＡランクパーティーの戦士相手に、ここまでやるとは思わなかったぜ！褒めてやるよ！」

「…お前が戦士だから、パーティーもＡランク止まりなのかもな」

「なんだとっ！？…テメェ！！」

褒めてやったのに嫌味で返しやがった。もう許さねぇ！ぶっ倒してやる！

マードックは目にも留まらぬ速さで間合いを詰めると、徹底的に毆って今度は防戦一方に追い込む。

「ガハッ！グゥッ…！ガッ！」

『強化』の効果か…ガードがなかなか固てぇ。それでも手応えはある。まぁ、時間の問題だな。

ウォルトの口からはが飛んで、中痣だらけになっていく。

「ガハハッ！楽しいぜ！こんなに毆り合える奴は、魔にもそういねぇぞ！オラオラオラァ！」

「グウゥゥゥッ！」

マードックは嗤いながら、更に攻撃の速度を上げて重い打撃の雨霰を浴びせる。凄まじい連打に、亀のようにを丸めて頭と急所を守るのが一杯のウォルト。

しかし、さすがのマードックも無呼吸が限界に近づく。

ちっ！思ったよりしぶてぇな…。もう息が続かねぇ。一気に仕留める気だったけどしゃあねぇか。仕切り直しだ。

ウォルトの二の舞にならぬよう後方へ跳んで距離をとった瞬間だった。蟲の息で攻撃に耐えていたウォルトが顔を上げて鋭い視線を向ける。

『なんだ？！』

ゾクリ…と背筋が凍る。

ウォルトは即座に右手を翳し詠唱した。

『火炎』

一瞬で放たれた炎が迫る。

「なんだと！クソッ！」

炎と獣人の相は最悪。皮に火が著けば、消えるまで地獄の苦しみを味わう。

勢なんか気にしている余裕はねぇ。辛うじて橫に跳んで炎を躱す。距離をとってたおかげで躱せた。警戒を解かずウォルトに目を向けると、肩で息をしてやがる。

『あぶねぇ…。熱くなって完全に魔法のこと忘れてたぜ。コイツ…詠唱がとんでもなく速ぇ。手を翳しただけだったぞ…』

魔法を詠唱するには、魔力作のために神集中が必要。そして、神集中は戦闘に於いて魔導師の最大の弱點でもある。

威力が低い魔法ほど詠唱は短くて済むが、練の魔導師でも數秒は必要。如何に高威力の魔法をる魔導師であっても、集中している間は無防備になる。

故に、詠唱速度で魔導師の力量は呈する。優れた魔導師ほど詠唱時間が短く、威力が高い魔法を放つ。

そんな常識を覆すかのように、集中などしていたのかも怪しい速さで放たれた魔法。その威力にマードックの背筋は凍った。

「これも躱すなんて…さすがだな…」

ハァ、ハァと息を荒げるウォルト。

「ちっとだけ…たまげたぜ」

もしかすると、コイツの魔法は俺の想像以上かもしれねぇ。油斷できねぇ…。

「まだだ…」

「なに？」

ウォルトは、再度掌を向けてくる。

『火炎』

「なんだとっ！」

まだ撃てんのか！しかも、今度はさっきの『火炎』よりデケぇ。警戒していた分だけ、余裕を持って躱せたが…。

『火炎』

「マジかよ！？」

きを予測していたのか、躱した先にも連発で魔法を放ってきやがった。しかも、炎が更にデカくなってやがる。非常識すぎんだろ！

このままじゃ直撃は避けられねぇ。勢を気にしてる暇はねぇ！

「クソッタレが！」

回避するため懸命にジャンプして、危機を回避した、と思った次の瞬間…。

跳躍して腳をしならせているウォルトの姿が目に映る。…これも予測してやがったのか。

『魔法は囮か…。やられた…』

「ウラァァァ！」

ウォルトが渾の力を振り絞って放った回し蹴りを躱すことができず、頭部にけて意識を失った。

目を覚ましたマードックは、ベッドで橫になっていた。の傷は綺麗に無くなっている。痛みもない。

『負けた…のか…』

目を閉じて溜息をつく。

決してウォルトを甘く見たりしてねぇ。魔法を使えるのは知ってた。

能力が劣っても、魔法との連攜でカバーできる。戦闘魔法の威力はすげぇからな。

ただ、魔導師相手の戦闘なら集中してる間に決著をつける自信がある。奴らはヒョロヒョロのくせに數秒は無防備になっから、その間にぶん毆れば終わり。まず負けねえ。

だが、アイツが放った魔法は…威力も詠唱の速さも段違いだった。あんな威力の魔法を、神集中無しで詠唱してくるとは想像できなかった。

それでも、生意気に弾戦主で挑んできた。『強化』を使っても力は俺の方が上だったのに…だ。

アイツが最初から戦闘魔法を使えば、短期決著も充分あり得たはず。追い込まれるまで戦闘魔法を使わなかったのは、獣人としてのプライドか…。

俺の本気の猛攻も耐えやがった。力が及ばねぇ獣人に弾戦を挑まれて、毆り合いで倒せなかった時點で負けだ。

魔法云々ではなく…俺の獣人としてのプライド。

『ふぅ…』

アイツを、サマラに會わせてやりたかった。會って話せば気が済むかもしれねぇ。余計なお世話だろうが知ったことじゃねぇ。俺はやりてぇようにやるだけだ。

負けたら會いに行けと言ったはいいが、コッチが負けちまった。大、闘いだしたらそんなことも忘れてた。ただアイツに勝つことしか頭になかった。

「目が覚めたか？」

いつの間にか部屋にってきたウォルトが、ベッドの橫に置かれた椅子にフワリと腰掛ける。

「けっ！『治癒』なんか使っても、金払わねぇぞ！」

コイツが『治癒』で治療したに決まってる。信じられない奴だ…と驚いてっけど絶対口には出さねぇ！

「いきなりなんだ？金なんかいらないぞ。バカだな」

ウォルトは呆れたように笑う。

「お前の魔法は…。いや…何でもねぇ…」

つい「凄かった」と口に出そうになったが、悔しいから黙っとく。絶対言わねぇ！

「水、置いておくから飲んでくれ」

ベッドの橫に置かれた小さなテーブルにコップが置かれる。

「ところで、サマラの件だけど」

「解ってるよ！」

負けるとは微塵も思ってなかった。けど、事実負けた。不貞腐れたように吐き捨てる。

「ボクが逢いに行く」

ガバッ！と起き上がってウォルトを見る。

「いいのか…？」

ウォルトはゆっくり頷いた。

「今日の勝負で…『強化』以外使うつもりはなかった。それで勝つつもりだった。まだまだ修練が足りない。今日は良くて引き分けだ。それに…」

「……？」

一呼吸置いて、ウォルトが告げる。

「ボクが…サマラに逢いたくなったんだ…」

ウォルトに背を向けるように寢転がって、気持ちを悟られないよう大きな聲を上げる。

「し休んだら、直ぐ行くぞ！それでいいか？！」

「もちろんだ」

マードックはしばらく黙ったまま、小刻みに肩を震わせていた。

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