《モフモフの魔導師》23 兄妹喧嘩

暇なら読んでみて下さい。

( ^-^)_旦~

マードック兄妹の家で1泊したウォルトは、次の日の朝に、森の住み家に帰ることを伝える。

「もうしゆっくりしていけばいいのに…」

サマラはしょぼんと肩を落としている。

「そうしたいけど、今回はいろいろ準備ができてないんだ。でも、次に會う時はできる限り長くいるよ」

「うん。獨りで寂しくても泣いちゃダメだよ!」

「ありがとう。仕事、頑張って」

「私も今度、森に泊まりに行く」

「うん。いつでも待ってる」

笑顔で見つめあっていると、黙って見ていたマードックが苦い顔をして口を開く。

「さっさと帰れ!お前らを見てると、焼けしてくるぜ!」

悪態をつくマードックはいつも通りだ。でも、今回サマラに會えたのは間違いなくマードックのおかげ。

「今回は世話になった。森の住み家で待ってる。味しい酒と肴を準備しておくから」

「安いのじゃなくて、上等なやつにしろよ!」

「わかった。バッハさんによろしく」

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「てめぇ…!!またやろうってのか?!」

「もう、こりごりだ。じゃあそろそろ行くよ」と微笑みながらドアを開ける。

「ウォルト、またね!」

「うん。また」

玄関を出ても、見えなくなるまで2人は見送ってくれた。

別れるのはやはり寂しくもあるけれど、また會えると思えば、再會を楽しみにして前向きな気持ちになる。

昨日までは、フクーベに2度と來ることはないと思ってたけど、そんな気持ちも無くなっていることに気付く。

後ろ髪を引かれながらも、振り返ることなく帰路についた。

ウォルトを見送って、家の中にった兄妹。

さっきの會話で、何やらサマラは気になったことがあるようで…。

「ちょっと、マードック…」

「何だよ?」

「さっきウォルトに『また』やんのかって言ったよね?」

「言ったけど、何だ?」

「まさか…ここに連れてくるために、ウォルトを毆ったの?」

「おう!思いっきりな!お前は知らねぇと思うけど…」

話している途中で、不穏な気配に気付く。

「毆ったんだ…。あんなに優しいウォルトを…」

サマラのビロードのような皮がフワリと逆立つ。普段はらしい瞳も狼の眼に変化していた。

『ちっ!ヤベぇ!』

次の瞬間、サマラは一瞬で間合いを詰めて無表で右拳を叩きつけてきた。

「つぅ!」

間一髪ガードしたが、壁まで吹き飛ばされる。壁にぶつかった衝撃で家がギシギシ揺れた。

「最後まで話を聞けよ」

「うるさい!!昔、あれだけ嫌な思いをしたウォルトを毆るなんて!信じられない!」

サマラは激怒している。

『コイツは、相変わらずお転婆だぜ』

誰もが認めるしさを持つサマラだが、暴な男が多い獣人に襲われたりすることはない。その理由は、マードックの妹であることもそうだが、サマラが単純に強いから。

ウォルトは気付いていないが、サマラのスピードとパワーはマードックに引けをとらない。そこら辺の獣人の男では瞬殺されるレベル。

口には出さないが、戦闘の技を學べば冒険者として上のランクにいける逸材だとマードックは思っている。

ただ、サマラの夢はウォルトの番になることなので、冒険者などに全く興味は無く、その力を知っているのは、よくケンカするマードックと過去に返り討ちに遭った獣人だけ。

ティーガ達は、過去サマラに手を出そうとして、立ち直れないほどボロボロにされた経験がある。

「話を聞けっつうんだよ。アイツは毆られた割にキレイな顔してたろ?」

「腹を毆ったんでしょ!やり口が汚い!」

「違うわ!」

間髪れずにサマラは跳び蹴りを仕掛けてきた。屈んで躱したが、すかさず浴びせ蹴りに変化して頭部を狙ってくる。

辛うじてガードしたものの、ズシン!と衝撃が骨に屆く。

『コイツ、素人のくせにこの強さだからな…まぁ、気持ちは分からなくもねぇが。…くそっ!言いたくねぇな』

け止めた腳を押し離すと、距離をとってサマラに教えてやることにした。

「お前、アイツに嫌われたくないからその力、隠してんだろ?」

「はぁ?何言ってんの?」

「お前は、自分がウォルトより強ぇと思ってる。だから、バレたらアイツを傷付けるってな」

「……」

反論はしねぇか。図星だな。なら、言いたくねぇけど言ってやるよ。

「もう隠さねぇでいいぞ」

「…どういう意味よ?」

「心配すんな。アイツはお前より強ぇ」

「何を言ってるの?」

「俺は、お前と會わせるためにアイツと毆り合った。俺が勝ったらお前に會う、って約束させてな。それで……負けたんだよ」

「噓でしょ!?」

ただでさえ大きな目を見開いて驚いてやがる。まぁ、俺も思わなかったからな。

「俺が…噓でも誰かに負けたって言うと思うか?」

苦蟲を噛み潰したような表で告げる。本當は、思い出したくもねぇし、口に出したくもねぇ。

サマラは驚きを隠せない。

マードックは『力こそ正義』を現する獣人。そのことを嫌というほど知ってる。噓でも「負けた」なんて絶対口にしたくないはず…。

「…本當にウォルトに負けたの?」

「何遍も言わせんな!!」

信じられない…。あの、獣人とは思えないくらい優しいウォルトが、どうやったらこの『とんでもなく暴なゴリラ』みたいな野蠻な男と闘って勝てるの…?

それが本當だとしたら、一どれ程の努力をすれば……。

「お前…今、なんか失禮なこと考えたろ…?」

マードックの言葉は完全に無視して落ち著きを取り戻すと、しばらく思案する。

「ウォルトは…勝ったのに私に會いに來てくれたの…?」

「あぁ」

「なんで?」

「お前に會いたくなったんだとよ!俺に言わせんな!気持ち悪ぃ!」

「!!」

聲を張り上げた瞬間、視界からサマラが消える。一瞬で目の前に現れて、死角からアッパーを繰り出してきた。

「なっ…!」

「てぇい!」

見事なアッパーを顎にまともに食らって、しだけ宙に浮いて大の字に倒れた。

「やめてよ!照れるじゃない♪」

サマラは赤らんだ頬を両手で包んで、をクネらせながら照れている。顔はこれでもか!ってくらいふやけた笑顔だ。

「ねぇ」

「何だよ…」

朦朧として、床で大の字になったまま聞き返す。

「私は…ウォルトに惚れ直したよ…。そうだ!今度、會うときは可いポニーテールにしてみよう!似合うと思う?」

「知らねぇよ!!馬の獣人に聞け!」

赤く頬を染める妹と、その切り替えの早さとバカみたいな強さに呆れる兄。

やがて、マードックが堪えきれず意識を手放して、兄妹喧嘩は終わった。

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