暇なら読んでみて下さい。

( ^-^)_旦~

三貓(へっぽこ)検事による被告への尋問が始まった。

「ストレイ。さっきの男は誰なの？」

「名前は…　知らない…」

「それはさっきも聞いた！じゃあ、どこの誰なの？」

「知り合いの…　知り合いだ…」

「そんな奴に、何故アンタは毆られたの？」

「むぅ…」

茶貓被告は歯切れの悪い返事をする。その態度で三貓検事はピンときた。

「もしかして…　あの娘と関係あるの？」

「…あぁ」

「そう…。なるほどね」

何が「なるほど」なのか？

とりあえず首を傾げて『わからニャい…』とか言いそうな顔をしてみる。

「あの娘の人かしらね？」

「む…」

「アンタに文句を言いに來たの？」

「……」

「解った。それなら納得。話は終わりね」

全然、解らない…。何だ、この會話…？とさっきと反対方向に首を傾げた。

「裁判長(ウォルト)……被告は自白しました。検察側は…人妻ミーナとの離縁を要求します！」

「卻下だよ」

即答した。

人妻は余計だし、裁判長を無視しないでしい。

「なんでよ！もう、有罪確定で間違いないじゃない！」

「母さん…。たぶん母さんぐらいだよ。今のが自白だって言える獣人…」

「ストレイの言いたいことなんて、目を見ればわかるもの！」

「それが間違ってるかもしれないだろ？」

貓なのにブーブー文句を言う母さんを無視して、父さんに聞いてみる。

「あの娘って誰だい？母さんの家出と関係あるんだろう？」

「む…　同じ職場の…　若い娘さんだ」

父さんは、獣人には珍しく庭師をしている。手れを頼むと、らかい雰囲気の庭になると評判らしい。

「その娘と、母さんの家出がどう関係あるんだ？」

「浮気よ！浮気！間違いないわ！」

野次馬のように騒ぐに三貓検事に手を翳す。

『沈黙(スティーレ)』

「母さん、靜かにしてくれ。話が進まない」

『沈黙』は、聲や音を消すことができる魔法。正確には、音を消すというより対象を魔力で包み込んでれないよう音を閉じ込める。

『沈黙』をかけられた母さんの聲は聞こえないけど、ジェスチャーで不満を表している。いい歳なのにコミカルにき回って、見ているだけでうるさい。

「母さんは浮気って言ってるけど、ホントは違うんだろう？」

「あぁ…」

父さんはコクリと頷く。

ボクは、そんなことをする男ではないと知ってる。

獣人が番になったあと、縁を切らずに５年間一緒にいる確率は３割ないと云われてる。

元々獣人は、人間と比べてに奔放で、相手を変えることに抵抗がない。子供が複數いる家庭では、父親が全員違うことも當たり前。

獣人の男の大半が暴で怠け者、すぐ暴力を振るったり、さらには飽きであることが主な原因なんだけど、は働き者で割り切るのが早い者が多いため、お互い後腐れなく次のを楽しむ風がある。

そんな獣人社會で、両親のように長く連れ添っている獣人は珍しい。それには父さんの格が一役かっていると思ってる。

父さんは、口數はないけどボクが生まれてから、緒不安定になることが多かった母さんをで支えた。

ストレスで自暴自棄ぎみに癇癪を起こしても、己はびくともせず全ての攻撃、口撃をけ止めた。

ボクがを鍛えれば、自分も隣で無言で鍛え、勉強すれば頭を捻りながら傍で一緒に考えてくれた。周囲になんと言われてもボクの可能を信じてから支えてくれた。

父さんのように大きくて優しい男になりたい、と小さな頃から尊敬してやまない。

そんな男が…ボクと母さんを文字通り黙ってしてくれる男が、浮気をするとは到底思えなかった。

「多分、母さんは何処かでその娘と會ってた父さんを見つけたんだね？」

「あぁ…」

母さんはブンブン！と首を縦に振る。とりあえず無視する。

「そして、ろくに話も聞かずに勝手に浮気だと勘違いして家出した」

「あぁ…」

「何でその娘さんに會ってたんだい？」

「それは…」

母さんをチラリと見た。

『なによ！アタシに何か文句あるの！』とばかりにジト目で父さんを見ている。

「ミーナの…　誕生日に…　あげたくてな」

「…そういうことか」

母さんは『どういうこと？』と言わんばかりに首を傾げてる。ホントに鈍いなぁ。

「母さんの誕生日に、何か贈りたくて若いの好みを聞いてたんだね？」

父さんは頷いて、母さんは『ガーン！』と音が聞こえそうなくらい驚いてる。無駄に若作りしてるから、父さんは若い人の流行を知りたかったのか。

「それならそうと伝えればよかったのに」

「ミーナが…　聞いてくれなくてな…　言う前に…　飛び出して行った…」

「目に浮かぶよ。…ということは、さっきの男は母さんと逆ってことだね？」

「あぁ…　その娘さんの人だ…。　勘違いさせてしまってな」

父さんは話すのが遅いから、あの男も待ちきれずキレてしまったのか…。どっかの誰かさんみたいに…。

チラッと母さんに視線を向けると、バツが悪そうな表をしている。溜息をついて『沈黙』を解除した。

「だから言ったろう？母さんが間違ってるかもしれないって」

「ウォルト…　いいんだ…」

ボクを優しく制してゆっくり立ち上がると、母さんを見ることもなく、橫を素通りして去って行く。

母さんは、部屋の中にって見えなくなるまで父さんの背中を見つめてた。

「アタシは馬鹿だね…」

「言いたくないけど、そうだね」

「アタシがちゃんと話を聞いていれば…あの時、ここに殘っていれば、ストレイが毆られるのも防げたかもしれない」

「そうかもね」

「どうしよう…」

「反省してる？」

コクリと頷いた。落ち著きがなくて子供みたいだけど、母さんは素直だ。

「わかった。じゃあ、椅子に座ってちょっと待ってて」

「？」

それだけ伝えると、席を外して家の外に出る。

★

ウォルトに言われたとおり、靜かに椅子に座って待っていると、れ替わるようにしてストレイが部屋から出てきた。

その大きな手には、包裝された小さな箱を大事そうに持って。合わせる顔がなくて顔を伏せてしょげていると、私の橫に歩み寄って手を差し出してくれた。

「ミーナ…　誕生日おめでとう…。　これを…　貰ってくれないか？…」

「…いいの？」

ストレイは優しく微笑んで頷いてくれた。

包裝を解いて箱を開けると、そこには幅が広めの銀の指が。手に取ると、側に文字が刻まれているのが見えた。

『ミーナへ』と書かれている。それを見て涙が溢れた。

「ストレイ…　ごめんなさい…」

「ん…　」

「勝手に変な勘違いして…　やっぱり若い娘がいいのかって…」

「気にするな…」

「でも、ストレイ？」

「ん…？」

「どうせなら『してる』とか『ずっと一緒にいよう』って書くもんじゃないの？」

「む…」

『參ったニャ』と困ったような顔をしたストレイに涙目で抱き著く。

久しぶりのモフモフだ。いつも、大きなで優しく包み込んでくれる。ストレイも優しく抱きしめ返してくれて、大きな手で頭を優しくでてくれた。

「ミーナ…」

「何？」

「俺達は…　いい息子をもった…」

「そうね…。最後こうなるのも、あの子にはお見通しだったみたい…。ちょっと腹が立つ！」

私達は顔を見合わせて笑った。

ボクは父さんが手れしている庭でのを浴びながら花の香りを嗅いでいた。２人は今頃上手くいってるだろうと思いながら。

両親のことは好きだし尊敬してるけど、あまり目の前で惚気られると流石にキツい。昔から仲が良くて嬉しいけど、子供の頃みたいに「仲良くていいね！」とは言えない。

そんなことを考えていると、家から出てきた母さんが聲を掛けてくる。

「裁判長(ウォルト)～。こちらは金品により示談が立したよ。判決は～？」

「當然、無罪だよ」

笑って、２人の待つ家の中に戻った。

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