《モフモフの魔導師》27 恐怖の食卓

暇なら読んでみて下さい。

( ^-^)_旦~

ミーナの勘違いによる浮気騒も一段落して、実家でのんびりお茶を飲んでいたウォルトは、あることに気付く。

「父さん。母さんがいないけど、どっか行った?」

「む…。 夕食の材料… 買い出しに…」

「噓だろう!?」

盛大に狼狽える。そんなことがあり得るのか?

「まさか…!」

「どうしても… お前に手料理を食べさせたいらしい… 止めたんだが…」

「ボクが今から帰れば…?」

父さんはゆっくり首を橫に振る。

「お前を追って… 家に行くだろう…。諦めそうになかった… 今回のミーナは… 本気だ…」

「こんなことになるなら、大量に回復薬を持ってくるべきだった…。書き置きと、もっと住み家も綺麗にしておきたかったのに…」

父さんが言うには、今回の仲直りに一役買ったボクを労ってやりたい!と息巻いていたらしい。

気持ちは嬉しいけど…ボクらは知っている。

母さんが、壊滅的にして破滅的にして殺人的な料理の作り手であることを…。

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この家では、昔から食事はボクか父さんが作ってる。何故なら…2人が生きていく上で必要だったからだ。

初めて聞いたのは4歳か5歳だったと思う。父さんに教えてもらったときから、忘れられない話。

事件が起きたのは、まだ両親が番になる前、人同士だった頃のこと。若かりし日の父さんは、初めて母さんの手料理を食べた直後に泡を吹いて倒れたらしい。

母さん曰く「1時間ほどニャーニャー唸っていた」らしいが、父さんは記憶に無いと言ってた。

治療師の盡力でなんとか命は取り留めたものの、それからしばらく記憶が曖昧だったと聞いた。

記憶は曖昧でも、その時の料理の味だけは鮮明に覚えていて『深海に潛む見たことがない魔を、1年ほど腐らせて溶けるまで煮込んだ』ような味だったという…。

番になるときに「食事はストレイが作る」ことでお互い合意し、ボクが料理できるようになるまではずっと父さんが作っていた。

なので、実は母さんの手料理を食べた経験はない。…が、その話になると、普段何事にもじない父さんが、ガタガタ震え出す。

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それだけで、脅威が如何程のものかよく理解できた。

い頃、初めてこの話を聞いた日の夜、ボクはとにかく怖くて一睡もできなかった。そして『早く料理を作れるようになって、父さんを助けたい』と思ったことを覚えてる。

「久しぶりに… 帰ってきて… こんなことになってすまない…」

「父さんが謝る必要ないよ。母さんも悪気はないんだし」

「悪気はなくても… 獣人は死ぬ…」

そう言われたらそうだけど…。

「まだ決まったわけじゃないだろう?」

「9割だ… これは譲れん…」

「そんなに…」

とんでもない致死率だ。どんな病より危ない。

「俺が… 今ここにいるのは… 運が良かっただけだ…」

「父さん…」

神妙な面持ちで會話していると、勢いよく玄関のドアが開いて母さんが顔を出す。

「ただいま~!お腹すいたでしょ?すぐ夕食の支度するからね☆」

とびきりご機嫌な様子。

買い袋の中には、ボコボコと蠢く何かが見える。匂いからは何なのか解らない。嗅いだことのない匂いだ。ボクは、あえて気付かないふりをした。

こんなホンワカした雰囲気を醸し出す三貓が、今から機もない殺人を犯すと誰が想像できるだろうか…。

母さんが臺所で調理を始めた。

ダンッ!ダンッ!と包丁を叩きつける音とともに、とてつもない生臭さに加えて「シギャァァァ!」「ピギャァオ!」「クブププ…」と、耳を塞ぎたくなるような謎のび聲が聞こえる。

「一、何が起きてるんだ…?」

「ミーナの… 凄いところだ… 何処から調達してくるのか… 見たことない生を買ってくる…」

「未知との遭遇…ってやつだね…」

恐怖はまだ続く…。

「*!@っ#~&@#!!!」

「暴れちゃ駄目だよ☆ウォルトに食べて貰うんだからっ。味しくな~れっ♪」

斷末魔をあげる『何か』に話し掛けている。実に楽しそうに…。そして、何かを煮込んでいることだけはかろうじて解る。

悪寒が止まらない。

歯がカチカチ音をたてる。母さんに恐怖したのは今日が初めてだ。橫をチラッと見ると、父さんは何かを悟ったようにピクリともかない。

「父さん… ボクが死んだら、森の奧深くに埋めてくれないか…?できれば大木の元とか」

「約束できない… 俺も… 多分…」

「そう…だね…。ボクは…まさか今日がこんな日になるとは思ってなかった。けど、死ぬときに母親の手料理で逝けるなんて、幸せかもしれない」

そんな訳ないのだが、恐怖で思考回路がおかしくなっている。

「どうせ死ぬなら… 家族の手で葬ってしい…」

「父さんは付き合わなくていいんだよ?」

「いや… 止められなかった… せめてもの償いだ…」

「昔と違って、料理が上達している可能は?」

「皆無だ… し前に… お茶を淹れてくれた…。次の日… 下痢で痩せた…」

「………詰んだね」

「あぁ…」

そして…。ついにその時が訪れる……。

「さぁ。できたよ~♪食べちゃって~!」

とびっきりの笑顔で皿を運んでくる。運ばれてきた料理を見て驚愕した。

『何だ、これは…?』

食卓の上に置かれた『ソレ』はが何もっていない、一見何の変哲もないスープ。

き通ってうっすら黃金に輝き、全く匂いをじない。まるで水のようだ。

『こんなものを、どうやって作ったんだ?そんなことより、あの生きたちは何処に?何の匂いもしない料理なんて存在するのか?』

脳裏に幾つもの疑問が湧いては消える。

生きの形跡が影も形もない。これは最早、完全犯罪…。

「アタシは『コレ』しか作れないからね。けど、久しぶりに作った割には、上手くできたと思うよ♪」

隣で無表の父さんが、ドドドド!と音がしそうなくらい震えている。

おそらく、昔食べたものと同じなんだ。恐怖を堪えて、歯を食いしばっているように見える。

『処刑臺に上がる囚人って、こんな気持ちなのかな…』

一応、確認してみる。

「母さん…。味見とかした?」

「したわよ?味しかったんだから~♪」

『絶対、噓だ…。目の前に笑顔の暗殺者がいる。母さんは、何で家族にこんなことを…?』

機が思いつかなかった。いや、そもそも愉快犯で機など無いのかもしれない。

「そう…か…」

「頂きます…」

覚悟を決めたのか、それともボクを巻き込んでしまった後悔の念なのか、まず父さんがいた。

『父さん!やめろ!』

心の中でぶ。

震える手でスープを掬うと、ゆっくり口に運んだ。そして、じっくり味わうようにしてゆっくり飲み込む。

いつでも『治癒』をかけられるよう構える。すると、父さんは目をカッ!と見開いてこちらを見つめた。

『もしかして、味しいのか?』

そう思ったのも束の間、幸せそうな笑顔を浮かべて、ゆっくり椅子ごと後ろに倒れた。慌てて駆け寄り『治癒』を詠唱する。

「父さん!父さん!?」

とにかく『治癒』をかける。何重にもかける…が、全く反応がない。泡を吹いて「ニャ~…ニャ~…』と苦しそうに唸り聲をあげている。

何回かけただろう。

やっと苦しそうな表が和らいだように見える。効果があったようでホッと一安心したのも束の間、目の前の悪魔が囁いた。

「ストレイったら、いきなり寢ちゃうほど疲れてたのね!私と離れてる間、寢れなかったのかな♪落ち著いたみたいだから、ゆっくり寢かせてあげて。さぁ…ウォルトも食べて…」

『三貓の皮をかぶった悪魔の囁き…。一どうすれば…』

これはマズい。

父さんは『治癒』があったから一命を取り留めたけど、ボクが同じ狀態になったらどうしようもない。

とりあえず、悪あがきしてみることにする。

「母さん、実はボクお腹空いてないんだよ」

「そうなの?でも『コレ』は食べられるよね?スープだし!」

「う~ん。今、お腹下してるんだよね」

「じゃあ、お腹が落ち著くまで待つよ。更に煮込んだら…もっと味しくなるからね!」

「…あとで、母さんも一緒に食べようか」

「アタシはいいわ。だって、もうそれだけしかないもん」

「そうなんだ…」

……ダメだ!

絶対逃がさないが凄い…。優しく言ってもだめなら…。

「母さん。ボクは…これを食べれない」

「どうして?」

「父さんは、この料理を食べて倒れたんだ。ボクは…死ぬかもしれない」

正直に告げてみる。

「そんなわけないじゃない!ストレイは疲れが溜まってるのよ!アタシの料理に、そんな効果あるわけない!」

「信じてしい。噓だと思うなら、母さんが一口飲んでみてくれないか?味見したんだろう?」

「したわよ?」

「じゃあ、一口どうぞ」

「解ったわよ」

母さんは父さんが座ってた席に著くと、スープを掬ってコクリと飲み込んだ。そして、目を見開く。

「やっぱり味しいじゃない!上手くできてる!」

「……」

「ウォルトも食べてみなさいって!味しいから!」

『これは…どういうことだ?間違いなく飲んだ。けど、平然としている。…遅効の毒?いや、父さんは卒倒した。訳がわからない…』

疑問が多すぎて、考えがまとまらない。母さんは変わらず笑顔を向けている。考えても答えが出ないのなら…。

『ええい!ままよ!』

目を瞑って勢いよくスープを口にする。すると…。

「………味しい」

「でしょ~!ほらぁ~!ホント、失禮しちゃうわ!」

ホントに味い。なんというかまろやかで、凄くコクがあってに染み渡る。そして、次をすぐ飲みたくなる。なんだコレ?

「母さん…。このスープって一?」

「ふふ~ん!これはね~、アタシの家に伝わる伝の疲労回復スープなんだ!」

「疲労回復?即効の猛毒じゃなくて?」

「なんでよ!!」

「じゃあ、父さんが昔食べたとき倒れたのも?」

「凄く疲れてる人がこれを飲むと、とんでもなく不味くて、疲労が回復するまで泡吹いてけなくなるのよ。しばらくぼんやりするけど、そこは副作用だからしょうがない!ただ、回復効果は抜群よ♪」

「ボクは味しくて、何もないってことは…」

「適度な疲れってことね。に染みたでしょ?」

「あぁ。そういうこと…」

「今回はお疲れさま。おでストレイとも仲直りできたし、謝してる!」

父さんは、まだ泡を吹きながら白目を剝いている。回復するまでこのままなのは怖い。

父さん、疲れてるんだな…。気持ちは解るよ…。

「うん。いろいろゴメン」

「? よくわからないけど、別にいいよ!」

「ところで、食材はたくさんあったのに、なんでこのスープってが無いの?」

疑問をぶつけると、母さんのきがピタッと止まる。

「ん~?それは緒かな。…一応、全部ってるんだけどね」

「え?ってる?」

母さんは、の無い目でボクを見てくる。

「世の中には不思議なことって…あるよね?」

「……だね」

もう、やめよう。この件はこれで終わり。これ以上は…きっとろくなことにならない。

ウォルトは、我が家に若干の闇を殘しつつ、久しぶりの帰省を終えた。

読んで頂きありがとうございます。

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