なぜ彼がここに！？

結婚式を取りやめると式場を去った彼は我が家の玄関ホールで……どうしてメイドの格好をして執事のアーレンドの後ろで頭を下げているのか……。

長かった髪は短くなり、下ろされた前髪に理知的な額は隠されている。

焦がれて、焦がれた彼が手の屆く距離にいる。

――――――――――三年前、辺境伯であるサルヴィリオ家の長が新しく団長に就任したと聞き、伯爵家の當主に許可をもらい、一兵卒として実戦に參加した。

その際にマジックアイテムを使用した。

ただただ、どこにでもいそうな人間に見える指だ。

シンプルな銀の指は誰の印象にも殘らない。

魔法のかかった魔石は指の裏側に嵌め込んである。

このマジックアイテムを使うと、濃い茶髪に、青い瞳のどこにでもいそうな凡人に見えるものだ。

なので、再びどこかで再會しても全く分からないか、『どこかであったかも？』程度で思い出される事はない。

そういう魔法も重複してかけてある。ただその魔法に関しては、顔を合わすのを三日以上空けなくてはその効力を発揮しない。

――――――「堂々と視察すればいいんじゃないか？」

このマジックアイテムを差し出した副のセルシオに當時、私はそう言った。

「ですが、公爵閣下。視察のお相手は妙齢の令嬢ですから。萬が一他の令嬢のように閣下に熱を上げないとも限りません。」

「あのサルヴィリオ家の娘だぞ？まして王太子の婚約者だ。そんなことがあるとは思わないな。」

「そう思われるなら結構ですが、萬が一、令嬢があなたに迫っても僕は知りませんよ。今現在、あなたに何人ストーカーがいるか思い出されるのがいいかと……。」

そう言われ、黙ってマジックアイテムをけ取った。

――――――魔討伐の最前線。

隣國との境にある魔の森。

この森の向こう側が隣國のリトリアーノだ。

両國の間には魔素を多く含む為魔が多く生息している。

奧深くればるほど上位の魔が増えてくる。

最近リトリアーノが領地拡大の為魔の森の木を伐採し、魔達の棲家がこちらに追いやられているという報告をけ、大々的な討伐が行われるという事だった。

伯爵の手回しで彼の部隊に配屬してもらい、近くで彼を観察することができた。

彼の噂というか話は従兄弟のアントニオ王子がよく口にしていたので、勝手に彼のイメージが出來上がっていた。

『茶の髪に茶の目、らしさのかけらもなく、剣を振るうだけが取り柄の暴者。』

『人でもないし、気も無い。なんであんなと結婚しなければいけないんだ。』

サルヴィリオ＝サリエ伯爵夫人は知っている。

婿養子に來た夫に伯爵の地位を譲り、彼もい頃から國境を守っており、常に最前線で戦っている。

まさに生ける伝説の彼は長も有に１９０センチを超え、ガタイの良い男騎士と並んでも見劣りしない。

その娘もきっと剛腕な騎士なのだろうと思っていた。

ところが、ティツィアーノ＝サルヴィリオは小柄というか、一般と何ら変わらない。

化粧っ気は無く、特別人という訳ではないが、顔立ちは父親に似てバランスの取れた整った顔立ちをしていてる。

ガタイの良い騎士達に囲まれ、頭二つ分は小さい彼は何とも言えない頼りなさをじるが、濃い茶のその瞳にはそんなは不要だと言わんばかりの強さがめられている。

彼は見通しの良いところに立ち、しばらく森を見つめた後、手元の地図に何かを書き込み側近達と話し合っていた。

周りの側近達も新米の団長である彼の指示を心配するでもなく、一心に耳を傾け、指示をけれている。

魔の討伐は厄介だ。

思わぬところから大が出てくる事もあるし、それが必ずといってが大きいとは限らないし、目視出來る距離にいた時には後手に回ると言うことも多い。

その魔討伐を幾度も経験しているであろう鋭達が反論をせず従っている。

――お手並拝見だな。

そう思いながら見ていると、騎士達を集め、彼が話し始めた。

その聲は早朝の澄んだ空気の中、凜とした、よく通る心地の良い聲だった。

「騎士団の諸君。今回の討伐はあくまで村近辺の魔の討伐だ。功績を求めて決して深追いをしないこと。単獨行しないこと。無理だと思ったら逃げること。これらを遵守してしい。」

騎士団に逃げろ？サルヴィリオ家は國境を守る任についているに関わらず、そんなことを言うようになったのかと正直落膽した。

「あ、あの！それでは騎士団の面目が立ちません。我々は魔の脅威から民を守るためにいるのではないですか！？そんなことをしたら笑いものにされるだけです。」

一人の新米らしき騎士が彼に向かって言った。

「貴様如きがティツィアーノ様に意見するとは……。」

ティツィアーノ＝サルヴィリオの橫に立っていた副らしき人が怒りもわに言った。

確かあの男は以前から第一騎士団の副を務めていたルキシオン＝バトラーだ。サルヴィリオ＝サリエ伯爵夫人に絶対の忠誠を捧げていたと思ったが、今は娘の副に配屬されたのか。

その副を手で制したティツィアーノ＝サルヴィリオは新米騎士に向かって行った。

「ルキシオン、いいの。……貴方達が逃げ帰っても笑われることはない。笑われるのはその采配ミスをした団長である私だ。誰一人欠けることなく、必ず全員ここに戻ることを約束してほしい。」

そう言った後、彼は力強く笑った。

誰一人欠けることなく？

騎士達にそれを言うのはお門違いだ。

――――――とんだ甘ちゃんだな。

新しい國境警備を擔う団長に落膽をじながらも、森にっていった。