《【書籍化】初の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る〜拗らせ公爵はを乞う〜》疑い

「公爵閣下!彼もグルでは無いですか!?」

背後から部下である公爵家の新米騎士の一人がそうんだ聲に一瞬で怒りが沸點に達す。

の手に紅茶がかかっていないか、カップで手を切っていないか確認し、安堵していた気持ちが、怒りに取って代わる。

「何だと?」

手を取ったままの彼の手が直したのは、グルだと言われたからでは無いだろう。

恐らく私の怒りをじ取ったのだろう。

高尚な彼が毒を飲ませるなど卑怯な事はしないし、まして、リリアンのような子供を狙うような愚劣なことは絶対にしない。

絶対にだ。

睨みつけた騎士がビクリと直させる。

一瞬での気は引き、顔面蒼白とはまさにこの事だ。

「……はっ。その、的確に毒の種類と場所を……言い當てたのは、グルで……自作自演をし、公爵閣下の……信頼を得るためでは無いかと……。」

の能力を知らないならそう思っても仕方が無いかもしれない。

それでも、彼を汚す言葉は許せない。

「私の信頼?なんの為に必要なんだ?」

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「……いえ。その。……それは。調べてみないと……。」

「お前は、サルヴィリオ家に何か思うことでもあるのか?」

「……え?は……。そんな事は……。」

「彼はサルヴィリオ家の正式な紹介狀を持って、花嫁の侍として來たんだ。彼を疑うことはサルヴィリオ家に牙を剝くことだと思え。」

本來はこの家の主人として來るはずだった彼を疑うなどあり得ない。

焦がれた彼を、この家に迎えれたら……誰も彼を傷つけ無いように、誰も彼の誇りを汚す事のないように……そう思っていたのに、まさか知らないとは言え、レグルス家の騎士がそんな事を言うとは思わなかった。

新米騎士は「出過ぎた真似をして申し訳ありません。アンノ殿も、大変失禮をいたしました。」と頭を下げた。

すると、彼は、

「騎士様。貴方のおっしゃることは尤もだと思います。謝っていただく事はありません。この家の為に思ってされた事でしょう?」

そう言ってらかく微笑んだ。

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

「見たか?あの見事な取り押さえる姿を。」

執務室で副のセルシオと、執事のアーレンドにそう同意を求めると、誰からも返事が無かった。

「聞いているのか?」

そう言って彼らを見ると、生暖かい目でこちらを見ているのに気が付いた。

「閣下、確かに取り押さえるのは見事な反応でしたが、それよりも彼の嗅覚の方が信じられません。……あの新米騎士が疑うのも分かります。」

セルシオの『疑う』発言に、またしても怒りに再燃しそうだが、睨むだけに止める。

「……彼がそんな事をして何の得になると言うんだ。サルヴィリオ家とレグルス家は國防を擔う二本柱だ。どちらかが転けても國の國防にダメージは大きい。サルヴィリオ家に國家転覆の意志があるとも思わない。…………ところで、その後のティツィアーノの両親のきはどうだ?」

あの結婚式が執り行えなくなった時、當然の事ながら、彼の家族も式場にいた。

ティツィアーノが去った時の話の経緯を聞くと、父親と彼の弟は顔面蒼白、母親は顔を真っ赤にして怒髪天と言った狀況だった。

『必ず責任を持って彼を見つける。』そう約束するも、サルヴィリオ家も騎士を総員して彼を探している。

「まだ、ティツィアーノ様がこちらにいらっしゃることは摑めていないようです。サルヴィリオ家ももちろん彼を見つけたいという意思は強いようですが、騎士達の必死さが尋常ではないと偵から報告をけています。」

「尋常じゃない?」

「はい、蟻の子一匹逃さない様子で、騎士達はもちろん、その家族、親戚に至るまでが捜索に加わっているそうです。それから式場にいた兵士から『公爵には他に思い人がいる』との話が全に伝わったようで、騎士達個人がレグルス家に苦の手紙を出そうとするのを、お父上と弟君が全力で阻止しているそうです。」

「……それはまた……。」

言葉が継げずにいると、

「騎士達や領民にされた令嬢なんですね。」

たかが、貴族の令嬢ではない。

命をかけて領地を、領民を、彼らの生活を守ろうとする姿は騎士達の心に響かないはずがない。

一兵士と扱う事はなく、駒でもなく、一人の人間として向き合う事は中々出來ることではない。

貴族に産まれただけで驕り高ぶる人間をどれだけ見てきたか。

だからこそ彼に惹かれた。

あの、真っ直ぐな瞳に。

その中にある意思の強いに。

それを思うたびに自分も強くあろうと思える。

いつか彼が王太子妃として、そして王妃として立った時。

何者も彼を傷つけることのないよう、彼の矜持を守れる人間になりたかった。

「……それで、彼の目的は何なのか摑めそうか?」

すると、アーノルドは首を振った。

「メイドや使用人達からそれとなく聞いていますが、これと言って何も摑めていません。ただ、騎士団の練習場を時々見ているという話はありますが、何か探っているという様子では無いようです。……というか、リリアン様と閣下といる方が長いので……。」

――――調べようがない。そうジト目で言われ、「それはしょうがない。」と後半の苦を切り捨てた。

「それから、彼をレディ扱いするのは程々にしたほうがよろしいかと思いますよ。お気持ちは分かりますが、あからさまにそういう態度を出すと正を知られていると気づき、逃げられる可能もありますからね。」

そうセルシオに言われ、思わず睨みつける。

「……我慢してる方だが……?」

「してません。ダダっれです。あんなにとろけたような目で普段を見ない貴方が、彼に向ける視線を見れば誰でも分かります。分かっていないのは屋敷に來て間もないティツィアーノ様と侍のリタぐらいですよ。」

「…………仕方無いだろう?」

手をばせば抱きしめられる距離にいるのに、それが出來ない。

本來ならずっと腕の中に閉じ込めておきたいのに。そうする権利があったはずなのに。

「逃げられてもいいなら結構ですよ。」

さらっと涼しい顔でそう言われると、反論出來ない。

こうなるとさっさと彼の目的を見つけて対策を練るしかない。

屋敷にこれと言って目的が無いのなら……。

「領地に……街に降りてみるか……。」

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