《【書籍化】初の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る〜拗らせ公爵はを乞う〜》あの日の忠誠

「……先程一緒にいた男は誰ですか……?」

彼の視線で固まっていた私は一瞬誰のことか分からなかった。

「男……?」

ハッとして、疑われているのだと気づく。

それもそうだ。魔騒ぎが起きてすぐその場を離れたのだから、疑われてもしようがない。

「彼はサルヴィリオ伯爵家の騎士団員で一緒にティツィアーノ様に仕えていたものです。お嬢様を探しにレグルス公爵領まで探しに來たそうで、私を見つけて聲を掛けられたんです。」

私をじっと見つめる瞳は本當かどうか考えているようだが、信じきれていないのが分かる。

「……それで、彼はどこに?」

落ち著かない!!

じっと見つめられたその目に、何かがザワザワと心の中をき回っているようで、この覚が何なのか覚えがあるような、無いようなそんなもどかしさがさらにざわつきを強める。

「彼の雙子の妹のリタに先程の魔に関係ありそうな不審者の報を伝えにいくように頼みましたので、リリアン様や公爵様のところにいると思います。」

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「そうですか……。」

難しい顔をして彼は私の言葉の信憑を見極めているのだろうが、今そこに時間をかけている暇はない。

「あの、先程の魔に関係ありそうな男がおそらくこの先にいると思うのですが、行ってもいいですか?」

強い魔を連れて行するのは難しいかもしれないが、早くしないと逃げられてしまう。

「分かりました、私も同行しましょう。」

そう言って彼は私の後ろをついて來た。

恐らく彼は信用していい。

あの時、もし私を殺そうと思ったら簡単に殺せていたはずだ。

その時、足音が聞こえ、慌てて彼を手で制す。

「誰か來ます。」

小さくそう彼に告げると、彼は私の腹部を支え、を後ろの壁に引っ張った。

その瞬間隠蔽魔法の壁が目の前に張られる。

つまり外部から存在を見えなくする魔法だ。

その隠蔽魔法は、薄く、薄く……まるでシャボンののような薄さだった。

――――――信じられない。

隠蔽魔法はいわゆる結界魔法であり、高等魔法でもあるが、それなりに魔法が使えるものであれば魔力の歪みをじ、察知される上に、結界の壁が厚ければ厚いほど知されやすく、薄れば薄いほど良い。

けれど、より強大な魔力と、繊細な魔力作が求められる。

「――――――サルヴィリオの――――」

目の前の隠蔽魔法に持って行かれていた意識が、男達からその単語が聞こえた瞬間、神経は全てそちらに引き戻される。

「今回は失敗しましたが、サルヴィリオ家の痕跡は殘しています。殘りの奴らも、折り合いを見て放ちます。」

恐らく先程裏路地にって行った男であろう人が、長の一つ結びの男にそう言った。

サルヴィリオ家の痕跡?

「フン。」と鼻で小馬鹿にしたように笑った長髪の男は口元を歪めて言った。

「奴(・)ら(・)に渡されたサルヴィリオ家が魔討伐に使う際の特別仕様の縄を魔につけたままであれば、まずそちらに疑の目が向けられるからな。レグルス家とサルヴィリオ家。この國の二本の守りの要が仲違いしてくれれば、この國も落としやすい。」

その言葉に目を見開く。

「そういえば公爵家にれたメイドはどうでした?」

「連絡がねえからメイドは失敗したんだろうよ。レオン=レグルスは無理でも、公爵家の誰か一人でも死ねば混を生めると思ったんだがな。とりあえず次の指示を待っておくしかねえな。」

「次の指示はどこでけるんです?」

「とりあえずまた來週、『炎亭』で夜に落ち合うことになってる。」

「じゃぁ、それまで遊んでおきますか。」

彼らはそう言いながら笑って來た方と反対側の奧の建の中にって行った。

吐き気を覚えるような話の容に思わず飛び出したくなったが、恐らく彼らはほんの下っ端だ。

彼らから得られる報は恐らくあまりない。トカゲの尾を切られるように、彼らも何かあれば切り捨てられるだろう。

今彼らに何かあれば逆に大を逃すかもしれない。

「アンノ殿。戻りましょう。」

今の今まで彼に著していた事に気づき、慌てて離れる。

「すごいですね……。隠蔽魔法。」

消えた結界魔法に思わず稱賛がこぼれた。

「ありがとうございます。貴方に褒めてもらえるなんて。練習した甲斐がありました。」

「え?」

まるで昔會った事があるかのような口ぶりだ。

「あ、いえ。リリアン様の護衛に抜擢されるような方に褒めていただけるなんてという意味です。」

彼も自分の言葉に不自然さをじたのだろう。

とってつけたような言葉だ。

――――――どこかで?

その時、自分の中で持て余していた引っ掛かりが、突然はずれ、はっと息を呑んだ。

「貴方。私の初陣の時にいた……。」

初めて私に騎士の忠誠をくれた、その人だ。

あの後、騎士団に彼の姿を探そうにもはっきりと顔も思い出せず、なんて不義理な人間だと自分を責めたのを覚えている。

「え?」

今度は彼が驚いた番だった。

「私のことを……覚えていらっしゃるんですか?」

「もちろんよ。あの後サルヴィリオ家の騎士団を辭めてレグルス公爵家に來たのね……。いえ。むしろ初めからレグルス公爵家の騎士の方だったのかしら。」

こんなにも魔力も、魔も一級品なのだ。うちの一兵卒なわけが無い。

「……そうですね。実はレグルス公爵様から新しいサルヴィリオ家の騎士団長がどんな人なのか……、その……。」

「國境を守る騎士団長として問題がないか見てこいってことね。」

彼が言葉を濁したのでその後を引き取った。

なんとも言えない顔をした彼がおかしくて、思わず笑ってしまった。

「それで、私は及第點は貰えたのかしら。」

「え、はい。それはもう。安心してお任せできると……!!」

自信満々の笑顔でそう言う彼の言葉に思わず目を見開いてしまう。

あぁ。しは公爵様に認めて貰えていたのだろうか。

人伝に聞いた私の印象はどんなものだったのだろうか。

「アンノ殿?」

固まった私に彼が心配そうに聲をかけた。

その時はっとして彼を見る。

彼は私がティツィアーノだと知っている。

アンノではなくティツィアーノだと。

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