《パドックの下はパクチーがいっぱい/子大の競馬サークルの先輩が殺された?著ぐるみの中で?先生、どうする? 競馬ファン必見、妖怪ファン必見のライト・ラブリー・ミステリー》3 パドックではペットの放し飼いは

世の中では獨居老人の自殺と、若者の絞殺事件頻発が話題になっておるそうだ。

ワレはワレ。

関心はない。

倭の國ができて以來、數千年の単位で戦に明け暮れ、ようやく數百年ほどの安定があったかと思うと、またぞろ戦爭にのめりこんだ。今は太平だが、だからこそ、年寄りが死んだとか人が何人か殺されたことが話題になっておるらしい。

今、ワレが見ておれと言われているこの連中。

まったく普通の若者。

特別でもなんでもない。

つまらぬ。

なぜ、こんな仕事が。

や、また増えたぞ。

この子だけは、なんとなく、気にっている。

名だけだがな。

雅な名だ。

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「どう? 調子は?」

フウウカ(風雨香)は金髪のポニーテールをピョンピョン揺らしながら、駆けてきた。

「みごと的中?」

「ムリムリ。あんな無茶苦茶なレース」

立派な軀を持ち、額に汗までかいている。

今日もセンスのいい黒っぽい服裝。溫泉旅館を出た時からすでに著替えて、ドレッシーだ。

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「先生、おはようございます。どうでした? 札束、ゲット?」

「一攫千金のために競馬やってるわけじゃないからね」

「ですよね!」

フウカはふっくらしたらしい頬をすぼめた。

以前の満はすっかり影を潛め、顔にのみその名殘を見せる。

人の部類にるし背も高いので、ハルニナやランと同じように目立つ方だが、今、パドックの周りに集まった人の関心を引くことはない。

目の前を歩く馬に興味があるからだが、先ほどのレースが大荒れとなり、その余韻も殘っている。一いくらの配當が付くのかと電掲示板にくぎ付けになっている者も多い。

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ワレはこんな繊細すぎる馬に興味はないが、馬の中にはワレの姿を認めて、緒不安定になるやつもいる。

人気筋が総崩れになったとしても不思議ではない。誰も知らないだろうが。

あいつら以外は。

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「ハルニナって、どうしていつも消えるかな」

ジンがパドックのフェンスを予想誌でバシリと叩いた。

「せっかく競馬場に來てるのに、參加するのはいつも數レースだけ。合宿にも來ないし。意味わからないし」

「今日の目標利益出たからじゃない?」と、フウカ。

「えっ、今の的中した?」

「馬単だったみたい」

「ええっ、それって大の何十萬馬券! 十二番人気、十八番人気の組み合わせだよ!」

ミリッサは言った。

「あいつの口癖。馬が教えてくれる。俺の教えに忠実だからな」

「そんなあ!」

フウカは、「さすがよね」とハルニナを稱えてから、パドックを見つめた。

いつものように予想誌は持たず、無料で配布されている出馬表とパドックの馬とを見比べている。

ジンが、「アイボリーの実家、どうだった?」と聞くが、応えはどことなくつれない。

「実家じゃない。住んだことないって。前に言ったじゃない」

「新たな発見は?」

「興味ある?」

「ない」

昨日は、サークルの秋シーズンの始まりに先立つミニ合宿。

北陸の溫泉宿に一泊旅行。

今朝一番の列車で帰京し、京都競馬場に直行してきたのだ。

フウカだけは用があるといって、溫泉ホテルの前で別れたのだった。

「ねえ、用はなんだった?」

「だから、興味ある?」

「ない」

フウカは四回生。ひとつ下のアイボリーと仲が良い。

前もって約束してあったようで、アイボリーの用事にフウカが付き合ってやったらしい。アイボリーの曾祖母の住んでいた家に向かったということだった。

「アイボリーはもうとっくに競馬場に來てるよ。フウカ先輩、何してたんです?」と、ジン。

フウウカは言いにくいので、単にフウカと呼ばれるのが普通だ。

ミャー・ランを単にランと呼ぶのも同様だ。

「先輩って呼ばないで。競馬じゃ歳の差なんて関係ないんだから。私は私で、ちょっと寄り道」

フウカの言うように、ミリッサは先輩後輩の関係をサークルに持ち込むことをじている。

三回生と四回生のみのこんな小さな所帯で、いかなる形でも上下関係が生まれることは好ましくない。

しかも、競馬。誰が勝者となるか、その日の運。

フラットな関係でいることに越したことはない。

ジンもそれはよく理解しているが、いつも貫録のあるフウカに対してつい口がったというところだろう。

ミリッサも、ジンに軽く批判の目を向けただけで、パドックに目を戻した。

渋い聲。

「警察が來ています」

フウカの肩にしがみついているフクロウが言い出した。

えっ、どこ?

と、フウカが手を挙げて大きく振った。

「こっち、こっち! こっちだって!」

見ると、黒ずくめの背広集団が、パドック脇に設けられた専用カフェの口に集結している。

「知り合いか?」

しかし、ジンもランもどこ吹く風。

「先生、いつものこと」

「ん?」

「フウカの人。刑事。知らなかった?」

「へえ」

「それもかなり自慢の人」

「あそこに?」

「いるみたい」

しかし、背広団の中に、手を振り返す者はない。

「仕事中だもんね」

フウカは自分に言い聞かせて、

「デジちゃん、ちょっと行って、なんの捜査か聞いてきて」と、フクロウに言う。

デジロウと呼ばれるフクロウは渋っていたが、結局、大きく羽を広げた。

さすがに目立つ。

フウカにとって、この迫力も自慢なのだ。

パドックの近くでペットの「放し飼い」は止。

しかも所詮はロボット。

馬の目にらぬように、地面を歩いていくという気遣いはない。

案の定、相を変えた競馬場の警備員が數名、走り寄ってきた。

「はあ」

とフウカがため息をついた。

「元気ないね」

気遣うジンに、フウカはちらりとランに目をやり、

績が」

「ダメっぽい?」

「まあね」

フウカは卒業に黃信號がつくほどではないが、春學期の績がびず、就職先に苦慮しているらしい。

「そのことで、教授に……」

「そんなこと忘れて、今に集中」

「あんたはいいけどね」

ジンは績優秀。ランにいたっては、全學一千名の中から最優績者表彰をけている猛者である。

派手な羽音を響かせ、腕を振り回す警備員の頭上を掠めて、デジロウが戻ってきた。

やはりロボット。本なら、こんな大きな羽音はたてまい。

「ノーウェの聞き込みをするそうだ。これから散會して、始めるらしい」

ミリッサはじめ、ジンもランもフウカも、ギョッとした顔を見せた。

「ノーウェの……」

「どうした? みんな変な顔して」

サークルのメンバーがもう一人増えた。

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